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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第五章 焦燥のヴァレンティア
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71:【百鬼夜行】の運営の要



 日本の御伽話における大妖怪、大嶽丸をご存じだろうか。

 よくある「最も強い妖怪は?」という問いに対して必ずと言っていいほど登場する鬼である。


 伝説の内容を要約するとこうだ。


 帝に大嶽丸の討伐命令を受けた″坂上田村丸″が″鈴鹿御前″に助力を求めた所、「大嶽丸は三明の剣(さんみょうのつるぎ)に守護されているうちは絶対に倒せない」と言われてしまう。

 三明の剣とはすなわち、顕明連、大通連、小通連の三振りの剣。

 結果、鈴鹿御前の策により三明の剣を手放した大嶽丸は田村丸によって討伐されてしまう。

 その後の戦いもあるのだが、ここでは割愛しよう。



 ビーツがオオタケマルをダンジョンボスとしたのは最強であるから。

 そして【三大妖】を守護者としたのは三明の剣を意識したからである。

 そんな事をヴェーネスたちに話した所で伝わるわけもないし、あくまでビーツの自己満足である。


 そんな事情を知る由もないヴェーネスたちはただただ言葉を失っていた。

 モニターに映る″眠り竜″。

 エンシェントドラゴンとは聞いた事のない種であるが、見ただけで他の竜種と異なると分かる。強い存在、畏怖する存在だと分かってしまう。

 そんな中、ミラレースが言葉を発した。



「ま、まさか……百番目の従魔?」



 ビーツの情報を集める過程で耳にした「【百鬼夜行】の七不思議」。

 巨大絵織物にてビーツの横に立つ、角の生えた少女。

 目の前に映る最強の存在とは到底結びつかない。

 しかし消去法でそれしか考えられない。あの竜があの少女なのか、と。



「竜が人化……変化を使えるのですか!?」


「ん?ああ、ホールの織物の事ですか?あの絵、ネタバレ防止の為に尻尾は描かれてないんですよねー。まぁオオタケマル曰く、″人化″じゃなくて″竜人化″らしいんですけど」


「『竜人!?』」



 軽く肯定したビーツに吸血鬼たちは更に驚く。

 吸血鬼が地表に存在していた四百年以上前から御伽話であった″竜人″という種族。すでに絶滅しこの世から消えたとされる″人種″。

 その御伽話が今、誤りだと知らされた。

 竜人とは人種ではなく竜が化けた姿なのだと。

 その事実、その歴史的価値を分かっていないかのようにビーツは振る舞う。


 ……実際、分かっていないのだが。

 オオタケマルを従魔とし竜人化を見た時も「へぇすごいね」で済んだし。

 そして後日、存在を知ったエドワーズ王子とユーヴェにより緘口令が布かれ、以来口外禁止となったのは言うまでもない。ちなみに同様に存在を知ったシュタインズは興奮のあまり気絶した。



