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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第五章 焦燥のヴァレンティア
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69:【百鬼夜行】の立地の謎



「えっと、ここが管理層……地下一〇一階になります。今使った転移魔法陣が使えるのは設定したごく一部の人だけです。今回はミラレースさんたちも仮登録しましたけど」



 本当は地上部から始まってダンジョンの階層説明を行いたかったが、さすがに他の探索者や客が居る前で説明など出来ない。

 ビーツはそれらをまとめて管制室からする事にしていた。

 そして今、管理層……管理屋敷の通路を歩くのはビーツ、クローディア、シュテン、タマモの【百鬼夜行】関係者とミラレースら五名の【奈落の祭壇】関係者。そしてタマモが持つ通信水晶に映るヴェーネスと幹部三人である。


 管理屋敷の通路は貴族邸宅というより王城の通路のような豪華さであるが、ヴェーネスたちも普段は王城に居る為、違いというのは左程ない。

 ただ大きく違うのは掃除などを行う下男たちがゴブリンだという事。

 通路を歩く際に端に寄り、整列し頭を下げる姿は、ヴェーネスのイメージするゴブリンと程遠い。



『ゴブリンが下働きをしているのですか……』


「彼らはシュテンの召喚眷属なんですけど、とっても優秀ですよ。言葉は喋れませんけど野良ゴブリンの比にならないくらい頭良いです」


『なんと、従魔だけでなくその召喚眷属もダンジョン管理の一員という事ですか』


「管理層で働いているのは一人を除いて、僕と従魔とその眷属です」



 てっきりビーツと百体の従魔だけで管理しているとヴェーネスは思っていたが、よく考えれば管理に向いている人型の従魔などそうそう居るわけもない。そこで召喚眷属というわけだ。

 これは【始祖吸血鬼】【吸血鬼】【劣化吸血鬼】とカテゴライズされた自分たちとよく似ているとヴェーネスは思った。吸血鬼におけるカーストが召喚士に当てはまる所が見える。


 ビーツたちは執務室や応接室、会議室といった仕事区画で適当な部屋を見せる。

 至って普通の仕事部屋なので、王族であるヴェーネスに惹かれるものはないと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。



『こ、この筆は何ですか?』


「えっと普通の羽根ペンが使いにくかったので作りました。フェルトペンとかマジックとか呼んでます。インクを付けずに済むので楽ですよ」


『そ、その紙束は……』


「書類関係をまとめるのに、このパンチってやつで……こう穴を開けまして、で、このリングでまとめても良いですし、こういったファイルってやつでまとめても良いと。どうしても紙関係が増えるもので整理したいなーと」


