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76:ビーツ、意外と戦う



 この大陸は『リング』と呼ばれる。

 中央部に魔族領、それをぐるりと丸く囲むように天を貫く山脈が連なる。

 山脈の外側と海に挟まれるように諸国がさらにぐるりと囲む。

 俯瞰すれば二重の円となるが故にリングだ。


 大陸北側に王国サレムキングダム。北西に獣王国、北東に神聖国。

 西部には通商連合の各国が集まり、東部の山脈側に樹王国がある。南には帝国だ。もちろん他にも諸国がある。


 どの国にも言えるが、魔族領との境となる山脈付近は魔物が強い。

 人が寄り付けないが故に開拓も進まず、そこは【辺境】と呼ばれる。

 王国で言えばビーツの故郷である村のさらに南に広がる森であり、獣王国であれば同じく南東に広がる森である。


 通常の森でよく見かけられるゴブリン、コボルト、ウルフ系やラビット系の魔物はほとんど見られず、それより上位のホブゴブリンが多く見られるなど、辺境の森の生態は恐ろしい。

 そんな森に挑む冒険者は鉄級・銅級といった低ランクでは入る事すら許されず、最低でも銀級以上が推奨される。


 【奈落の祭壇】がある断崖はそんな辺境の森に入り数時間潜った先にある。

 ただでさえ魔物の多い辺境の、方向感覚を狂わす森の中。

 道のりを完全に覚えた冒険者でなければ断崖に辿り着くことさえ不可能だろう。


 ――そんな森を悠々と進む一行があった。


 いや、″悠々と″と言うよりも″嬉々と″と言ったほうが良いかもしれない。

 一行のリーダー的存在が楽しそうなのだから。





「ビーツ殿、このまま進みます。そろそろオークとキラービーが出てきますのでご注意を」

「了解ですっ!」

「マスター、左前方。ハイコボルト六体」

「了解っ!」


「ビーツ殿、ノリノリですね……」

「よい顔でありんす」

「久しぶりの実戦だからな。主殿が楽しそうで何よりだ」



 先頭を進むのは案内役、劣化吸血鬼のサイモン、斥候のオロチ、そしてビーツ。

 後ろは隊列も何もなくただ付いて行くだけ。

 ミラレースは苦笑いで、タマモ・シュテンは笑顔である。劣化吸血鬼の他三名は一応後方を警戒している。


 本来ならば護衛役の吸血鬼たちが魔物の掃討を行うだろう。

 もしくは【三大妖】で殲滅していくのもアリだ。

 しかし、ここまでビーツはほとんど一人で戦っていた。


 ヴェーネスに色々とお土産を持ってきたのでシュテンとタマモに大きな背嚢を背負わせているというのもあるが、数年ぶりの冒険を楽しみたいというビーツの欲求があった。

 何より辺境の森というのはビーツにとって遊び場である。

 幼少の頃から入り、数々の従魔を仲間とし、またその従魔たちと夜な夜な遊んだ場所。

 ある意味エルフ以上に森に慣れていると言ってもいいだろう。


――シュバン!シュバン!


 森に不向きなはずの鞭を自在に操り、接近してきた敵にはサブウェポンとして左手に持つ手斧で対処する。

 鞭と手斧の柄の先には魔石が埋め込まれ、ワンドのような役割も持つという特注品だ。

 これにより得意の闇属性魔法と、限られた魔法しか使えないが土・水の属性魔法も武器を持ったまま使える。



「しかし、これほどとは……」

「思っていたより強かった、と?」

「ええ、正直戦えないと思っていました」

「当然でありんす」



 ミラレースたちはビーツの事を調べている段階で「強大な戦力の従魔を抱えた召喚士であり、本人の戦闘力は低い」という評価をしていた。

 おそらく誰に聞いても、そして本人に聞いても同じ事を言うだろう。

 確かにアダマンタイト級冒険者と考えればベン爺やフェリクスとタイマンしてビーツが勝つとは思えない。個人の戦闘力は他のアダマンタイト級のそれより低い。従魔が強いからアダマンタイト級を名乗れると、それは召喚士として正しいのだろう。


 しかし純粋な吸血鬼であるミラレースや元冒険者のサイモン達からして、ビーツの個人戦闘力は最低でもミスリル級と思えるものだった。

 伊達に英雄パーティー【魔獣の聖刀】の一角ではない。

 召喚士らしく従魔任せでのし上がったわけではなく、実戦と努力の積み重ねを感じる戦いぶりであった。


 ちなみに装備はこんな感じである。


――――――――

名前 :ビーツ・ボーエン

種族 :ダンジョンマスター

二つ名:百鬼夜行

職業 :召喚士・鞭術士

ランク:アダマンタイト


武器 :竜蜘蛛の魔法鞭

    闇のハンドアクス

防具 :竜蜘蛛のローブ

    海竜の手甲

    海竜のブーツ

――――――――


 竜蜘蛛シリーズは、シュタインズから譲り受けた″竜皮の鞭″と″ドラゴンローブ″をジョロの糸と共に魔改造したものである。

 魔法鞭となっているのは前述したとおり魔石を埋め込んでワンドとしても用いる為。

 手斧も同じく闇属性の魔石を埋め込んでいる。

 海竜シリーズはシーサーペントの皮で作った、防御力・軽さ・伸縮性に優れた高級素材であり決してアヤカシから剥ぎ取ったわけではない。



「マスター、右前方からオーク一二体」

「多いよ!オロチよろしく!」

「ん」



 普段おどおどしているビーツからは想像できないテンションの高さで、一行は徐々に【奈落の祭壇】へと近づいていた。





 後日、獣王国のどこかの街、冒険者ギルドにて。



「……おい、何この依頼」

「なになに?……暴走馬車?スレイプニル一体の討伐?」

「ふざけんなよ。スレイプニルなんてこの近辺じゃ出ないだろ」

「いや暴走馬車ってくらいだから、どっかの貴族から逃げだしたんじゃないか?」

「うわぁ。それは酷い」

「どっちにしろ無理だろ。高ランクじゃないと」

「だな。被害が出てるわけじゃないんだろ?無視だ、無視」



 そんな会話がされていたらしいが、それを当のスレイプニルと飼い主が知る事はなかった。




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