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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第一章 ダンジョンのある日常
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06:チュートリアルステージ



 新人冒険者のロビンたち五人は、一度宿に戻ってから再度ダンジョン【百鬼夜行】を訪れていた。

 死んだら所持アイテムや装備品をロストすると分かり、持ち物を厳選したのだ。



「よーし。じゃあ改めて【純白の漆黒】ダンジョン探索に出発するぞ!」

「「「「おー!」」」」



 リーダーである盾戦士のヒューズが声をかけ、四人が答えた。

 ちなみに【純白の漆黒】というのは彼らのパーティー名であり、白なのか黒なのかどっちだよという感じなのは、ビーツが所属していた英雄パーティーである【魔獣の聖刀】に原因がある。魔なのか聖なのかどっちだよというパーティー名に感化された若手パーティーは多い。


 ダンジョンカードを各自持っていることを確認し、屋敷右手の講習室の隣、その扉を開ける。

 そこは広めの部屋でありながら、家具等は一切なく、あるのは石で造られた下り階段のみであった。

 三人ほどが並んで進める階段は、立派な内装の屋敷部屋との違和感が激しく、暗く淀んだ印象を受ける。


 意を決して階段を降り始める【純白の漆黒】の五人。

 盾戦士でリーダーのヒューズを先頭に、両脇には斥候で狩人のロビン、剣士のレリュースが固める。

 後列は回復術士のリーゼと魔法使いのベラムだ。

 彼らの中で基本としている陣形である。


 下り階段をしばらく進むと、光源はないものの、暗くはない事が分かる。

 これはダンジョン壁と言われる鈍く光る壁で、綺麗に積み上げられた煉瓦状の石材そのものが光っているダンジョン特有のものだ。

 ランタンも必要かと一応持って来ていた彼らは、とりあえずその必要はないと判断する。


 警戒しながら階段を降りきった先は、同じ石造りとは言え、光あふれるフロアだった。

 広さはちょっとした食堂ほどのもので、正面には両開きの扉、手前には看板がある。

 ぐるりと見回せば、腰をかけるベンチのようなものがいくつかあり、その奥にはトイレの看板が見えた。



「ああ、ここが安全地帯ってやつか」



 講習会でのジェルリアの話しを思い出す。

 つまり階段からこの部屋までは魔物が出るはずもなかったのだ。警戒して損したな、と少し笑った。

 その流れで扉の前の看板を目にする。



 『地下一階は″チュートリアルステージ″!

  初心者の人は途中の看板に従って進んでみてね!

  敵が強いと思ったらこの部屋まで逃げてきてね!』



 なんとも気さくな雰囲気だが、ここは最難関ダンジョン【百鬼夜行】である。

 ゴホンと咳を一つつき、ヒューズは真剣な空気を作った。油断するわけにはいかないのだ。



「ちゅーとりある……って何?」

「ほら、横に注意書きがある。『初心者用のお試しの事』だって」



 レリュースの疑問にリーゼが答えた。

 安全地帯と言い、この看板と言い、想像していたダンジョンの様相とは異なった印象を受けたものの、進まないわけにはいかない。

 意気込むヒューズが扉を開けるとギギギという音を響かせ、改めてダンジョン地下一階層の様子が明らかとなった。


 先ほどの下り階段と同様に、ダンジョン壁の石材がレンガ状に覆っている。

 壁だけでなく、天井も床もだ。

 高さは三メートルほど。横幅も三メートルほどの狭い回廊。

 剣を振るう事を考えれば、並んで戦うのは危険だろう。

 後衛から魔法を放つには射線を確保する必要もある。



「ロビンと俺が先頭だ。レリュースは殿を頼む」

「了解」



 ヒューズの指示で隊列を組み直し、少し進んだところで道は三方向に分かれていた。

 そしてその手前には看板がある。



 『腕に自信のある人はまっすぐ進めばボスだよ!

  初心者の人は右を探索して、左を探索してから、真ん中の道に行ってね!

  そろそろモンスターが出るから注意してね!』



 無言になる五人。親切なのは嬉しいが、何と言うか拍子抜けする。

 ご丁寧に経路の指示と、魔物の出現を知らせてくれる。

 こんなダンジョンがあるのか。いやここは最難関ダンジョンの【百鬼夜行】だと己に言い聞かせ、何とか慢心を防いだ。



「……で、どうする?右に行くか、まっすぐ行くか」

「やっぱ初心者らしく右じゃないか?」

「調子に乗るのはよくないよね」



 満場一致で右ルートだった。

 そして右の道を進んで少し、「ゲギャッ!」という声と共に前方からゴブリンが迫って来た。

 やっと現れた魔物に武器を構え迎え撃つも、相手はゴブリン一匹。

 前衛のヒューズがゴブリンのこん棒を受けると、後衛から飛び出したレリュースが剣一閃。

 ゴブリンは青い光の粒子となって消えた。


 それを見たロビンは「ああ、これがダンジョンか」と一人考える。

 地上のゴブリンは複数の群れでいるのが一般的で、ダンジョンのように単発という事はあまりない。

 死体もちゃんと残り、いつもは討伐証拠となる右耳を切り落としてギルドに提出するのだが、ダンジョンではそれも出来ない。


 何にせよダンジョンでの初戦闘を終え、気を引き締めて奥へと進む。

 するとまた看板が……



 『床の隠しスイッチを押すと落とし穴が開くよ!