『なんと!素晴らしい!』



 どうやら文房具に嵌ったらしい。

 ヴェーネスは女王ではあるがビーツのように貴族業務があるわけではない。ダンジョン経営が第一の仕事であるし、それに書類などほぼ存在しない。

 とは言え小規模ながら国を運営している以上、報告書の類はある。紙自体はダンジョン機能で造り出せるが、その整理の為の道具とは盲点であった。


 これは説明に時間が掛かりそうだと思ったビーツは「今度そちらに伺う際にいくつか持っていきます」と言うと、ヴェーネスは非常に喜んだ。



 続いて、居住区画。空いている部屋を覗く。マールが使っているような基本的な部屋だ。

 ここではベッドの快適っぷりと、トイレの多機能ぶりに驚かれた。

 ミラレースが実際にベッドに横になり感動していた。トイレのウォッシャーはさすがに試せなかったが、水洗洋式トイレは衝撃的だったらしい。

 ここも長くなりそうだと思い、適当な所で話しを切り上げる。



 そしてダンジョン管理区画に入る。

 一番手前にあるのがメインディッシュである管制室である。



『こ、これは……!』

「すごいっ!」


「えっと、ここが管制室です。ダンジョン内の様子が全て分かるし、庭園とかのモニターに映しているのもここの画面です。アカハチ、お邪魔するね」


「ああ、話しに聞いた管理層案内というやつだな。ゆっくりしていくと良い」



 ヴェーネスやミラレースたちが入口で唖然とする中、管制担当のアカハチが挨拶する。

 腕が四本、蠍のような尾を持つ人型の女王蜂。その異様に吸血鬼たちも驚くが、慌てて挨拶を返した。


 扉から入った先である艦橋部からは正面に超巨大モニターが広がり、百以上に分かれた映像がリアルタイムで映されている。

 艦橋の下にはオペレーターのキラービーたちがそれぞれ机とモニターに向かい、水晶に足を乗せ画面を操作していた。

 そのSF染みた光景は、地球で言えば中世レベルの感覚しか持たない吸血鬼たちにどのような衝撃を与えたのか。それは本人たちにも言葉に出来ないものであった。



「こっちではダンジョンマスターの機能で″センス″って言いますけど、そちらは違う言葉ですか?」


『え、ええ。ダンジョン内の様子を伺う機能ですよね。私の場合″神覚″と言います』


「神ですか……えっと、それでその″神覚″の見たり聞いたりという機能を管制担当……このアカハチのような従魔に″シェア″してるんです。あ、機能を誰かに預けるって出来ますよね?」


『……はい。こちらでは″貸与″となっています。が、″神覚″をした上でのダンジョン操作は私一人で行っております。″貸与″はしていません』


「えっ!ヴェーネス陛下一人でですか!?出来るんですか……あ、いえ、出来てるんでしょうね。すごいです」



 ビーツは一人で管制する事を想像してみたが、自分ではどうしても無理だと思ってしまう。

 もちろん【奈落の祭壇】と【百鬼夜行】では規模が違うが、それでも管制していたら他に何も出来なくなってしまうのでは、と思えるのだ。

 だからこそそれを四百年も行っているヴェーネスを心から称賛した。


 一方でヴェーネスは″神覚″と″貸与″が実践されている管制室という現場を見て、固定観念が崩されていた。

 いくら眷属とは言え、神の如き力を誰かに分け与えるというのは女王としてもダンジョンマスターとしてもありえないと思っていたからだ。

 しかし実際に自分一人で″神覚″とダンジョン操作をする事が負担になっているのも事実であり、抜けや問題が起こる事もある。

 だからこそ″神覚″を″貸与″するというのも一考の余地があるのではないか。そう思わせるには十分すぎる光景であった。



「あーっと、話しを戻しますけど、うちでは管制担当の召喚眷属……今日の場合はキラービーたちですね。彼らが″神覚″で各階層や各冒険者を追ってます。それが各机のモニターであり、正面モニターの一つの画面ですね。

 で、その視覚情報はアカハチに統合され精査されます。どこでどんな探索が行われているか、アカハチが実際に見なくてもキラービーの情報が入るわけです。そこから庭園や屋敷ホールのモニターに流す映像を音声付きで選んでいる、という感じです」


『なるほど……しかしそうなるとアカハチ殿の負担が心配ですが……』


「懸念は分かるぞ、ヴェーネス女王よ。しかし我々は管制を三交代で行っているし、私を含め管制担当は情報統括に優れた種族特性を持っている。心配は無用だ」


「まぁ僕としてはそう言ってくれる従魔に頼ってしまっているという現状です。アハハ……」


『そうですか……』



 ヴェーネスの考えは深くなる。

 これは【奈落の祭壇】で活かす事は出来るのか、と。



『ちなみにモニターという魔道具の使用魔力は』


「えっと、キラービーが使っている卓上モニターサイズで造るのに1000Pくらいです。あ、僕のイメージで造った場合ですけど。一日使い続けると……10~20Pくらいですかね。正面の大型モニターだとか庭園のモニターは当然もっと掛かります」


