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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第五章 焦燥のヴァレンティア
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66:吸血鬼の疲れる一日(前哨戦)



「失礼を承知で申し上げます。眷属を増やした後、地表で国を興すおつもりでしょうか。増えた眷属による他人種への吸血行為はあるのでしょうか」



 エドワーズ王子の言い分は『協力した結果、吸血鬼が暴れだしたら堪らない』というもの。国を預かる王族として危惧するのは正しい。

 それに対しヴェーネス女王が答える。



『……まず、他人種への吸血行為及び眷属化ですが、今現在、ダンジョンにて死亡扱いされた者限定としています。そしてそれは今後も変わらないでしょう』


「なぜ言い切れるのでしょう」


『私がおそらく唯一の【始祖吸血鬼】であり上位命令としているからです』



 エドワーズ王子たちにとって、吸血鬼のカーストという物を想像するのは難しかった。

 上位存在に対する絶対隷属。奴隷などには出来ない本当の意味での隷属である。

 例えば数が増えた劣化吸血鬼の中でごく一部が反旗を翻し、命令に反して他人種を襲う……というのが怖かったエドワーズ王子たちは、その種族特性、その特異性に驚いた。


 さらに言えばダンジョンマスターとなり不老となったヴェーネスが女王の座から降りる事はない。今後どう国が変わろうがヴェーネスが上位存在である事は変わらない。

 しかしヴェーネス自身が変わる可能性もあるとエドワーズは考える。

 であるならば、いっそ友誼を結び同じダンジョンマスターのビーツと近い存在になれば、ビーツがその抑止力になるのではと考えた。



『同じ理由で地表に国を興す事も出来ません。私がダンジョンマスターである限り、私がヴァレンティア王国を離れるわけにはいきませんし、同様に眷属が離れる事などないのですから』



 これにはヴェーネス以外にダンジョンマスターの権利譲渡を行った場合はどうかという疑問も出る。

 しかし吸血鬼たちにとって安全で太陽の昇らないヴァレンティア王国という場所はいくら女王からとは言え、下賜されるものではないとミラレースは言う。ヴェーネスも「他の皆もそう言うでしょう」と呟く。

 仮に下賜したいと思っても【始祖吸血鬼】と【吸血鬼】である以上、渡す事が出来ない物もある。それは吸血鬼ならではの考えであった。



『だからこそ我々はヴァレンティア王国自体を拡大する事を望みます。そして時に地表に赴いた際には迫害される事のないよう、世界に示す必要があると考えます』


「それはいずれ自らの存在を公にするという事ですか?」


『そこに辿り着くまで年月が掛かる事でしょう。その為にも力を付けなければ話しになりません。その為の地盤作りと言いますか、その為のダンジョン魔力ですね』



 つまりは【奈落の祭壇】を拠点にする事に変わりはないが、誰かが外に出た時に一方的に害される状況を打破したい。その為の国力増強だと。

 これは吸血鬼という種族の価値観を変える必要がある。

 ヴェーネスは年月をかけて徐々にと考えているようだが、元を正せば他人種であるエドワーズたちの祖先が仕出かした罪でもある。

 歴史書を変える、噂を流すなど、やらなければいけないのはこちらなのではないか。そうエドワーズは考えていた。



 それからも会談という名の″互いの安全確認″はしばらく続いた。

 途中「まだ通信していて大丈夫なのですか?」とヴェーネスが確認する場面があったが、ビーツは誤魔化していた。



「では王国の不可侵の旨を書面にし、ミラレース殿にお渡ししておきます」


『ありがとうございます。ミラレース、代理のサインは任せましたよ』


「はっ!」


「えっと、で、どうします?ミラレースさんたちに【百鬼夜行】の案内でもした方がいいですか?」



 話しがある程度まとまった所でビーツが切り出した。

 【百鬼夜行】の説明や魔力確保について口頭でヴェーネスに説明するのは出来る。

 だが、実際に管理層を含め、自分たちの目で見たほうがいいのでは?というダンジョンマスターにあるまじき太っ腹な提案であった。



『えっ……よろしいのですか?管理層を見せて頂いても』


「さすがにダンジョンコアを触らせるわけにはいきませんけど、管理を見るだけなら問題ないです。というか、僕も【奈落の祭壇】の管理に興味があるので、代わりに教えてもらいたいなーと。アハハ……」



 ビーツとしては初めて出会えた自分以外のダンジョンマスターと仲良くなりたいという思いだった。

 ダンジョンの管理については誰かに教わるわけにはいかない。ダンジョンコアに触れた瞬間に知識は流れ込むものの、それはあくまで基礎的な知識だ。

 ビーツはそれに前世でのファンタジー知識を総動員させて色々と試した結果【百鬼夜行】という文化破壊ダンジョンが出来上がったわけだが、ヴェーネスも当然の如く四百年もの間試行錯誤した末に現在の【奈落の祭壇】が出来上がっている。


