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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第五章 焦燥のヴァレンティア
63/170

62:交差する思惑(一部筒抜け)



 王城の執務室では、国王であるエジルと執務補佐を行っているエドワーズ王子が机に向かっていた。

 宰相のベルダンディがエジル国王と向き合い、何やら報告を行っている。

 昼前であればエドワーズ王子と机を並べるように文官の幾人かが執務を行うが、この時間ではすでに退室していた。


 そんな中、ベランダに続く大きな窓ガラスが組み込まれた扉がコンコンコンと三回軽く叩かれた。

 国王、王子、宰相がそちらを見ればベランダには誰も居ない。

 が、そんな事は分かっているとばかりに宰相は扉に近づき、大きく開ける。



「この時間に報告とは珍しいな。何かあったか?」



 エジル国王が部屋の中央の何もない空間にそう問いかけると、徐々に姿を現したのはフェリクスとデイドであった。それを確認すると、宰相は扉を閉じる。

 フェリクスは膝も付かず、挨拶もせずに話し始めた。その様子に緊張や礼儀などありはしない。



「はい、先ほど西門から冒険者のような五人組が入都しました。それがどうやら吸血鬼らしく……」


「「「なにっ!?」」」



 それは部屋の中の三人共が滅多に出さない大声であった。

 声を荒げた事に周囲を落ち着かせる為、国王は王子に伝言を頼む。部屋前の衛兵には問題ないので誰も立ち入らないようにと。そして茶を四人分用意するようにと。長話になりそうだと感じた為だ。


 やがてソファーに向かいながら報告が始まった。



「して、本当なのか?吸血鬼とは」


「はい。ビーツの所のヌラ……エルダーリッチが確認したそうです。あいつは実際に吸血鬼に会った事があるらしく」


「冒険者のようなと言ったな。実際に冒険者なのか、冒険者を偽っているのかは?」


「まだ分かりません。これからの動き次第だと思います」


「今現在の動きは分かっているのか?」


「今はビーツの従魔が見張っています。俺も後で見張るつもりですけど何かあればビーツの方から連絡がくるでしょう」



 国王と宰相から矢継ぎ早に質問が投げられる。王子は「さすが師匠……」などと呟いているが事態の深刻さは分かっているようだ。

 何はともあれ今は見張る事しか出来なさそうだと国王たちは感じた。

 いきなり捕らえたり尋問したりは王国の倫理的に無理だ。かつて人類の敵であった吸血鬼と言えども無害無実な者ならば手は出せない。


 人間を襲う事を想定し王都の警備を増やすというのも止めた方がいいという結論が出る。

 急に衛兵が増えればこちらが警戒している事を吸血鬼に知られるようなもの。

 「吸血鬼だとバレている」と相手に知られれば逃げるなり強硬手段に出るなり、いずれにしても良くはない。もし有害な者であった場合は逃がさずに捕らえたいのだから。



「先遣隊という線はどうですか?」


「後から攻め込んでくるか。だからこそ王都に来たという可能性はある」


「その場合、攻めて来るのは吸血鬼の集団なのか、吸血鬼が混じった他国なのか……」



 王国にとって一番痛いのは戦争である。

 それが吸血鬼の集団であっても、他国の軍勢であっても。普通に考えれば他国が攻めて来る場合、先遣として吸血鬼を送り込む事は考えにくい。

 だが一国そのものが吸血鬼の傀儡となっていれば考えられる。

 それは王国にとって脅威となるべき考えであった。


 それを最悪のパターンとして考えられる限りを四人で出し合った。

 一番穏便なのが、吸血鬼が誰も襲わず、普通の冒険者として【百鬼夜行】に挑戦するパターンだ。

 だが希望的観測であるというのが吸血鬼の歴史を勉強している国王や宰相の考えであった。

 吸血鬼と他人種は結局和睦もせず駆逐寸前まで追いやった形なのだから。



「いずれにせよ、今は様子見しかあるまい。フェリクス、しばらく頼んで良いか?」


「そのつもりです。まぁビーツと共同って感じになりますけど」


「ビーツ・ボーエンにこちらから使者を出すわけにもいくまい。それこそ目立った動きと見られる。お前の方から伝えてくれるか?」


「了解です」





 翌朝、ミラレースら五人は部屋に集まっていた。

 今日からどのように動くかを再確認するためだ。方針としては劣化吸血鬼を二人組、二組に分け観光のように王都を巡り【百鬼夜行】とビーツ・ボーエンの情報を集める。

 ミラレースは今日のところは宿から出ない。万が一にも疑われていた場合、尾行などの目に合うのは劣化吸血鬼でありミラレースはあまり動かない方が良いだろうという判断だ。



「――大通りの東側と南側に分かれて行きなさい。中央部も通るでしょうが【百鬼夜行】と冒険者ギルドへは立ち入ってはいけません。もちろん冒険者を装っているのですから無視するわけにもいきません。眺める程度で済ませなさい」


