表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第五章 焦燥のヴァレンティア
69/170

68:ビーツ先生の消費魔力抑制講座



 【奈落の祭壇】へと来る探索者の中には召喚士も居た。

 しかし召喚士自体の数が少ない上、三体を従魔に出来るいわゆる大召喚士など早々居ない。大抵が一体か多くても二体。それも弱い従魔に限られる。


 それは通常、召喚士が魔物を従える場合、己の力で魔物を屈服させそれが適正のある魔物であった場合、召喚契約が成功するという非常に困難なものであるからだ。

 それ以外にも国の竜騎士のように飼育した魔物を″すりこみ″のように懐かせ契約する場合もあるし、何等かの手段で魔物の卵を入手し同じように飼育する場合もある。ちなみにユーヴェのウィンドドラゴンもこれである。


 間違っても旅先で「あっ、呼んでる」と電波ちゃんな事を言い出し、適正魔物を見つけ出し、戦いもせず分かり合い、従魔契約すれば強くするなどといった召喚士はこの世界に一人も居ない。(※ただしチートテイマーを除く)


 だからヴェーネスも分からなかった。

 規格外の従魔を引き連れる規格外召喚士の恐ろしさ。

 その召喚士がダンジョンマスターになれば何が起こるのか。

 いや、何が起こせるのか。


 人に比べて魔物の方が保有魔力が多いのは分かる。体内に魔石があり、それを心臓代わりとして生きている言わば魔法生物なのだから。

 しかし多いと言っても人の吸収魔力量と魔物の吸収魔力量を比べた事などない。比べる事など出来ない。

 なにせ弱い従魔以外の野良の魔物は【奈落の祭壇】に入れないのだ。

 仮に谷底に魔物が居ても、古代神殿を模した入口には人のサイズでなければ物理的に入れない。そして辺境の森にある谷底にゴブリンなども居ない。まぁ居たところで野良のゴブリンの魔力吸収量など微々たるものであろうが。



『と、とにかくビーツ殿の従魔が恐ろしい魔力を持っている事は理解しました……』



 そう答えるのが精一杯であった。

 さらに言えばダンジョン設置前の段階でコアに魔力が溜まったのは、ビーツの周りに従魔以上に身近に居た存在として【魔獣の聖刀】の三人が居た事も大きい。


 人の魔力保有量が上がるのは身体の成長と同じく、幼少期が一番大きいとされている。

 普通は五歳の″神託の儀″で魔法適正を調べた後に魔法を習い始めるものだが、産まれた時から前世の知識と発達しきった知性を持っていた転生者はそうはならない。

 四人共に地力で魔力操作を訓練し、零歳から魔法を使い始めたのだ。つまり幼少期より乳幼児期のほうが魔力保有量が上がるという証明なのだが、それは転生者だけの秘密としている。教えたところで実践できるものでもないが。

