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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第五章 焦燥のヴァレンティア
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65:王族対談、一室にて



 プライバシーの侵害など存在しないこの世界において疑わしい者を監視するなど当たり前の事だ。

 しかしビーツは「ずっと見張ってました、すみません」と頭を下げた。

 そしてミラレースは心が折れたまま、ビーツの話しをただ聞く。真っ白な頭では疑う事も考える事も出来ず、ただ聞いた。


 ビーツはミラレースに自分たちが知っているミラレースたちの情報を開示した。ここまですでに知っていますよと。知っていて尚害するつもりはありませんよと。


 【奈落の祭壇】を住処に吸血鬼たちが生存している事。

 ミラレースの上司がヴェーネスという名前である事。

 目的は【百鬼夜行】とビーツの調査であるという事。

 その為に冒険者を装い、他人種を吸血するなどせずに今まで潜伏していた事。

 おそらく通信の魔道具で毎夜報告していた事。


 ではなぜそうまでして調査に来たのかという話しになる。「僕の予想ですけど」とビーツは前置きして話した。



「えっと、多分、ヴェーネスさんという方がダンジョンマスターで、ダンジョン運営の為の魔力が不足しているんじゃないですか?」


「!?」


「で、見るからに魔力の無駄遣いをしている【百鬼夜行】が気になったのかなーと」



 ミラレースの真っ白だった頭が覚醒する。そこまで把握されていたのかと。

 ビーツには自覚があった。

 もし他のダンジョンマスターが【百鬼夜行】の事を知れば、ありえない運営方法をしていると。

 普通の感覚であれば百層も作る事などしないし、復活やら転移やらその度に魔力を消費する仕掛けなど設定しない。


 ビーツの話しに驚くミラレースの表情は顕著だが、言葉を発さないのでその真偽は掴めない。あくまでビーツの想像でありそれが真実だと判明するにはミラレースの言葉が必要だ。

 業を煮やしたのは奥で様子を伺っていた金髪の青年だった。



「私はサレムキングダム第一王子エドワーズ・デル・サレム・シェケナベイベーです。ミラレース殿、貴殿らが王国に対して害さない限り、我らが吸血鬼を断じる事はない。これは国王も承知しております。私の名において保障しましょう」



 まさか王族がこの場に居るとは思わなかったミラレースが再度驚愕する。

 エドワーズとしてはミラレースの警戒をどうにか解きたかった。

 ビーツの想像が合っていたとしても未だ分からない事がある。

 例えばなぜダンジョンの魔力を必要とするのか、【百鬼夜行】の調査が成功したとしてどうするつもりなのか、ダンジョン魔力が豊かになったとして吸血鬼たちはどう動くのか。

 それらを聞き出したいと考えていた。


 一方のミラレースは冴えてきた頭で考える。

 自分たちの調査における困難目標として″ビーツに接触し実際に話しを聞く″というものがあった。

 未だ段階を踏んではいないし、いきなり拉致され暴露されたので動転していたが考えてみればこの状況は望むべきものなのではないか。

 さらになぜか同席していた王族により吸血鬼の安全が保障された。

 悪くない、いやむしろ最善の状況なのではないか。


 そう考え始めたミラレースは細々と話し始める。

 それはビーツの考えが正しいという証明であったが、ミラレースはあくまで代理。詳しい所はヴェーネスの判断を仰がなければならない。



「あの通信の魔道具って今も持っていますか?」


「え、ええ、持っておりますが……」



 不死設定をされても【百鬼夜行】で死ねばアイテムは没収される。だから持ち込む事などしないのが普通なのだが、探索初日であるこの日は一~二層の確認と劣化吸血鬼を死なせ復活の実験をするつもりであった為、持って来ていた。

 宿屋に置きっぱなしにする方が危険に思えたのだ。


 ビーツは実際にヴェーネスと話しがしたいとミラレースに頼み込んだ。

 通信に魔力が必要でそれが原因で短時間しか使用できないというのも知っていた。

 ミラレース以外の魔力でも使えるのかと確認し、試してみようという流れになる。エドワーズ王子も乗り気であり気圧される形でミラレースは通信水晶を取り出した。



 ソファーに座り、ミラレースがまずは水晶に手を触れる。



「……ヴェーネス様、ミラレースでございます」


『……ご苦労様です。ずいぶんと早いですね』


「……申し訳ありません。……バレました」


『!?』



 水晶にヴェーネスの驚く顔が映る。

 結果としてビーツと接触し、国に安全保障されたミラレースであったがヴェーネスの情報を漏らした事には違いない。【始祖吸血鬼】という上位存在に対し申し訳ない気持ちで一杯になる。

 報告も遅々となり、強制転移の件を話したところで、それを見かねたエドワーズ王子が水晶をぐるりと自分の方へと向けた。ミラレースとはソファーの対面に座る自分へと。


 ヴェーネスの通信水晶にはいきなりエドワーズ王子とビーツが並ぶ姿が映る。

 ちなみに魔力の供給はタマモが指先で水晶に触れて担当している。

 ビーツが念話で確認したところ『一日中通信しても問題ないでありんす』と規格外の答えが返って来た。これはミラレースさんたちに言わないでおこうとビーツは心に帯を結んだ。