『了解』


「報告次第では近日中にも【百鬼夜行】に入る事があるでしょう。しかし今、【百鬼夜行】に入ったり、ビーツ・ボーエンに接触してはいけません。疑われている可能性を排除しきってからです」



 そんな会話をして四人の劣化吸血鬼は真っ暗な部屋を出た。

 ミラレースは部屋に残り、今まで集めた情報の精査を行う。夜にヴェーネスに報告するために。


 ……部屋の木窓に蝶が止まっている事など気付かないまま。





「あー、あの女の人がリーダーだったのか……」



 てっきり年長者で先頭を歩いていた男性がリーダーだと思って、昨夜は男性の部屋の盗み聞きを行ってしまった。女性の部屋を選んでおけば良かったかも、とビーツは少し後悔した。

 従魔視線のモニタリングは映像のみを送るので音声がモニターから出る事はない。従ってミラレースたちの会話は従魔が盗み聞きして、それを念話で伝えているだけだ。



「でも、目的は【百鬼夜行】(ここ)だってはっきりしたね」


「主殿を調べるとも言っていました。それが害する為なのか、探索の為なのか、それとも……」


「いずれにしてもご主人は外に出ない方が良い。攻撃無効の庭園でも姿を見せんほうが無難でありんしょう」



 管制室でモニターを眺めるビーツの言葉に並んでいたシュテンとタマモが続ける。

 とりあえず神聖国へ抜ける為に王都に来ただとか、無差別に吸血して眷属を増やすのが目的ではなさそうだとビーツは感じた。

 もちろん主目的である【百鬼夜行】(ここ)とは別に隠れて吸血する事もありえるので油断はできないが。



「で、宿にリーダーが残って、男性陣は二手に分かれるのか……。とりあえずチョーカは女性の部屋に張り付いててもらおう。他はヤタに南側、【ショーラ】に東側かなぁ」


「どちらもあまり近寄れませんね」


「監視のみになりそうでありんす」



 ヤタは見た目が普通のカラスっぽいので遠目では誤魔化せる。

 ショーラはバグリッパーという二~三〇センチ程の虫の魔物だ。刃物のような顎を持つクワガタと思えばいい。チョーカに次ぐ小サイズではあるが見られれば魔物と分かる外見なので近づくわけにはいかない。

 とは言え、日中の街中に忍ばせる従魔が他に居ないのも事実。

 アカハチの召喚眷属でキラービーを使っても、従魔の召喚眷属ではモニタリングできない。……そもそも五〇センチ程の蜂をブンブンと飛ばすのは目立ちすぎる。ジョロの蜘蛛も同じく普通の蜘蛛より大きいので却下。


 他に隠密に適しているのは影に潜めるオロチと、どこでも侵入できるスライムのクラビーなのだが、ビーツの護衛を離す事は出来ない。吸血鬼の目的にビーツが含まれているのならば猶更だ。

 こうなると自身の従魔が強く育ちすぎているのが逆に苦しくなる。強くなり進化すると体長が増える魔物が多いのだ。


 そんな他の召喚士が聞いたら石でも投げてきそうな贅沢な悩みを考えながら、出来る限り見張るしかないとビーツは思った。ある意味で初志貫徹である。



「あとはフェリクスさんに任せよう。フェリクスさんなら近づいて声も拾えるだろうし」


「王国の暗部とか居ないのですかね?見張りくらいしてもいいものを……」


「どうなんだろ。少なくとも僕が知っちゃマズイと思うよ。むしろ戦力的に僕たちが見張られててもおかしくないし」


「それもそうでありんす」



 王国における最大戦力にして最大の不安要素でもある。ビーツは自身をそう自己分析していた。






■百鬼夜行従魔辞典

■従魔No.62 ショーラ

 種族:バグリッパー

 所属:鬼軍

 名前の元ネタ:しょうけら

 備考:鋭いナイフのような顎を持つ大型のクワガタ。

    顎は180度開き、そんなのが速く飛んで斬りつけてくる。

    まるで鎌鼬であるが、18番目に鎌鼬は使われているのでしょうけらとなった。

    隠密や魔法が得意というわけではないので鬼軍である。



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