 結果として刀剣士のクローディアでさえ、そこいらの熟練魔法使いより断然多い魔力を持っているし、生粋の魔法使いであるアレクに至ってはそのクローディアの数倍である。


 そういった仲間が一年中身近に居た事もダンジョンコアに魔力が溜まった一因とビーツは見ている。

 もちろん従魔とも毎日会っていたし旅路で魔物も倒しまくったので、その魔力も入っているのだろうが。



「えっと、まぁ魔力の確保についてはそんな感じです。従魔に頼ってばかりですみません」



 ビーツの後ろに立つシュテンと水晶に指先を付けているタマモがドヤ顔をするのを、ミラレースたちは苦笑いで見た。



「でも魔力の消費というか節約に関してはお力になれると思います。全然真似しちゃって下さいっ」


『そ、そうですか……。ありがとうございます』



 気を取り直して、といった様子でビーツがフンスと拳を握る。

 ヴェーネスとしても非常に興味がある事には違いない。まだ若干引き気味だが。



「えっと、ダンジョンの作成とか魔道具の作成、それにルールの制定とかも″クリエイト″の能力を使っていると思いますけど……」


『クリエイト?……″創造″の事でしょうか』


「あ、多分そうです。ダンジョンマスター機能の一番基本のやつです。やっぱ言葉が変わるんだなぁ」



 コアの作成者が違うのか、マスターに合わせているのか。

 謎が多いが、とにかく話しを進めようとビーツは続ける。



「その″創造″機能で造れる階層や魔道具、ルールって限られてますよね?」


『ええ、ですのでこの通信水晶を造るのには苦労しました。機能を活用し機能外のものを造るのは一筋縄ではいきません』


「それってダンジョンマスターの想像力次第で、出来上がる物や使用魔力、消費魔力が変わるみたいなんですよ。陛下はご存じでしたか?」


『なっ!……それは本当ですか?』



 ビーツはモニターを造った時、試行錯誤していた。

 ダンジョンマスターの力でダンジョン内の様子や音は分かる。

 それをSFよろしく空中に投影させようと思ったが出来なかった。仕組みそのものをビーツが全く理解していなかったからだ。

 ならばと映画のようにスクリーンに投影させようと思った。しかし投影させるプロジェクターが造れなかった。これもプロジェクターの構造を知らなかった為。

 最後にパソコンのモニターを参考にモニターを造り、魔力のパスを電線に見立て、ダンジョン内に這わせてみたら何故か映った。しかし消費魔力が高い。

 なので転生前にデスクトップモニターをバラした時を思い出し、アレクたちの意見も取り入れ、詳細なモニター像と配線を創造したところ、消費魔力が各段に減った。

 イメージ先行の為、理屈は分からない。


 そういった事を前世知識を交えずにヴェーネスに説明した。


 また、トラップ等の設置物に関しても図面のように詳細な情報をイメージすると必要魔力が変わる。モクレンが作成したトラップを量産する時なども同様だ。


 さらにヴェーネスが疑問視していた【不死】【転移】のルール設定も、細かくルールを指定し基本ルールの穴を突く感じで定めると必要魔力が変わる。

 具体的には【不死】【転移】は常時発動させているルールではなく「こうなった場合に【不死】が発動し【転移】が為されますよ」と決められている。これにより罠も魔物もない所でルールは適用されず必要魔力は抑えられる。

 それらも合わせてヴェーネスに説明した。



「つまり、想像力をより詳細にイメージすると、出来なかったものが出来たり、消費魔力の少ない――僕らは″燃費が良い″って言ってますけど――ものが創造できるってわけです」


『……言われてみれば、試す中で消費魔力が変わるものもありました。なるほど、私の想像力の差でしたか……』


「こう言っては何ですけど、僕やクロさんの想像力……と言うか突飛な発想力とでも言ったほうが良いかもしれませんけど、それは周りの人たちと大分違うと思います」


「まぁ私たちは大陸中を旅して見て回ったからね。四人も居たし」



 クローディアがフォローしたが「前世知識を持ってるからね」とは言えない。

 ビーツが目配せして「すみません、クロさん」と合図を送る。クローディアは手のひらをヒラヒラさせるだけだ。



「えっと、要はヴェーネス陛下が″こんなやり方もあるんだ″という発想の手助けになればと思うんです。これからダンジョン内を案内しますので、色々と真似てみて貰えればな、と」


『ありがとうございます、ビーツ殿。何よりの機会です』



 四百年間、外の世界を知らないヴェーネスにとって″想像力を育てろ″″突飛な発想力を持て″と言われても無理な事だ。ヴェーネスの知る世界が狭すぎる。

 だから他のダンジョン――ましてや世界最先端とも言うべき【百鬼夜行】の運営を見る事の出来る今回の機会は、本当に得難いものだと改めて感じた。



「あーいえ、それもあって僕もそちらにお邪魔したいと思ったんです。【奈落の祭壇】が僕のまだ知らない方法で創造・管理されているかもしれないので」


『ビーツ殿が知らない方法がうちにあるとは思えませんが……そういう事でしたらお越しの際にはご案内致します』


「ありがとうございますっ」



 そして皆で揃って、応接室を出る。

 屋敷二階のその部屋は一番奥の一番広い応接室だった為、一階の冒険者の目に触れる事はない。そのまま管理層用の転移魔法陣がある部屋へと歩き、皆で転移した。

 尚、タマモが持つ水晶はずっと起動させたままである。



『タマモ殿、通信の魔力は大丈夫なのですか?』



 移動中、ヴェーネスがタマモを心配する。

 すでに一時間以上も通信しっぱなしなのだ。



「全く問題ないでありんす」


『そ、そうですか。ご面倒おかけします』



 日に3万Pを溜めるというビーツの従魔。

 その中で魔法部隊である狐軍の長、【三大妖】のタマモ。

 おそらく従魔随一であろう魔力保有量は一体どれほどの物なのだろうか。

 ヴェーネスは恐ろしくもあり、【奈落の祭壇】に招くのが楽しみにもなった。



 ……まぁ魔力保有量が一番高い従魔はオオタケマルなのだが。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