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75:ビーツ、暗殺者に襲われる



 獣王国との国境に辿り着くまでに要した日数は、結局六日であった。

 偏にサガリの頑張りのおかげである。

 しばらくぶりの遠出という事でテンションが高かったのは言うまでもない。


 山賊の襲撃は計四回、五八人に及ぶ。

 街で衛兵に引き渡すなどせず全て殲滅となったが、どれも山賊に扮した傭兵団や騎士ではなく本物の山賊と思えた。

 頭領格に尋問したところ、四組ともどこかからの依頼であり、依頼人は見た目も名前も違う者。別々の四人が四組の山賊団に依頼したようであった。


 街や村に泊まった際は宿への襲撃も二回あった。

 貴族用の高級宿にも襲撃しようという暗殺集団。山賊と違い明らかなプロである。


 寝静まった深夜、宿を囲むように十名以上の男が潜む。

 黒服に身を包んだ男たちは音もなく近づき確認したビーツ・ボーエンの部屋へと迫る。


 ……が、迫ろうとはしたものの結局、迫れなかった。


 影に潜む者たちを狩ったのは、実際に影から出でた少女だった。

 まるで「闇夜での暗殺とはこうやるのだよ」とでも言うように見本のような暗殺返し。

 暗殺集団に対する暗殺。

 それを片手間で行った少女……を模した魔物はこう語る。


 「ん」と。

 語るまでもないという事だろう。

 一応、一人は捕らえ尋問してみたものの、詳細は掴めなかった。





「派手だな」

「ですね」



 国王エジルの執務室では、エドワーズ王子、ベルダンディ宰相を前にアレクとフェリクスが報告を行っていた。

 ビーツから毎日送られる念話報告はジョロからヤタたち飛行できる従魔によりアレクの元に伝わっていた。それを国王と王子に報告し、宰相とフェリクスが動くといった事がここ数日の日常である。

 派手と評したのは襲撃者のペース・量であると共に、これに対するビーツの働きも含まれる。派手な襲撃に対して派手な返り討ちだと。

 これでビーツ本人は「目立ちたくない」と言っているのだから困ったものである。


 が、派手なのは別段悪いことではない。

 それにより貴族区の一部が活発化しているのが如実に分かるからである。

 実際、フェリクスの諜報活動によりわずか数日にして大よその形が見えていた。



「フレイド侯爵か……」

「まだ怨んでいたんですね。もう七年にもなるのに」

「侯爵一派としてザムエラ男爵、ロベルク子爵、ドムザ子爵もおります」

「ロベルクとドムザに動きはないのであろう?」

「一応注視します」



 かつて人類の敵対者と呼ばれた魔族との長年に渡る戦争。

 王国は立地的に魔族との戦争というものはなかったが、隣国である獣王国と神聖国は戦い続けていた。

 これにより王国で恩恵を受けたのは所領に鉄鉱山を持つフレイド侯爵であった。

 しかし約七年前の【魔獣の聖刀】による魔族討伐で戦争は終わった。鉄の輸出が極端に減る。溜めこんだ在庫が捌けず、暴落とまでいかずとも売値が下がる。


 その後アレクは宮廷魔導士長となって悪感情を持たれているのは知っていたが、誰もがそれは逆恨みだと分かっており、七年も経った今では薄れていると思っていた。

 しかし今回明るみに出た。

 未だに怨んでいたのかというのが部屋に居る全員の思いである。


 それにしても速く動いたものだと感心もする。

 ビーツが王都を出てからまだ六日。遠征の話しを広めてからまだ一三日。

 この好機を逃すまいと頑張って動いたのだろう。

 どんだけ怨んでたんだよというのが部屋に居る全員の思いである。



「フレイドら以外にも動く可能性はある。ベルダンディ、ガストールに伝えよ。フレイド邸に限らず貴族区に目を光らせよとな」

「はっ」

「アレク、王城で動くとは思えんが一応気を付けよ」

「はい」


「エドワーズ、【百鬼夜行】に変わりないか?」

「現状、問題ありません。従魔たちはむしろビーツが居ない事で張り切っております」

「うむ」

「ただ……」

「どうした?」


「……張り切りすぎと言いますか、抑止力が居ないと言いますか、暴言を吐く新規探索者への″仕置き″が通常より増しております」

「…………アレク」

「お任せを。すぐに行ってきます」



 フレイド侯爵に比べれば軽い問題であるが、頭を抱えざるを得ない。

 強力な従魔たちがやる気を出しすぎては困るのだ。


 自分があまり動けないアレクはクローディアを使う事を決めた。

 あの侍ガール(おっさん)に常駐させようと。





 獣王国へと入国したビーツらは、街道をそのままひた走る。

 街を一つと村を二つ、そこからは辺境の森に入る必要がある。

 獣王国へと入った途端に山賊や暗殺者の襲撃はなくなった。

 順調な旅は入国してから三日目、王都を出てから九日目にして【奈落の祭壇】へと続く辺境の森へと入る。



「サガリ、本当に村の厩舎じゃなくていいの?」

「ブルルゥ」

「そっか。じゃあ十日くらい馬車よろしくね。誰か来たらこの書状見せてね。あとは念話で報告で」

「ブルルゥ」


「ショーラもサガリと待っててね」

「キキッ」



 実はバグリッパーのショーラも馬車の屋根に張り付いて来ていた。

 【三大妖】とサガリでは飛べる者が居ないので一応連れて来たのだ。

 馬車が森へ入れないので街道の端に馬車を停め、サガリとショーラはその番として残る事になる。

 まぁサガリと馬車の連結はサガリ次第で付け外しが可能なので、どこかに遊びに行くのかもしれないが。



「じゃあ森に入りましょうか。皆さん、道案内お願いします」

「承知しました」

「やっと道案内らしい事が出来ますね」



 これまでただ馬車に揺られるだけだった吸血鬼たちはやっと出番かと少し嬉しそうであった。【奈落の祭壇】に近づいているので余計に喜んでいるのだろう。

 ビーツもまた、ようやく冒険らしくなってきたと嬉しそうだ。

 普通の冒険者ならば気構えする″辺境の森″。

 ビーツにとっては遊び場のようなものだ。


 久しぶりに実践で使えそうだと右腰に下げた愛用の鞭を握った。




タイトル詐欺ですね。

× 暗殺者に襲われる

○ 暗殺者に襲われる予定だったがその暗殺者が虚無に消えた為未遂

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