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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第五章 焦燥のヴァレンティア
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67:【百鬼夜行】の魔力確保の謎



 後日、ミラレースら五人はダンジョン【百鬼夜行】へとやって来た。

 気持ちを整理する時間を貰えた為、先日初めて訪れた時よりも身体は軽い。

 彼女らは転移部屋から地下二階へと転移し、他の冒険者が居ない事を確認する。



「ビーツ殿、ミラレースです。転移をお願いします」


『了解です』



 虚空への呼びかけに、どこからか返答があった。ダンジョンマスターは内部の見聞きも出来るが声を届ける事も出来るらしいとミラレースは初めて知った。

 すぐに身体は転移の光に包まれ、気付けば先日の応接室となる。


 迎えたのはビーツと両脇に立つタマモとシュテン。

 そして見たことのない茶色い髪の女性。



「おおっ!貴女たちが吸血鬼なのね!私はクローディア、よろしくね!」


「えっと、クロさんはアレク君と同じでここのダンジョン関係者なんです。いきなりすみません」


「そ、そうなのですか、ミラレースと申します……」



 いきなりのテンションに面食らったミラレースであったが、ビーツの情報を集める中で【魔獣の聖刀】メンバーの事も当然知っていた。顔は知らなかったが。

 だから先日あの場に居たのがアレキサンダー・アルツだと聞いた時は驚いたものだ。

 もっとも調べた中で【大魔導士】と呼称されていたのに、王都での聞き込みでは【消臭王】と呼ばれていた事が謎であったが。


 クローディアがここに居る経緯は極めて単純で、ダンジョンを留守にする予定のビーツがクローディアにも内密にするわけもなく、少し説明したところ「吸血鬼の女王!?ナイトメアクイーン!?」と琴線に触れたらしい。


 挨拶もそこそこにとりあえずソファーに腰掛ける。

 ダンジョン見学をする前に口頭での説明を行おうとビーツは考えていた。

 ミラレースが通信水晶を取り出し、今日は最初からタマモに渡す。



「この手の魔道具ってビーツ、ダンジョンで作れないの?」


「作れるけど僕念話あるし。今は必要性を感じないかなぁ。あ、でも……」



 そんな会話をビーツと並んだクローディアがする中、ヴァレンティア王国に居るヴェーネスへと繋がる。

 向こうもどうやらヴェーネス一人ではなく、今日はミラレース以外の幹部三人もヴェーネスの背後に見えた。



「おはようございます、ヴェーネス陛下」


『ごきげんようビーツ殿。本日はよろしくお願いします』


「はい、こちらこそ。で、あの、隣に居るのは――」



 お互いに挨拶を済ませ、クローディアを紹介し、時間も掛かりそうですしと早速本題に入る。



「えっと、管理層とかを見せる前に、魔力確保の方法とかを説明しておこうかと思います」


『!!』



 そうビーツが言う。

 それはヴェーネスたちが一番知りたかった事。言わばメインディッシュがオードブルに出て来るのと同義であった。ヴェーネス背後の幹部たちも驚きと喜びの表情を浮かべる。



「と、その前に、そもそも吸収魔力や使用魔力に差があるのかもと考えたんです。ダンジョンコアに差があるとか、ダンジョンの設置地域で差があるとか……」


『なるほど。ダンジョンマスター自体の差があるかもしれませんね』



 ヴェーネスの言葉はビーツも考えていたが口には出さなかった事だ。

 「貴女より僕の方が優れてるんですよ、ふふん」と言っているのも同じだ。言えるわけがない。

 誤魔化すように会話を繋げる。



「えっと、例えば金級冒険者の魔法使いが一日探索したとして、どれくらいの魔力が溜まるか分かりますか?うちは大体8~12Pってとこです」


『魔法使い一人分……そうですね、同じように10P前後です』


「じゃあ階層一つ追加。形式は単純な『石の広間』、広さは狭い方の基本サイズだとどうです?うちは3000Pです」


『変わりません。同じです』


「ではそこにゴブリン一体を配置。スポーンポイントではなく手動での一体です。うちは5Pです」


『ええ、こちらも5Pです。しかしスポーンポイントと言うのですね。こちらでは″沸き立つ穴″とされています』


「へぇ!言葉が違うんですね!……ダンジョンコアの情報が違うのかな?」



 ダンジョンマスター同士の会話は他者が入れないものであったが、こうした会話をしたことのないビーツもヴェーネスも非常に楽し気であった。

 ビーツが色々なシチュエーションの確保魔力量、使用魔力量を例え、ヴェーネスが返すというやり取りが何度も行われ、それが互いに一致する事を確認する。



「うーん、やっぱり変わらないですね。どこかに差があればと思ったんですけど……」


『ええ、しかしそうなると【百鬼夜行】の管理に膨大な魔力が掛かっていると思ったのは間違いではなさそうです。百層造るだけでもおそらく数百万P使ったのでは?』


「えっと実際に百層にしたり内装を整えたりっていうのはダンジョン設置してからオープンまで一年間かけましたし、その後も徐々に造りました。だから階層を造るだけの魔力消費量っていうのは分からないんです。多分ですけど魔物配置とか罠配置とか抜きにして考えると……2000万Pくらいじゃ……」


