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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第一章 ダンジョンのある日常
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04:とあるモヒカンの優心

この作品は閑話のつなぎ合わせみたいな感じです。

本編めいたものとかは相当後にならないと出てきません。

お話しごとに視点がバンバン切り替わるのでご注意を。



 ダンジョンマスターというものは、ダンジョンコアと同様に、言わばダンジョンの弱点である。

 公表されているわけではないが、ダンジョンマスターは不老であっても不死ではない。

 そして死ねばダンジョンの機能は停止する。

 むやみに人前に出る事など以ての外であるが、【百鬼夜行】のダンジョンマスター、ビーツ・ボーエンは今日も今日とて庭園や屋敷内をうろついていた。



「もうちょっと音量上げようかなぁ。それに二番から六番のモニターがやっぱ見づらいかな」



 モニターの画面は一番カメラの映像が大きく映り、音声も一番カメラのものが出る。

 それをL字に囲むように二番から六番カメラの映像が映り、一つのモニターに収まっていた。

 冒険者からすれば一番モニターに映ることが誉れであり、観客も一番モニターを中心に見ることが多い。

 当然、一番下の階層を進んでいるパーティーや、名のあるパーティーが映されることとなる。


 ビーツはモニターや音声の調整や、実際に観客の反応を見聞きする為にこうして地上部分に出るのが日課となっていた。

 人前が危険とは言え、ビーツが絡まれることは早々ない。

 外見は一四〇センチ位の小柄な子供で、見る人が見れば最上級のローブを纏っている以外は、普通のおどおどした少年なのだ。

 とは言え、世界的に名の売れた英雄でもあるので、常連の冒険者や観客は当然ビーツだと分かっている。

 そうなるとビーツを英雄視する為に、声をかけづらい。

 そういったわけで、絡まれる事も、もみくちゃにされる事もなく、ある程度自由に歩けるのだ。


 もっとも絡まれた所で、地上部分のダンジョン敷地内では攻撃も出来ないし、敷地外で攻撃されてもビーツの影の中や服の中には優秀なボディーガードが居る。

 攻撃した者は確実に返り討ちになるだろう。

 そうした理由もあり、ビーツは日々人前に出ているのだ。




「おー、ビーツ!こっち来いよぉ!」



 屋敷内に入り、ホールのモニターを眺めていたところで、珍しく声が掛かった。

 ホールではモニター観戦しながら飲み食い出来るように、テーブル席がいくつもある。

 そこで酒を飲んでいた男が手を振っている。

 モヒカンにトゲの肩パッドという世紀末スタイルに大斧を背負った男。

 同じ席には彼より若い冒険者が二人。彼らは「えっ」という表情でモヒカン男とビーツを見比べている。


 周りの冒険者たちも同様だ。

 英雄でありダンジョンマスターのビーツに対して慣れ慣れしすぎるその態度に緊張が走る。

 ――が、当のビーツは嬉しそうに彼に駆け寄った。



「あっ、チロルさん。お久しぶりです」


「相変わらず小っこいなぁ、お前は」



 まぁ座れよ、と椅子と引き、ビーツに促した。

 ビーツも当然のように彼の隣に座る。



「酒飲むか?」


「あ、えっと、果実水で」


「ははっ相変わらず下戸かよぉ」



 緊張した面持ちで若い冒険者が果実水を注文しに行ってくれた。

 彼らからすれば、なぜチロルがダンジョンマスターでもあり英雄でもあるビーツ・ボーエンと親し気なのか分からないのだ。


 チロルはビーツが新人冒険者の時に、冒険者の何たるかを教えてくれた先輩であり、共に依頼もこなした事がある仲だ。

 そんな話しを同じ席に座る若い冒険者に話したことで、少しは彼らの緊張もとれたらしい。

 聞けばすでにベテランのチロルは、後進育成の為に年若い冒険者たちの指導を行っているらしい。