 見知らぬ人間の男が二人、水晶に映った事でヴェーネスの頭には瞬時、最悪のシナリオが浮かんだ。囚われ情報を吐き出されたのかと。

 そして続く男たちの言葉に絶句する。



「お初にお目にかかります、ヴェーネス女王陛下。サレムキングダム第一王子エドワーズ・デル・サレム・シェケナベイベーと申します」


「えっと【百鬼夜行】のダンジョンマスター、ビーツ・ボーエンと申しますっ」



 正気に戻るまで数秒の時間を有した。

 なぜ目的のビーツ・ボーエンと王族がミラレースと同席している?なぜ私と通信している?やはり浮かぶのは最悪の事態なのだが、女王の教示とでも言うべきか、ヴェーネスは毅然とした表情を取り戻し二人に告げる。



『……ヴァレンティア王国女王ヴェーネス・ヴァレンティアです。エドワーズ殿下、そしてビーツ・ボーエン殿、何故(なにゆえ)ミラレースを捕らえ、こうして話しているのです?』



 それからエドワーズ王子とビーツ、そしてミラレースも加わり、ヴェーネスへの説明を行った。こうなった経緯を一からだ。

 それはヴェーネスからすればやはり信じがたい事であったが、ミラレースの「信じられないかと思いますが本当です」という言葉が後押しとなった。

 こうして喋っている王子とビーツの様子を見ても、ヴェーネスから情報を吐き出させようという感じではなく、外交での話し合いのように思えたのだ。もっとも女王としての経験が【奈落の祭壇】に着いてからであった為、外交の経験などないのだが。



 ヴェーネスの緊張感が少し解け、疑いよりも信頼が上回って来たと感じたエドワーズ王子は、いよいよ本題を切り出す。



「陛下、今回の【百鬼夜行】の調査目的はダンジョン運営に際する魔力確保の実情を探る為とこちらでは判断しています。それに関してビーツも私も教えて問題ないと考えています」


『!?』


「ええ、まぁ教えて同じ事が出来るかどうかは別なんですけど……アハハ……」



 王子からのその言葉は正しくヴェーネスが欲していたものであった。

 頭を掻くビーツを見ながら息を飲んだ。



「しかし【奈落の祭壇】ほど有名なダンジョンが魔力不足になるという事が考えづらいのです。なぜ不足しているのか、なぜ増やそうとしているのか、そこが知りたいのです」


『……分かりました。お話ししましょう』



 端から何の対価もなしに欲しい情報だけを貰えるとは思っていない。

 ヴェーネスは自国の情報を少しずつ話し始めた。

 それは吸血鬼の歴史。他人種による迫害、そして逃亡。四百年に渡る苦労。

 ビーツや傍で聞いているアレクの顔が歪む。エドワーズ王子は毅然とした表情を崩さないが、それでも過去の人間の仕出かした事に少なからず動揺していた。


 歴史とは勝者が綴るもの。

 どの歴史書も吸血鬼の恐ろしさを前面に出しており、それゆえ討伐に至ったと書かれていた。

 しかし当人の言い分は一方的な虐殺。

 もちろん吸血鬼全員が平和論者ではないだろうし戦争や対立が元々あっただろうとは思っている。王子もヴェーネスもだ。

 そして四百年経った今も、吸血鬼と他人種は互いを恐れている。



 ダンジョンで人を殺し魔力を確保しているという事に、エドワーズ王子は何の厭悪感も持たなかった。

 【百鬼夜行】で薄れがちだがダンジョンで探索者が死亡するというのはごく普通の事である。死を賭して挑戦するから宝というリターンがあり、だからこそ冒険者は挑みたがる。

 吸血鬼個人が襲い掛かり殺すならばまだしもダンジョン機能として死んだとなれば、いかにダンジョンマスターとは言え罪にはならない。


 と言うよりも【百鬼夜行】オープン以前にさんざん話し合った内容なのだ。ビーツが最後まで拘った所でもある。自分は人殺しの為にダンジョンを作るのではない、と。

 しかしそれではダンジョンや魔物への危険性が薄れてしまう。探索者は死に鈍感になってしまう。国からもギルドからも同じような声が出た。

 そして妥協点となったのが『モニター撮影権許可者に対する不死化』『死亡判定時のペナルティ』であった。


 話しを戻すが【奈落の祭壇】でダンジョン機能による死亡者からの魔力補給を、王国としては問題視しない。

 眷属化に関しても落とし穴等に掛かって死亡扱いとなった者を眷属化しており、本来ならばそのままダンジョン魔力となる所を管理層にて確保し眷属化していると言う。

 考え方によっては死ぬ命を生かしているとも言える。

 死者がアンデッドになるこの世界において、まだマシと言えるのではないだろうか、そう王子には思えた。



「……なるほど。では魔力を増やし、眷属を増やし、王国を繁栄させる。その後はどう致しますか?」



 エドワーズ王子の目が鋭くなりヴェーネスに問い詰めた。




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