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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第五章 焦燥のヴァレンティア
61/170

60:吸血鬼、はじめての王都(カルチャーショック)



「チョーカ、もうちょっと近づける?……そうそう。……えっと、この五人?髪がみんな金髪かな?ローブの人は分からないけど……。あと五人とも目が紅い?……でも普通の冒険者に見えるんだけどなぁ」


「でもこの五人が怪しい」



 管制室の超巨大モニターの前で、ビーツとオロチが並び、管制担当のアカハチにモニター操作をしてもらっていた。

 チョーカの視線を映し出したモニターを中央に大きく出し、西門から伸びる大通りを俯瞰で見渡す。

 やがてオロチが示した「この五人」というのが冒険者パーティーに見えた男女であった。



「怪しいって、魔力が違うって事?」



 オロチの探知能力は魔力探知であり指定した方向の魔力の有無・流れを把握する斥候としての能力である。

 人間で魔力探知が使用できるのはおそらく【魔獣の聖刀】の四人のみであり、もちろんビーツも魔力探知が可能だ。

 しかしビーツが頑張ったところで遠く離れた西門の、数万人居る人の中から違和感を探せというのが無理な話しだ。

 人間と魔族くらいに魔力の過多が違えば分かるかもしれないが、人間とエルフくらいになると分からない。

 強大な魔物で斥候が本職であるオロチはそれを可能とした。が、怪しいだけでよく分からないらしい。



「うーんと、僕たちが今まで会った人種じゃないって事だよね。肌も髪色も違うけど魔族でもないの?」


「ん」


「魔物が人化してるとかは?」


「んー多分違う」



 行き詰ったビーツはヌラを管制室に呼び出した。

 元人間でマモリに次いで長く生きている――いや、アンデッドだから死んでいるが――知識豊富なヌラならばと思ったからだ。

 そしてそれは正解だった。



「おおー!これは珍しい!吸血鬼ではないか!」


「吸血鬼!?」


「ふぉふぉふぉ、まさか全滅したと思っていた吸血鬼が生きていたとは!吾輩も目にしたのは数百年ぶりですじゃ」


「えっと、僕、吸血鬼ってよく分からないんだけど、人種?魔物じゃなくて?」



 そこからヌラ先生の吸血鬼講座が始まった。

 ビーツは前世の知識で魔物の一種だと思っていたが、どうやら体内に魔石はなく、人種らしい。外見的特徴は金髪紅眼で大きく口を開けば牙があるとの事。

 そしてやはり人間の血を吸い眷属と出来るらしいが、日光や銀が苦手で、数百年前に他人種から根絶やしにされたとの事。そんな吸血鬼が今、王都を歩いている。



「日光がダメなんじゃないの?思いっきり歩いているけど」


「劣化吸血鬼は吸血鬼や始祖吸血鬼に比べ、日光の元でも多少の活動は出来るそうですじゃ。魔法や魔道具を使っているのかもしれませんぞ」


「じゃああの五人は劣化吸血鬼って事かな。……でもあの五人を劣化吸血鬼――眷属にした吸血鬼が居るって事だよね?」


「でしょうな」



 それからも吸血鬼の能力――膂力が獣人よりかなり高く、魔力はエルフと同等で魔族には遠く及ばない。魅了の能力や身体を霧状に変化させる個体も居るなどをヌラから教わった。

 結果、ビーツの前世知識と差異はあるものの、大差ではないと結論付けた。

 とは言え、人類の宿敵と恐れられた吸血鬼がこうして生きている。そして何のために王都に姿を見せたのか、なぜ今まで姿を見せなかったのか、分からない事が多すぎた。

 ビーツはチョーカにしばらく監視を続けてもらうように依頼。吸血鬼の能力が未知数な部分もあるので、細心の注意を払い見つからないようにと指示した。


 そこでオロチからまたも言葉が出る。



「ん、マスター。デイドが来た」


「デイド?フェリクスさんもだよね?了解。地上に行こう」



 どうやらオロチの中では、希代の特大剣使いはマンティコアのおまけらしい。

 管制室での監視をアカハチとヌラに任せ、ビーツは地上部の屋敷の応接室へと向かった。





 馬車が行き交う大通り。人波が溢れ、露店が立ち並び、歩くのにも苦労する。

 建物はどれも高く、様々な店の看板が迫り出し、見た目にも華やかだ。

 遠くに見える王城は、白い尖塔を何本も束ねたような荘厳さで、国の象徴としての役割を存分に見せつけてくる。


 ミラレースはそんな光景に圧倒されながらも、辺りを見回しながらゆっくり歩く。

 思わず情報収集の任を忘れ、お上りさんの如く観光したい気分にもなるが、反面で自分たちを地の底に追いやった人間たちへの恐れも未だ若干ある。

 長い年月が過ぎ、ダンジョンで冒険者を幾人も屠り、幾人も眷属化させても、これだけ大量の人種が蠢く王都の大通りは緊張するに値した。

 しかしながら普通の冒険者パーティーを装っているわけで、店々を観光がてらに覗いて回るのも、それはそれで偽装と言えるのではないだろうか。行く先々で情報収集も出来るだろうし。

 少しそんな気持ちが出るほど、王都の誘惑は激しい。誘惑と任務の狭間でミラレースは苦労するのだった。



「……とりあえず宿をとりましょう」



 部屋で腰を据えて打ち合わせし、情報収集を始める。

 観光など後回しで良いとミラレースは頭を振るった。


 大通りを歩く五人は王都が【百鬼夜行】関連で賑わっている事を改めて思い知る。

 露店では「シュテン串」と名付けられた特大の串に刺さったボリュームのある串焼きが売られているし、酒場では″付け尻尾″を大量に腰から下げた狐獣人が接客している「タマモ酒場」なんてものもある。寒くもないのにオロチのマフラーを模したものも売られていた。



(どれだけ浸透しているのだ、【百鬼夜行】は……)



 ダンジョンというものの捉え方が【奈落の祭壇】とまるで違う。王都初日からカルチャーショックを受けたミラレースだった。




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