 見た目はアレだけど相変わらず優しい人だな、とビーツは思った。



「で、お前はうろうろと何やってんだぁ?」


「えっと、モニターの見え方とか大丈夫かな、とか、調整とか」


「あーなるほどなぁ。ダンジョンマスター様も大変だなぁ。もっと自分勝手にやっちまえばいいのに」


「えっ、ダ、ダメですよ。みんなに楽しんでもらわないと意味ないですし」



 チロルはチロルで、ビーツの事を相変わらずだなと思った。

 冒険者は時に、大を得る為に小を切り捨て、場合によっては味方をも切り捨て勝利を目指すものだ。

 しかしビーツは甘すぎるほど甘く、それは冒険者として大きな欠点だった。



(ま、ビーツの場合はパーティーメンバーが揃いも揃って甘かったがなぁ。それを通す強さもあったし、結局は治せず終いだったなぁ)



 矯正できないまま自分を追い越し、どんどんと強くなっていった目の前の後輩に目を細める。

 


「あ、そうそう、一二階層のホコレナ草なんだがよぉ。もうちょっと増やしたり出来ねぇのか?今日、依頼で行ったはいいけど、数的にギリギリだったんだわ。やっぱ人気みたいでなぁ」



 ホコレナ草は魔力回復薬の材料の一つであり、その効能は高い。

 冒険者ギルドでの依頼に挙がることも多く、普通は王都より離れた森の奥地で採取するのだが、ダンジョン内にも植生している為、近頃はダンジョンで採取依頼をこなすというのが王都の冒険者では一般的になっている。

 もっとも植生している階層まで辿り着く実力がなければいけないし、一度採取してしまうと一定期間を置かなければ生えてこない。とは言え、ダンジョン外のサイクルからすれば各段に早いのだが。

 ホコレナ草などの高値で売れる薬草類は、狙って採取しにくる冒険者も多い為、いざ採取しようと思ってもすでに刈られた後というケースも多々あるのだ。


 チロルはその事をビーツに言ったわけだが、英雄の世間話を、耳を峙てて聞いていた周りの冒険者たちがギョッとした表情でチロルの方を向いた。

 ダンジョンマスターに直訴!?そんなのアリか!?といった具合だ。

 例え親しくとも、場合によってはダンジョン批判とも受け取られ兼ねない。危険な橋に思えたのだ。

 しかし当のビーツはどこ吹く風である。



「あー、植生に関してはコダマに一任しちゃってるんですよね。なんか木とか草とかバランスがあるっぽくて、適当な数にしちゃうと植生が崩れるらしいです」


「コダマ……ドリアードかぁ」



 チロルは天井の巨大絵織物を見上げ、端のほうに居るドリアードを見ながらそう言った。

 見た目は茶色い肌の幼女だが、肌は樹木のようだし、長い髪は葉のようだ。所々から芽が出ているようにも見える。

 完全な人型とは言えないが、人型と言えなくもない。

 こんな子供が広大なダンジョンの植生を担当しているのかとチロルは感心する。

 が、よくよく考えればドリアードは目撃情報さえほとんどない樹木の精霊と呼ばれ、魔物なのか精霊なのかさえはっきりしていない高位の存在なのだ。

 はっきり言ってドリアード以上に樹木や草花について詳しい者などいないだろう。適材適所だなとチロルは思い直した。



 そんな周りがあたふたしそうな会話を淡々と続けていたビーツとチロルの耳に、どなり声が聞こえて来た。



「はあっ?死ななくなるとか冗談言うんじゃないぜ!馬鹿にしてんのか!あぁん!」



 どうやら受付でダンジョンカードの説明を受けた新人探索者のようだった。

 我の強い冒険者やプライドが高い冒険者、貴族などは講習会を受けないで潜ろうとする者が多く、それは他国から来た冒険者が割合としては多い。

 王国民ほどビーツを英雄視していない他国民は、自分が舐められないように、他人を舐める。

 ビーツ・ボーエンとか言っても大したことないだろ?あぁん?といった具合である。


 そういったわけで講習会を受けない冒険者は結構な頻度でおり、その場合は受付でダンジョンカードの説明として、個人認証・転移の際に必要な事・撮影権の許可登録・許可した場合の不死化のみを説明する。

