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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第五章 焦燥のヴァレンティア
65/170

64:とある吸血鬼の初探索(ポキン)



 その日、ミラレースたちは五人揃ってダンジョン【百鬼夜行】へと訪れた。

 時間帯はもっとも冒険者が混雑する朝。人波に紛れる。


 受付で初探索の旨を伝え、初心者講習を受ける。これも初探索のパーティーの内、半数以上が講習を受けていると事前に情報を得た為、目立たないよう受ける事を選択した。

 講習自体は事前に集めた情報の答え合わせのようなもので、別段驚く事はない。しかし驚く初心者たちが多かったので知らないフリをして一緒に驚いたりしていた。


 ダンジョンカードの登録も問題ない。魔力登録しても変な目で見られる事もないし、モニター撮影権も許可にした。講習を受けた他の冒険者の中には下手に勘繰ってとりあえず不許可にする者もいたが、大抵の冒険者は許可にしていた。


 初めて入る屋敷内のホールを見回し、どこにどんな部屋があるのか確認する。『転移室』『帰還室』『復活室』『実況室』が左壁に並ぶ。覗いてみたいが今は我慢だ。

 天井を見上げればビーツ・ボーエンと【百鬼夜行】の集合絵、巨大絵織物に圧倒される。

 その流れでホール奥の大階段の踊り場を見ればクラッグキャンサーの【カニボー】が岩山のような身体で階段を塞いでおり、絵織物と見比べてしまう。事前に従魔の情報も得ていたとは言え、実際に目にすると恐ろしいものだ。

 もっと恐ろしいのはそんな従魔を百体も従えているビーツであり、強大な従魔の居る日常に慣れ切っている冒険者たちなのだが……。



 ともあれ、『講習室』の隣部屋から地下一階へと降りる。



(情報では地下一階はゴブリンのみのはずです。とは言えモニターに映る事のない一階を直に見るチャンス。どのようなダンジョンなのか探らなければ)



 ダンジョンマスターはダンジョン内の探索者の声が聞こえてしまう。

 それを分かっているミラレースは劣化吸血鬼たちに今さら指示を出したりしない。すでに宿で入念な打ち合わせを行ってきたのだ。

 いよいよダンジョンに潜入する、と意気込むミラレース。しかし実際は大通りからの柵門を越えた時点でダンジョンに入っているのだが、ダンジョン関係者であっても気付かないようだ。


 階段を降りてからの安全地帯、そして看板によるアドバイスと警告。話しには聞いていたが、実際に体験してみると【奈落の祭壇】とのあまりの違いに驚きを通り越して唖然としてしまう。

 ミラレースは【奈落の祭壇】しか知らないので【奈落の祭壇】基準になってしまうが、ダンジョンとは探索者が生死を賭けて敵に立ち向かい宝を得る為の危険な場所ではなかったのか。