『……なるほど。これは管理層への階段を隠す必要などないですね。突破できるわけがない』


「でしょ?【三大妖】倒してもオオタケマルが居るんじゃ私たちには無理よ」


「えっ、その言い方ですと【三大妖】は倒せると……」


「アハハ……まぁオオタケマルも倒せるような人が来たら隠しても無駄でしょうしね。それが悪人だったら素直に管理層で百体掛かりで倒そうかな、と」


『素直にダンジョン譲渡するのではないのですね……』



 ヴェーネスの言葉にクローディアが答え、ミラレースが疑問を持ち、ビーツが自爆する。

 そうして一通りのダンジョン解説を終えた。





 管制室を出てからも続く管理区画の案内。次は宝物庫である。

 オークキングのカタキラと挨拶を交わし、アイテム収集からの再利用や魔力変換について説明した。

 オークたちが肉体労働している光景にヴェーネスたちは最初面食らったが、宝物庫の意味合いは理解したようだ。


 管理を一人で行っている【奈落の祭壇】では死亡した探索者を転移させ、アイテムを利用するといった事をしない。

 死ねばそのままダンジョンに魔力として吸収させるか、落とし穴等で五体満足のまま死亡扱いになった探索者が吸血目的の為に管理層の牢獄に転送されるかの二択である。

 ちなみに後者の場合、吸血のみで終わるか、眷属にするかはその時の判断による。


 ヴェーネスから見た【百鬼夜行】の宝物庫は節約という点では大きく評価できるが、問題は管理と維持に人的・魔力的コストが掛かるだろうという点であった。

 しかし一向の余地があるのは事実。今後協議の対象となるだろう。



 さらに宝物庫を出て次の部屋に向かう。



「ここが【百鬼夜行】(うち)の管理の要です。一番、見せたいところでもあります」


『……演算室……ですか?』



 珍しくドヤ顔で自信たっぷりのビーツが演算室と書かれた扉を開ける。

 応接室程度のこじんまりとした部屋だ。管制室と宝物庫の後だと猶更そう思えた。

 しかし部屋の中央、机とモニターに囲まれた異形を目にし、ヴェーネスたちは一瞬言葉を失った。



「【ツルベエ】、お邪魔するね」


「…………」



 それは単眼の浮かぶ球体。それだけでも異様だが球体を構成しているのは数百にも及ぶ蛇の群れだ。群れの中央にギョロリとした大きな単眼がある。

 蛇たちは何やら机に置かれた板をカチカチと忙しなく叩き、卓上モニターを眺めている。

 その魔物は「ようこそ」とでも言うように蛇の一本を手を振るように迎えた。

 部屋の主はツルベエという名前、ゴーゴンヘッドという種族の魔物である。



「えっと、この演算室はダンジョンの全データの集積所です。で、管理しているのがツルベエです」


『データの集積……ですか?』


「あーっと、例えば百人の探索者が同じ階層に入ったとして、大勢がかかる罠と誰もかからない罠ってありませんか?」


『……それは、ありますね』


「だったら配置を変えたり、罠の種類を変えたりってしないと魔力の無駄ですよね。そういった過去の統計とか、宝箱の中身の確率とか、その入手確率とか、色々なデータをまとめているんです」


『なんと……!それはすごい!』



 もちろんダンジョンを一人で管理しているヴェーネスに出来る事ではない。

 しかしその有用性はよく分かる。


 ビーツは魔物一体当たりのドロップ確率や従魔スロットの確率、迷宮などでの探索者が通りやすいルートの統計なども行っていた。というかツルベエに頼んでいた。

 これは管制担当以上に情報処理能力が求められる事で、同時に数百匹の蛇を操るツルベエが適していたのだ。

 ビーツはこのデータを参考にダンジョン運営を行っている。

 余談だがビーツの元へと来る日々の報告書で一番多いのが演算室からのものである。


 このデータ管理をするに当たり、ビーツは他の転生者三人の協力の元、不格好ながら三台のデスクトップパソコンを作成した。ソフトは表計算ソフトのみであるが苦労は膨大であった。

 はっきり言って、管制室の全モニターより三台のパソコンの方が作成時の魔力は多い。

 それほどまでにデータ管理を重視した結果でもあるし、ヴェーネスに一番自慢したい所でもあった。



「――と、そんな感じで日々の入場者数とか吸収した魔力量、消費した魔力量とかも見る事が出来ます。魔物のドロップアイテムとかも、調べてみると意外と吸収魔力量に合ってない……赤字が出やすい魔物とか居て、そういった場合はドロップアイテムや確率を修正します」


『これは素晴らしいです!今すぐにでも導入したいところです!』


「あー、これをそのまま【奈落の祭壇】で使うのは難しいと思います」


『なっ!?』


「まずパソコンにデータを集約する為に、それぞれのデータの集積所を設けないといけません。それ以外にもダンジョン中に細かい魔力線(パス)がいくつも通っていると思って下さい。それらを設置するだけでも一苦労で、しかもそのデータを演算室のパソコンに繋げたところでツルベエ並みの情報処理能力がないとまとめる事が出来ません」


『そ、そうですか……』



 見るからにがっかりするヴェーネスと対照的に褒められたツルベエは蛇の一本をドヤ顔にしていた。

 ヴェーネスもビーツの言いたい事は分かるのだ。

 探索者の動き、魔物の状況、罠や宝箱の状況、全てを把握するにはそれを自動で認識する装置とそれを繋げるパスが必要だと。自分も罠の作動など自動で行うようにパスを利用しているのだから想像はつく。


 しかし『ダンジョンの管理とはこういう事だ!』と見せつけられた気分なのだ。

 是非とも活用したいと思うのは四百年ダンジョンマスターを続けたが故の職業病のようなものだろう。



「えっと、でもですね。そのままは無理でも真似できる部分はあると思うんです」


『本当ですかっ!』



 途端に元気になったヴェーネスがビーツに食いつく。



「はい。パスの繋ぎ方やパソコンは僕が造り方分かりますので伺った時にお教え出来ますし、とは言え消費魔力が膨大なので、例えば始めは入場者の自動計測のようなものだけを造るという事も出来ます」


『おお!』


「宝箱だけに絞って集計するとかでもいいですし、魔物の討伐や探索者の動きとかは難しいと思いますけど……」


『構いません!是非ともお願いします!』



 すっかり元気になったヴェーネスであったが、ミラレースを始め幹部たちはその様子を若干引きながら見守っていた。

 「ヴェーネス様、こんな方だったっけ?」と。





■百鬼夜行従魔辞典

■従魔No.85 ツルベエ

 種族:ゴーゴンヘッド

 所属:蛇軍

 名前の元ネタ:釣瓶落とし

 備考:数百匹の蛇を操る演算室の主。

    眷属の情報を統括する管制担当と違い、蛇も本体の為、個人の情報処理能力は従魔随一。

    最初は主に命じられるままPC操作を覚えたが、慣れた今では数字を眺めるのが趣味となった。

    ジョロ以上のワーカーホリックである。



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