 当たり前のように淡々と受付が説明するので、冒険者は理解が追いつかない事が多々ある。

 それで困ったとしても自己責任であり、自己責任は冒険者の基本である。


 従って、理解できずに受付に当たり散らす冒険者は、カウンターを砕く勢いで殴りつけ、それが攻撃無効によりカウンターに触れることさえなく、なんじゃこりゃと疑問を抱えているうちに屋敷の入口に控えている衛兵に取り押さえられる――というのがダンジョン【百鬼夜行】の日常であるのだが、今回の冒険者は受付に当たる前に、文句を言い出すタイプだった。



「はるばる来てやったってのに嘘並べてダンジョンに入れさせない気か!この金級冒険者、ボーゼス様を恐れてんのか!あぁん!とんだ臆病者だな、英雄様ってのはよ!」



 あー、こいつ死んだわ、と周りの冒険者たちが可哀想な目で見ているのにも当のボーゼスは気付かない。

 冒険者のランクは鉄級から始まり、銅・銀・金・ミスリル・アダマンタイト級と続く。

 ボーゼスの金級というのは上位のベテランといった位で、街レベルならばトップを張れるものだ。

 しかし、ここは王都。声を高々に自慢するほどでもないと、冒険者たちは生暖かい目で見ていた。


 ホールに居るビーツに至っては、自分の影から出てこようとする少女の頭を必死に押さえつけ、影に戻そうとしている最中でありそれどころではない。



「あのゴミ、殺す……」


「い、いや、ちょっと待ってオロチ!出てきちゃダメだって!」



 そうこうしているうちに、ポンとボーゼスの肩に手が置かれた。チロルである。

 いつの間にか移動しボーゼスの背後をとっていたらしい。



「あぁ?なんだテメーは!」


「俺ぁミスリル級のチロルってもんだ。金級のボーゼス君とやらよぉ」



 自身のギルドカードをヒラヒラと見せながら、目が笑っていない笑顔でチロルが顔を寄せる。

自分より上位の冒険者であり、世紀末ないかつい風貌をしたチロルにボーゼスは一瞬たじろいだ。

 どうやら衛兵やビーツの従魔が動く前に、事を治めようとしたらしい。

 そして力任せに肩を組むと、受付に軽く声をかけ、ボーゼスをホールのテーブル席へと連れて行った。もちろんビーツの席とは別である。


 チロルとしては、ビーツへの悪口を許すつもりはないが、なるべく後輩には死なれたくないし、ダンジョンの知識を正しく持ってもらいたいとも思うのだ。

 そんなチロルを見て、ビーツは「やっぱりチロルさんは優しいなぁ」と思うのだった。



「あのモヒカン邪魔した。殺していい?」


「ダメ」



 影から聞こえる声にダメ出ししつつ、ビーツはため息をつくのだった。



■百鬼夜行従魔辞典

■従魔No.1 オロチ

 種族:ダークヒュドラ

 所属:蛇軍(蛇軍長)

 名前の元ネタ:八岐大蛇(後付け)

 備考:ビーツが最初に従えたシャドウスネークが進化を繰り返した個体。

    最初期の三体である【三大妖】の一体。

    少女の姿は固有魔法【幻影】による仮の姿。本当の姿はデカイ。

    常にビーツの影に潜り、護衛と言いつつ、ビーツから離れない。


■従魔No.91 コダマ

 種族:ドリアード

 所属:狐軍

 名前の元ネタ:木霊

 備考:ダンジョンの植生担当の少女。

    ダンジョン内の森や林を見回るのが日課。

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