 ダンジョンの管理について誰にも相談できない状態からの脱却。

 言わばダンジョンマスター同盟。

 それは互いに利のある提案であった。



「それと出来れば僕も【奈落の祭壇】にお邪魔したいなーと」


『我々の元へですか!?……いえ、【百鬼夜行】の事を教えて頂くのに私が拒否するなどありませんね。もちろん歓迎致します、ビーツ殿。……しかしビーツ殿自ら遠出など、大丈夫なのですか?』


「そうだぞビーツ。お前ダンジョンオープンしてから遠出とかした事ないだろ」


「そうだけど……やっぱ無理かな?」



 ヴェーネスの心配にアレクが乗っかる。

 ただヴェーネスがビーツの身を心配するのと違い、アレクはビーツの安全など気がかりではない。どんな危険な事があってもオロチとクラビーが護衛する限り問題ないだろうと思っている。

 【百鬼夜行】がしばらくダンジョンマスター不在となる事が問題だとアレクは考えたのだ。


 ビーツとしては、ダンジョンの管理に関しては残していく従魔たちに任せるつもりであり念話でいつでも会話できるのだから、如何様にも対処できると思っている。

 その旨を説明すると「従魔にダンジョン管理を任せる……?」とヴェーネスの呟きが聞こえる中、考えていたエドワーズが顔を上げた。



「うむ。ビーツ師……ビーツが遠征するというのもいいかもしれん」


「いいのか!?」「いいの!?」



 アレクとビーツがエドワーズの顔を見た。

 最初は外交の体裁を整えていたのに段々と崩れてきているが、誰も気にしないようだ。



「ああ、国とギルドにとっては良い訓練となる。ビーツが居ない場合の対処についてだな。名目は『他ダンジョンの造りを勉強する為に有名な【奈落の祭壇】へ行く』とでもすればいいだろう」


「やった!」


「それにおそらく膿が出るだろう?そちらの方が重きになるな」


「あー、オレが忙しくなりそうな予感……」



 ニヤリと黒い笑顔を見せるエドワーズに、アレクは天を仰いだ。

 そこまで考えていなかったビーツはアレクに謝っていた。

 しかしダンジョンマスターとして、他のダンジョンマスターと魔道具越しではなく実際に顔を合わせるという事はビーツにとって大切な事のように思えたのだ。



 かくして長時間に及ぶ会談は終わる。

 書面の都合もあり、後日に改めて会談の場を持とうという話しになりエドワーズとアレクは退室した。

 ミラレースたちはその日の前にダンジョン案内をするが、今日のところは宿へ帰宅となる。

 いきなり二階から降りるのも不思議な話しになるので、ビーツの能力で地下二階の転移魔法陣の前へと転移し、そこから帰る事になった。





 宿に着いたミラレースは一人真っ暗な部屋に入り、硬いベッドにドサッと身を投げる。

 疲れた。

 とてつもなく疲れた。

 結果を見れば、最上と言えるだろう。

 しかしそれまでの過程が心身ともに堪えるものだった。


 眠りたい気持ちを抑え、意思を持ってベッドに座り直す。

 改めて通信水晶を取り出し、ヴェーネスへと繋げた。



『お疲れさまでした、ミラレース』


「はっ。只今宿に戻りました。ヴェーネス様こそお疲れではないでしょうか」



 通信水晶にはおそらく自分と同じような表情をしているであろうヴェーネスが映る。

 労いの言葉は長時間に渡りエドワーズとビーツと対談したヴェーネスの方にこそ相応しいとミラレースは感じた。



『改めてよくやってくれました、ミラレース。こちらの望み以上の結果と言えます。まぁ本当に考えていた以上の事が起こったので驚きましたが……』


「しかしヴェーネス様、宜しかったのですか?ビーツ殿をヴァレンティアに招くというのは……」


『ええ、それも【百鬼夜行】の管理層をどれだけ見せて頂けるかによります。結果次第では城の外で会談という形式になるかもしれません。逆に本当の意味で全てを見せるという事もありえます。どちらにしても我々にとって不利にはなりません』



 ビーツが実際に【奈落の祭壇】とヴァレンティア王国を見る事は、それだけ意見を聞けるという事でもある。

 同じダンジョンマスターからの意見は是非とも欲しいものだ。

 そしてそれが規格外ダンジョン【百鬼夜行】のダンジョンマスターならば猶更。

 だからこそ招く価値がある、とヴェーネスは考える。



『いずれにせよ後日のダンジョン案内の日には私も水晶越しに見させてもらいます。貴女は水晶に映らない部分での視察をお願いします』


「はっ!承知しました」


『今日は疲れたでしょう。ゆっくりお休みなさい』



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