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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第五章 焦燥のヴァレンティア
73/170

72:【百鬼夜行】案内、ロスタイム



 ダンジョンコアを見せるわけにはいかないので、管理層の案内は以上となる。

 本当はもう少しあったが、見せてもあまり意味ないだろうというのが一つ。

 そしてテンションの上げ下げが激しかったヴェーネスに「もう休ませたほうがいいんじゃ?」と心配したのが一つ。

 そんなわけで、【百鬼夜行】の説明を終了とした。



『ビーツ殿、大変参考になりました』


「それは良かったです。今度そちらに伺う時はよろしくお願いします」


『正直、ビーツ殿が驚く事などないと思いますが……しかしその際は歓迎いたします』



 ヴェーネスは満足そうな表情で通信を切った。

 タマモがミラレースに通信水晶を返す。



「タマモ殿、長時間に渡りありがとうございました」


「問題ありんせん」



 いつもの如くそっけないタマモの表情からは魔力切れの様子は見えない。ミラレースは改めてそれを脅威に感じる。


 じゃあミラレースら五人も帰ろうかという所で、ビーツが待ったをかけた。



「もうお昼ですから、食事でもどうです?うちの食堂も自慢なんですよ」



 ヴェーネスたちと通信しながら食事するわけにもいかなかったので、通信を切ってから切り出したのだ。

 そう誘われてミラレースは考える。

 正直自分も驚きすぎて疲れてはいるが、ヴェーネスからは「水晶に映らないところをよく見るように」と言われていた。

 食事もそれに当たるのでは、と。

 結局、食事の誘いにのったミラレースたちは食堂へと向かう。



「あ、血とかないですけど大丈夫ですか?普通の料理なんですけど」


「問題ありません。血を飲むのは趣向のようなものなのです。吸血鬼にとって絶対に必要な量というのは微々たるものなので」


「へぇ、そうなんですね。それは魔物とかの血でも良いんですか?」


「魔物の血はマズくて飲めたものではありません。必要に迫られない限り飲むことはないでしょう」



 そんな話しをしながら食堂に着く。

 シルキーのオロシに声を掛け、テーブルを囲んだ。


 丁度昼食をとっていたホーキとマールとも一応挨拶を交わす。

 幸せそうに頬張っていたマールが緊張に包まれたのは言うまでもない。



「こ、これはっ!」



 本日の昼食はトマトベースのブイヤベースパスタとサラダ。

 軽めではあるが手間暇が掛かっているオロシ渾身の一品である。



「おお、コロモの差し入れかな?ミラレースさんたち海鮮は大丈夫ですか?」


「はいっ、大丈夫です」



 見たことのない、食べたことのない料理。

 見た目と香りに圧倒され、口に入れればなんと複雑な味か。

 気が付けば夢中でフォークを動かしていた。

 そこにヴァレンティア王国幹部とその眷属としての姿はない。

 劣化吸血鬼たちは三杯食べ、ミラレースも二杯を完食した時点で正気に戻った。



「喜んでもらえて良かったです」


「お恥ずかしい限りです……。とても美味しかったです……」



 恐縮したミラレースに追い打ちをかけるようにビーツは言う。



「じゃあ最後にお風呂行きましょうか!」


「えっ」





 その頃、サレムキングダム王城、国王の執務室では錚々たる顔ぶれが集まっていた。

 エジル国王の他、エドワーズ第一王子、ベルダンディ宰相、ガストール軍務卿、ヘスティン内務卿、アレキサンダー宮廷魔導士長。国のトップの面々だ。

 エジル国王が口を開く。



「さて、話しは行っていると思うがビーツが獣王国へと旅に出る。期間はおよそ一月。何が起こるか大体想像はつくであろう?」


「陛下、何故急にビーツ・ボーエンが旅などと……」


「【奈落の祭壇】の造りを調べるそうだ。そしてそれは国益にもなる。ダンジョンコアを奪取したり管理者と接触は考えない。あくまで探索だ」



 ガストール軍務卿の問いにそう答えた。

 軍務卿と内務卿は吸血鬼の存在を知らない。噂が広がり混乱を招くのが容易に想像つく為、真実を流すわけにはいかない。



「これはまたとない機会と見る。ベルダンディ、ヘスティンよ、国内に周知させよ。なるべく広く知らせる様にな」


「「はっ!」」


「エドワーズ、ギルドと【百鬼夜行】は任せる。対応策と実施策を考えておけ」


「はい」


「ガストールは警戒を密にな。特に【百鬼夜行】周りの観客や一般職員、周囲の店だ。敷地内は問題なくても一歩外が一番危うい。合わせて貴族区の警戒もだ」


「はっ!」


「アレキサンダー、お前は王城の警戒だ。それとビーツの従魔たちと連携をとれ」


「はっ」



 エジル国王は指示を出し終えると退室させ、息を吐き椅子の背もたれに寄り掛かる。

 そしてフェリクスへの指示を考えた。こちらが本命だ。

 ビーツという王都最大戦力の一時的離脱。

 しかしその顔に悲壮感はなく、むしろ笑みを浮かべていた。



「さて、落とし穴にはどれほど嵌るか」





「これはすごい……ッ!」



 ミラレースはタマモ、シュテンと共に大浴場に来ていた。

 ビーツは劣化吸血鬼の四名を案内する為に男湯に行っている。


 脱衣所のランドリーやドライヤーに驚く。

 服を脱いだシュテンとタマモを見て凹む。

 大量の湯を使った数々の風呂を見て驚く。

 その中でも特に驚いたのがシャンプー・リンス・ボディーソープであった。



「こ、これをヴァレンティア王国(うち)に持ち帰ることは……」


「念話で聞いてみましょう。……文房具とかと一緒にお土産にするそうです」


「なんとッ!ありがとうございますッ!」



 ミラレースに浴場の使い方を教えているのはシュテンだ。タマモは自分の尻尾を洗うのに忙しい。一回の入浴でリンス二本使うのだ。

 ちなみに「これは報告しなければ!」と水晶の使用許可を求めたミラレースであったが「風呂場での撮影は禁止です」と言われてしまった。ビーツ的には当然である。自身や管制担当の″センス″でも映さないようにしている。



「主殿は演算室に一番力を入れたと仰っていましたが、おそらく一番拘っていたのはこの大浴場だと思います」


「分かります。これほどの空間、設備、道具……いくつもの発想を形になさったのでしょう。さぞご苦労されたのだと思います」


「ご主人の趣味が一番色濃く反映されていんす。おかげで従魔も風呂好きが多い事」


「タマモは嫌いだろう?」


「わっちは洗うのが大変なんで。手伝ってくんなんし」


「ふふっ、たまにならな」



 強大すぎる力に恐れを抱いていたミラレースであったが【三大妖】の人間味を見た気がした。

 そして当然の如く長風呂となった一行は、頭から湯気を出したまま管理層を後にしたのだった。

 その顔は皆、満足気であったという。




ビーツ「クックック……風呂の虜がまた一人……」

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