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81:【鬼軍長】シュテンvsミノタウロス



 ダンジョンと言えばミノタウロス。

 ビーツは熱くそう語るが、それに共感出来るのは同じ転生者である【魔獣の聖刀】のみである。

 この世界においてそんなイメージは存在せず、ヴェーネスが一〇階層のボスとして配置したのは単に『適度に強く、コストパフォーマンスが良い』という理由だった。


 ミノタウロスはサイクロプスと同じ巨人系の魔物であり、金級冒険者パーティーの討伐対象というのも同じである。しかしサイクロプスが金級下位でも戦えるのに対し、ミノタウロスは金級中位程でないと討伐は難しいと言われる。

 それはサイクロプス以上に素早く、武器もサイクロプスが棍棒なのに対しミノタウロスは斧であるというように、冒険者にとって脅威となる要素が多いからだ。


 しかしダンジョンマスターからすると話しは変わる。

 サイクロプスとミノタウロスの配置する際の必要魔力量は多少違う程度。若干ミノタウロスの方が多いが、そんなものはすぐに回収出来るレベルだ。何せミノタウロスの方が探索者の撃破率は高いのだから。

 コストパフォーマンスが良いというのは少ない魔力量で配置し、魔力をより多く吸収出来るという事。その点ミノタウロスはダンジョンにとって優れた魔物と言える。



 しかしダンジョン魔力長者であるビーツはそんな考えなどお構いなしに「いやぁやっぱダンジョンはミノタウロスですよね!ヴェーネス陛下は分かってるなぁ!」とひとしきり感心していた。

 ヴェーネスは「何言ってんだこいつ」とでも言うような目で見ていたが、ふと我に返る。



『……それでビーツ殿。いかがされました?』


「あ、すみません、脱線しちゃいました。えっと、【奈落の祭壇】( ここ )のボスってスポ……″沸き立つ穴″なんですか?それとも手動配置でしょうか。倒していいものか悩んでまして」



 魔物を倒してからリスポーン、再配置する際には当然魔力を消費する。

 例えばゴブリンを手動で再配置すると5P。しかし″沸き立つ穴″から自動で再配置する際には1Pしか掛からない。その分″沸き立つ穴″の設置にはゴブリンの場合であれば50Pかかるが、十体で元をとれる為、よほどの緊急事態でもなければゴブリンは″沸き立つ穴″が基本となる。

 魔物によっては二十体で元をとれるものも居るし、百体でなければ元をとれない魔物も居る。


 ビーツとしては、もしミノタウロスが手動配置であった場合、倒してしまっては再配置に余計な魔力を消費させてしまうので、その場合は次の階層に転移させて貰ったほうがいいのでは?と悩んでいた。

 もちろん転移にも魔力が掛かるので、ヴェーネスにどちらが良いか決めてもらうつもりであった。



『なるほど。【奈落の祭壇】( うち )で手動配置の魔物は三〇階層のダンジョンボスのみです。しかしそれも含め、倒して頂いて結構です』


「いいんですか?分かりました。では遠慮なく」



 冒険者内で有名な高難易度ダンジョン【奈落の祭壇】のダンジョンボスでさえ「どうせ倒せるんでしょ?どうぞどうぞ」というような扱いである。

 ヴェーネスの中ではすでにビーツと【三大妖】によるダンジョン制覇は当たり前の事として決定されていた。今まで集めた情報や言動を見るに、つまずく要素が微塵も見られない。

 であるならば、実際に制覇してもらって、その意見を聞きたい。

 ビーツによる【奈落の祭壇】の評価というのは、長年一人で苦悩してきたヴェーネスにとって、何物にも代えがたい物であった。少なくともボスの再配置魔力など惜しくない程度には。

 ……【三大妖】のおかげで大幅な黒字だし、などとは全く考えていない。うん、考えていない。



 ヴェーネスの返答を受け、シュテンに「倒していいってさ」と伝える。

 シュテンの笑みが増した。



 ダンジョンの魔物と地表の魔物の違いは色々とある。

 ダンジョンの魔物を倒すと死体が残らず光となって消えるのは有名だ。


 それ以外にもあまり知られていないが、ダンジョンの魔物は食事を必要とせず、食欲もないという事実がある。

 これは魔物同士で殺し合い、食い合うという地表の魔物に対し、ダンジョンの魔物が同じ事をすれば死体が光と消えるので食べる事が出来ない為だと思われる。少なくともビーツはそう考えている。

 それ故、食欲自体が存在しない。餓死などもしない。ダンジョンに配置される野生動物などは光に消える事はないので食す事は可能だが、腹が減って食うというより趣向として食すという感じだ。