『にせっ!?……コホン、失礼しました』



 ヴェーネスからすれば信じられないくらいの魔力量であった。

 天候や植生、壁や建造物などは含まれるだろうが、そこに魔物配置と罠が加わり、探索者への【不死】などのルール設定も加わるのだろう。

 細々と節約しながらダンジョン経営している自分が惨めになる。スラム住民と貴族のような差だと自分を卑下したくなる感情を女王としての教示で押し殺し、冷静を保つ。



『……ダンジョンコア自体に魔力が大量に籠っていたという事でしょうか』


「コアを手に入れた時には多分10万Pくらいだったと思います。ただ手に入れてすぐにダンジョン設置を使わずに一年くらい持ち歩いていたんです。多分その間に僕や周囲の魔力を吸ってたみたいで、気が付いたら500万Pくらい溜まってました」


『ごひゃ……なるほど』



 ヴェーネスが最初にダンジョンコアに触れた際に5万ほどであった。それを持って急ぎ迎撃用のダンジョンを造ったのだ。それに比べればビーツの10万というのは確かに多い。

 しかし一年持ち歩くだけで500万というのはどういう事なのか。

 コアを起動させてダンジョンを造らないというのが魔力確保のコツなのだろうか。

 ヴェーネスは考え込む。



『【百鬼夜行】の探索者は日に二~三千人と聞きました。その魔力量で補っていると思いましたが……』


「えっと、地下に潜るのはそれくらいなんですけど、実際は地上部もダンジョンなので屋敷内の職員とか庭園の観客や商人の皆さんも入れると三~四千人だと思います」


「えっ、あの庭園もダンジョンなのですか!?」



 反応したのはヴェーネスの会話に口を挟まないようにしていたミラレースだった。

 それが本当であれば戦えもしない一般人が危険なはずのダンジョンに入っている事になる。

 その感覚は長年ダンジョンに携わっていたミラレースからすれば信じられない事であった。

 同じく傍観していたクローディアが追従する。



「案外分からないものなのね」


「モニター置いてる時点でバレてると思いましたけど、アハハ……。まぁ観客の人とかから入る魔力量は本当に少ないです。探索者含めて日に5000Pくらい入ると思います」


『入場者の吸収魔力だけで5000Pですか……』



 それは【奈落の祭壇】からすれば膨大な数字である。

 しかし三~四千人で5000Pと考えると少なく感じる。

 これは【奈落の祭壇】が数日かけて潜る所、【百鬼夜行】では数時間探索して転移で帰るというのが日常化している為である。

 そして最低でも銀級冒険者が入る【奈落の祭壇】と若年探索者歓迎の【百鬼夜行】では個人単位の吸収魔力量に差があるのが原因だ。当然強い探索者の保有魔力が多くなり、吸収魔力量も増える。一般観客など本当に微々たるものだ。



『……分かりませんね。なぜ経営出来ているのか。魔力の確保の仕方が違うのか、消費の仕方が違うのか……』


「多分ですけど、どっちも違うんじゃないかと思います。ダンジョン機能の消費魔力も同じでしたし、探索者の単位当たりの吸収魔力はこっちの方が少ないくらいですし」



 いよいよヴェーネスたちが知りたい事が聞けそうだ、と少し身構えた。

 「まず魔力の確保の方ですけど」とビーツが前置きすると、ゴクリと唾を飲む音が聞こえた気がした。



「えっと、僕の従魔百体がダンジョンに居るだけで日に3万Pくらい溜まります」


「『はあっ!?』」


「それと時々従魔を送還して地表で遊ばせてるんですけど、魔物の死体を持ち帰って魔力に変換したりしてます」


「『…………』」


「だから魔力確保の真似は出来ないんじゃないかと……アハハ……」



 ヴェーネスもミラレースたちも思わず立ち上がった。水晶に映る幹部たちも同様の表情を見せる。尚、クローディアは笑っている。

 そして一同は揃って内心叫ぶのだ。



(出来るかい!)と。




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