  右壁の隠しスイッチを押すと一時的に暗くなるよ!

  害はないから試しに探して押してみてね!』



 うーむと考えさせられながらも、トラップのチュートリアルという事なのだろうと納得する。

 斥候役の狩人、ロビンが隠しスイッチを目ざとく見つけると、それは周りの石煉瓦とは少し形が違っていたり、色が違っているようで、素人が違和感を感じるのは難しいと思わされる。

 ロビンとしては幼い頃から狩人の職に慣れており、【百鬼夜行】に挑む為に訓練を積んだ後に冒険者となった経緯もあり、手慣れたものであった。


 試しに人払いした後にスイッチを押してみたが、落とし穴はスイッチの周囲が三〇センチほど沈むもので、消灯スイッチは三秒ほど暗くなるものであった。

 こうしたトラップがあると体験してみると、チュートリアルと言われたこの一階層の意味が分かるようになってくる。



「地下二階以降のトラップはこんなもんじゃないんだろうな」

「どんなトラップがあって、どう見つけるのか教えてくれてるんだろう」

「もっと見つけにくいトラップもありそうだけどね」



 その後の曲がり角を含む一本道を進む一行。

 途中でゴブリンの襲撃に遭うも、どれもが単発であり、なぜ一匹で現れるのか、この奥には巣でもあるのか、それともダンジョンの仕様なのかと考えながら歩みを進めた。


 結局、突き当りにあったのは一つの小部屋だった。

 部屋へと入る扉にはいつものように看板が立てかけられており、扉自体に罠がある場合や、扉を開けた瞬間に襲われる罠などがあると注意を促される。

 そうして入った部屋には一つの宝箱が中央に置かれていた。

 その横にも看板があり、注意書きに従ってロビンは宝箱を調べた。


 罠を解除し、宝箱を開けると、中には回復薬のビンが入っていた。

 低級の回復薬ではあるが新人冒険者としては嬉しいものである。

 【純白の漆黒】としても回復術士のリーゼに回復を任せきりで、回復薬を常備していなかったのだ。



「こりゃありがたいな。宝箱の中身が復活するんなら毎日でも来たいくらいだ」

「魔物や採取素材じゃないんだから宝箱は復活しないでしょ」

「確かパーティーで一回ずつしか開けられない……だったわよね。中身はランダムとか」

「パーティーメンバー変えたらどうなるのかな」



 そう話しながらも彼らはパーティーメンバーを変えることもないし、考えても詮無き事と、来た道を戻る。

 すでに通った道という事もあり、行きに一時間ほどかけて来た道を、帰りは半分ほどで戻って来た。

 途中にもゴブリン単発の襲撃があり、やはり巣などなく、通路に湧き出る魔物なのだと確信する。



 右の通路を制覇したのだから次は左だと、気持ちを新たに彼らは進む。

 入ってすぐに『後ろにも注意してね!』という内容の看板があり、その通りにゴブリンの挟撃に遭う。

 今まで単発だったゴブリンが二匹同時に襲ってくる形だ。


 しかしバランスの良い五人パーティーである【純白の漆黒】は、問題なく対処する。

 前方を盾戦士のヒューズが抑え、後方を剣士のレリュースが抑える。

 やっと出番かと魔法使いのベラムが呟くほど安定した討伐であった。


 その後、壁から槍が出てくるトラップや、吊天井のトラップをお試し体験し、ほどなくして行き止まりの壁に突き当たる。

 『隠し部屋や隠し通路がある場合があるよ!』という看板をヒントに壁を調べると、端の壁が開き、中には宝箱があった。

 中身はやはり回復薬。ありがたく頂戴する。


 左の道を探索し終えた一行は、真ん中の道に行くべく来た道を戻る。

 その最中、この地下一階層の事を振り返った。



「結局、他の冒険者とは誰とも会わなかったな」

「皆、左右の道は行かずにボスに直行するのかもしれない」

「出てくるのはゴブリンだけだし、看板のヒントも満載の、本当に初心者向けだものね」

「でも僕らにとっては有り難いよ。ダンジョン初心者には勉強になる」

「そうだな。実際体験しないと知らないトラップとかあったしな」



 実力のある冒険者や、他のダンジョンを経験した後に【百鬼夜行】に挑む冒険者は多い。

 しかし、そうではない本当の意味での初心者である【純白の漆黒】には得難い体験であった。

 やがて最初の四つ角に戻り、真ん中の道を進む。

 何事もない一本道の先には看板とボス部屋へと続く扉があった。



 『ボスはホブゴブリン一匹とゴブリン二匹だよ!

  無理そうなら部屋に入らないでね!

  ボスは複数パーティーで挑むのもアリだよ!』



 ボスの詳細まで教えちゃうのか……と誰かが呟く。



「て言うか、複数パーティーで挑むのアリなんだ」

「深い階層ならまだしも、ここで複数パーティーはないだろ。いけるだろ?」

「ホブゴブリンとゴブリンでしょ?楽勝!」

「よし!じゃあ記念すべき初ボス戦!行くか!」

「「「「おお!」」」」



 そして彼らはボス部屋への扉を開けた。

 これから始まる長い長いダンジョン探索の最初の一歩であった。




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