『なるほど』


「管制室自体の説明はこんな所ですかね。じゃあダンジョン内部の説明をしますね。アカハチ、正面に地上の映像を大きめにお願いできる?」


「心得た」



 超巨大モニターの中央に、一際大きい画面が出る。それは大通りから屋敷、庭園を含めた俯瞰映像だ。

まるで鳥になったような視点にミラレースたちから「おお」という声が上がる。



「えー、話したとおり、大通りからの柵門がダンジョンの入口になっています。で、そこからの通路に露店が並んでいますが、これはうちと契約しているお店に限っています」


「ビーツ殿、露店で地図や攻略情報も売られていましたが、つまりご自分でダンジョンの情報を流しているのと変わらないのでは?」


「そうですね。実際、攻略をしやすくする為に売っています。僕は【百鬼夜行】を楽しんでもらいたいと考えてるんで」



 ミラレースの質問にそう返した。

 ダンジョンを楽しませる。その考え自体が根本的に違う。

 【奈落の祭壇】は他人種の侵攻を防ぐ為、そして罠に嵌めて殺し、魔力と眷属を確保する為に造られている。他のダンジョンも似たようなものだろう。

 だが【百鬼夜行】はそもそも殺そうだとか、魔力を確保しようとかいう考えがない。



「庭園を造りそこを一般客に開放してモニター観戦の場としているのも同じです。ダンジョンを楽しむ一環というか娯楽の提供ですね」


『そもそもなぜ王都の中心に設営しようと?』


「えっと、従魔が増えすぎて悩んでたんです」



 ダンジョンコアを入手した時点で、ビーツの従魔は数十体に上っていた。その住処は世界中に散らばる。

 ビーツは毎晩全員を召喚で呼び出しコミュニケーションをとっていたが、全員が集まれる住処を探していた。

 そしてダンジョンコアを入手し、ダンジョンを住処にしようと決める。



「でも、ダンジョンって街から遠い所ばっかじゃないですか」


『他のダンジョンの事はよく知りませんが……やはりどこも【奈落の祭壇】(うち)と同じような辺境なのでしょうか』


「辺境が多いですし、ダンジョンは危険って考えがどうしてもあるので、その近くに街なんか作りません。だけどそれだと僕が困るんで、王都の近くに造りたかったんですよ」



 冒険者であり王国貴族となったビーツは人里離れた場所に住むというのは不便に感じた。知り合いにも会いづらいし、仕事もしづらいと。

 エドワーズ王子や【魔獣の聖刀】のメンバーとも話し合い、ユーヴェやシュタインズにもアドバイスや口利きをお願いした。

 そして国絡みの協議の結果、王都内、それも中心部に設営する事が決まる。王都近隣を希望していたのに王都の中心だ。逆にビーツが困惑するはめになった。


 これはビーツの知名度が大きいが故だが、国としては英雄を国から離すわけにはいかない為、なるべく近くに確保しておきたいという思惑が一つ。そしてビーツの従魔という強大な戦力を王都の防衛力にしたいというのが一つ。さらにビーツの娯楽施設構想から観光地化され王都が商業的に活性化されると見込んだのが一つ。

 つまりは王族らしく貴族らしく、金やら戦力やら裏の思惑を持っての事だったが、ビーツはその考えを直接聞いており、だからこそ王国のその姿勢に感謝した。

 もっとも王としては「そういう名目を持っていれば五月蠅く言ってくる貴族も減るだろう」という考えがあり、それこそ裏の思惑であったのだが。



「そんなわけで、こんな一等地を貰えたんですよ」


『そういう事でしたか……。いえ、エドワーズ殿下も国王陛下も柔軟な考えを持ち、思慮深く大きな決断をなさったのでしょう。私も女王として頭が下がる思いです』


「ええ、僕も感謝しています」



 自分は女王として、同じような考えが出来るのだろうか。

 同じような決断が出来るのだろうか。

 また頭を悩ませる事が増えたとヴェーネスは嘆息した。




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