 もしかしたら他のダンジョンはどこもこのような作りをしているのではないか。

 まるで観光地に遊びにくる感覚で挑むのが、本来のダンジョンの在り方だとでも言うのか。


 同じ講習会を受けた他のパーティーが見える。



「ある意味ですげえな、【百鬼夜行】ってのは」

「ああ、地元のダンジョンと全然違えよ」

「こんな親切なのダンジョンって言っていいのか?」

「おい、ダンジョン批判はやめろ。俺は従魔に殺されたくない」

「いや批判じゃないって」



 そんな会話を聞き、やはり【百鬼夜行】(ここ)が変なのだとミラレースは安心した。

 他のパーティーと探索場所が被るのは、あまり見られたくないミラレースたちからすれば頂けない。彼らが右方向へ行ったので、サイモンに目配せし左方向へと足を向ける。



 そしてそれは起きた。

 他パーティーと十分に離れたところでミラレースたち五人の身体が突如光に包まれたのだ。



「! 【転移】!? 警戒なさい!」



 思わず指示を出したミラレース。しかし無理もない。転移の罠などあるはずがない地下一階にして突如起こったイレギュラーな事態。

 強制転移からは逃げられない。

 嫌な予感しかしない。

 ミラレースは唇を噛みしめ、覚悟するしかなかった。





 辺りの風景が変わり、即座にミラレースは状況を確認すべく見回す。劣化吸血鬼の四人はミラレースを背にし囲むように武器を抜いている。


 室内――応接間のような場所。

 五メートルほど離れた窓際にビーツ・ボーエンと狐獣人……いや、タマモの姿。

 逆側、この部屋の入口であろう扉を背に、鬼人……同じく【三大妖】シュテン。

 ソファーとローテーブルが並ぶその奥に、金髪の男性と紫のローブの男性。見た事のない顔だ。この場に居るという時点で油断はできない。


 窓と扉を押さえられ逃げるのは困難。戦うのはもっと無理。噂に聞く従魔の戦闘力は桁外れで、すでにこの距離は射程内なのだから。



「自害なさいッ!」



 即座に判断する。

 死体を検分されれば自分たちが吸血鬼だとバレるかもしれない。

 しかし【奈落の祭壇】、ヴァレンティア王国、女王ヴェーネスの情報を与えるわけにはいかない。

 使命を持った覚悟の元、五人は懐から銀製のナイフを抜き、躊躇いもなく自らの心臓に刺す。


――ガキン



「えっと、あの、ここは地上の屋敷、二階にある応接室です」



 慌てるように言うビーツのその言葉の意味をミラレースは瞬時に理解した。

 先ほど初心者講習で聞いたばかりだ。″地上部敷地内では攻撃無効″だと。

 地上部に転移させられたのか!自傷も無効化されるのか!口には出さないが内心で驚く。

 そして為すすべなしと膝を付きたい衝動を抑え、顔を伏せた。



「いきなりすみません!こんな形で呼んでしまって……。でも貴女方に害を為すつもりはありません!本当です!少しお話しだけでも聞いてもらえませんか?」



 ビーツは低姿勢で頭を下げながら無害アピールをしている。

 その目、そして従魔たちの目はミラレースに向けられている。先ほどの自害指示の前からだ。

 つまりはミラレースがリーダーだとバレている。サイモンに話させるわけにはいかないとミラレースは判断した。


 しかし呑気に「じゃあ話しましょうか」と言うつもりはない。

 「一体何の話だ?」と口には出さずにビーツを睨みつける。



「えっと、まず、僕たちは貴女方が吸血鬼だと知っています」


「なっ!?」



 いきなり爆弾を落とされた。

 なぜ?いつから?どうやって?

 疑問と同時に過去の忌まわしい記憶が甦る。

 吸血鬼だというだけで他人種から迫害された過去。知人も家族も皆殺された。

 わずかな人数で生き残り、四百年かけて少しずつ眷属を増やし、やっと表に出て来たのにまた害されるのか。なぜこうも理不尽な目に合うのか。

 そして今回もまた吸血鬼だからと……。



「えっと、重ねて言いますけど吸血鬼だからと害するつもりはありません。貴女方が王都へ来て、誰も人間を襲っていないのも知っています。吸血鬼だからって何も悪事を働いていない人を攻撃したり捕らえたりはしません」



 ただ強制転移は拉致みたいなものだったのでごめんなさい、とビーツは付け足した。

 その言葉にミラレースの気持ちは少し軽くなる。軽くはなるが消えはしない。油断せず、緊張したままついに言葉を発した。



「……いつ、気付いたのですか?」


「あの、王都に入ってすぐです」


「えっ」



 何か気付かれるような事をしたのか?目立った事をしたのか?あれだけ警戒していたのに?

 瞬時に自問自答するが答えは出ない。自分たちは何も間違っていないと自信を持って言える。だからビーツが王都に入ってすぐ吸血鬼と気付いたと言った意味が分からない。



「えーっと、人種ごとに魔力の質が変わるらしいんですけど、吸血鬼も独特みたいで……貴女方が王都に入った段階で、うちのオロチが気付きました。なんか変わった五人組が入都したって。で、うちのヌラさんが実際に吸血鬼を見た事あるらしくて、貴女方が吸血鬼だと……」


「…………」



 開いた口が塞がらないとはこの事だ。

 魔力の質って何?あの人混みの中、ピンポイントで吸血鬼を見つける?ここから西門にいた私たちを?意味が分からない。


 とりあえず自分たちがいくら頑張って警戒し、偽り、緊迫しながら調査し、どう動こうが無駄だったと、ミラレースは一瞬灰になったかのように頭が真っ白になった。

 そんな苦労を踏みつぶす存在。規格外の存在が居た。



(これがビーツ・ボーエンの従魔……!【百鬼夜行】……!)



 心が折れる音が聞こえた気がした。





■百鬼夜行従魔辞典

■従魔No.24 カニボー

 種族:クラッグキャンサー

 所属:鬼軍

 名前の元ネタ:蟹坊主

 備考:ロッククラブという1mほどの岩蟹が進化した種族。

    縦横3m近い岩山と化している。

    ヤドカリではなく甲羅が岩山っぽいタラバガニといった感じ。

    しかしタラバがヤドカリの仲間だと作者は今回の件で初めて知った(驚愕



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