 また、食欲が消えた代償というべきか戦闘意欲が増している。

 地表の魔物に比べ戦う意識が高い。逃げる事など滅多にないし、探索者を見つければ即座に襲い掛かる。

 これもまたダンジョンの魔物と地表の魔物の違いと言えよう。



 話しが脱線したが、要は地表に居るものよりも戦闘意欲の高いミノタウロスが「ブモオオオオオ!」と叫びながら斧を叩きつけているのだ。

 辺境の森を抜けて【奈落の祭壇】へと入れるのは銀級冒険者パーティーでも可能だが、フロアボスが立ちはだかる限り、十一階以降へは行けない。

 そう感じさせるまさしくボスであり、探索者にとっての試金石である。どこぞのゴブリンキングとは違うのだ。



 一方、主の許可が出たシュテンは攻撃に転ずる。


 今までミノタウロスの斧を受け続けていた自らの武器で軽く押し戻し、ミノタウロスの体勢を少し下がらせる。

 上段に素早く構え。

 声を出す事もなく、息む事もなく、ただ振り下ろす。

 一閃。


 防御の為に振り上げた斧も綺麗に割れる。

 ミノタウロス自身の巨躯も左右に綺麗に割れる。

 通信鏡でその様子を見ていたヴェーネス達には目で追えない速度での斬撃であった。



『…………シュテン殿の武器は棍棒かと思いましたが……やはり″刀″なのですか?』



 ビーツと【百鬼夜行】の情報を調べる中で『シュテンの武器は巨大な刀』という事は知っていた。英雄譚にも書かれている。刀という『剣に比べ使いづらく使用者が少ない武器』を好んで使っていたクローディアと、それに合わせるようにシュテンも武器を刀とした、と。

 しかしヴェーネスが通信鏡越しに見るシュテンの武器は、シュテンの身長ほどもある分厚い棍のような金属の塊に一メートル弱の柄がついたモノ。

 ヴェーネスたちが情報で知る″刀″にはとても見えず、どう見ても″金属製の棍棒″であった。


 ……が、それでミノタウロスを綺麗に分割したのだ。

 刃物による斬撃以外にありえない。



「ええ、シュテン専用の特注です」


『ものすごい武器ですね……』


「さすがヴェーネス陛下は良い目をしている!これなるは主殿より賜った『斬竜刀・鬼炎弐式』!アダマンタイトの心金に不可能とされたアダマンタイト合金の側金!棟金と刃金はミスリル合金!それにより我が火属性魔法も乗せる事が可能となった、世界で唯一の魔法刀でもあるのだ!まさしく世界一の主の従魔として相応しい世界一の刀と言えよう!」



 刀を褒められた事に気を良くしたシュテンがかつてない程に語るのを、ビーツが何とか抑えた。


 『斬竜刀・鬼炎弐式』。

 シュテンが扱える刀として【魔獣の聖刀】メンバーと悩んだ結果、案として出たのが『斬馬刀』であった。それを何とかドワーフ鍛冶師に伝え形となったのは持ち上げる事さえ困難な鉄塊。

 通常の刀の断面が鋭い二等辺三角形であるならば、正五角形に近い代物であり、刃など気休め程度にしか存在しない。ただただ折れず曲がらずを追及した物、それが『斬竜刀・鬼炎』。


 それをベースにバージョンアップを実施したのはビーツと従魔鍛冶師のモクレンである。

 加工が困難なアダマンタイトをダンジョン機能で強引に合金化し、ビーツの従魔となって能力の増したモクレンの全力を持って作られたそれは、魔法を乗せやすいミスリルも合わせる事で、シュテン得意の火属性を乗せる事も可能とした。

 この世界に魔法剣というものが存在しない今、おそらく世界で唯一の魔法剣、いや魔法刀である。


 しかし真に恐ろしいのは武器そのものではなく、造り出したビーツやモクレンでもなく、そんな鉄塊を目にも止まらぬ速度で振るい、ミノタウロスを真っ二つにしたシュテンの力と技量であろう。



『な、なるほど……。それほどの武器ですか……』


「ヴェーネス陛下なら振れるんじゃないですか?」



 獣人以上の膂力を持つとされる吸血鬼。しかも始祖吸血鬼であるヴェーネスであれば扱えるのでは?とビーツは考えた。

 後日、試しに持たせてみた。

 ミラレースは持てはするが、振るのが困難。

 ヴェーネスは振れるが叩きつけるだけ。

 ビーツは持ち上げようとしてもピクリともしなかったと言う。




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