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45:【百鬼夜行】の宝物庫

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。


00話に登場人物紹介を追加しました。



 宝物庫とはその名の通り、お宝を保管する倉庫であるが、ダンジョン【百鬼夜行】の宝物庫は王城などのそれとは少し異なる。

 シュテン、マールと共に通路を歩き、その扉を開けたビーツ。

 中に広がる光景に口を開けたマールであったが、それが想像していた【宝物庫】とは何か違うと気付くまで時間はかからなかった。


 積み上げられた貨幣、剣や鎧などの装備品、陳列された薬瓶などなど煌びやかな輝きはある。しかしその煌びやかな空間に似つかわしくないオークたちがせっせと歩き回り、宝物であろうそれらを運んでいる様子が伺える。

 それは肉体労働。宝物庫という豪華な部屋とは無縁に思える作業場に見えた。


 ちなみにマールは帝都を出たことがないので魔物を見た事がない。王国に来るまでの移動も荷馬車の奥で荷物と化していた為、見ていない。産まれて初めて見た魔物が九〇階層闘技場での従魔による集団恫喝現場だったのは忘れたほうが良い悲しい過去である。

 応接室でホーキたち″魔物″と会話し普通に接した事で、彼女の中の″魔物観″は少なからず変化している。通路で見かけたゴブリンや宝物庫のオークを見ても、普通の人間ならば恐れるところ、マールは″管理層で働く従業員″と見ていた。



 入口で立ち止まるビーツたちの元へ、一体の従魔が近寄って来た。



「おお、これは若!どうかなさいましたかな?」


「仕事中お邪魔するね、【カタキラ】」



 カタキラと呼ばれたのはオークキング。二メートル半を超える体躯に豪華なマント、手には杖、頭にはサークレット。見るからに王族なのだが、顔がオークの為、なんとなく着飾った田舎の成金貴族という印象がある。

 彼はこの宝物庫の主。

 ダンジョン【百鬼夜行】におけるこの宝物庫とは、冒険者たちのロストアイテムの集積場。そして再利用施設でもあり処分場でもある。


 例えばモニター撮影権を許可した冒険者がトラップに掛かり死亡扱いになったとする。身体は下着や鎧の下に着るインナー、そしてダンジョンカードなどの特殊アイテムと共に【復活室】へと転移される。装備品や消費アイテム、金銭、ドロップアイテムなどは何処に行ったのかと言うと、この【宝物庫】である。

 もちろん撮影権を拒否した冒険者は死体ごと、マッケロイ達のように″お仕置き″された者も【宝物庫】へと転送させられる。

 ここで保管するべきアイテムは保管し、ドロップアイテムや宝箱として再利用できるアイテムはそちらに回され、死体や何も利用できないアイテムは宝物庫内の【魔力炉】で処分される事でダンジョンを運営する上で必須となる魔力に変換される。


 【百鬼夜行】は世界で一番探索者が多いダンジョンと言われている。

 当然、アイテムロストする者は多いし、その者が持ち込むアイテムも様々だ。

 カタキラは成金オークらしく、物品の審美眼に優れる。物の良し悪しを見極め、物の扱いに優れ、それらを管理し眺めるのが何よりの楽しみなのだ。どこかのアダマンタイト級ドワーフと同じような趣味と言える。自分で作りはしないが。



「で、要件なんだけど、この子マールって言うんだけど今度管理層で侍女の仕事するから顔見せ。よろしくね」


「マ、マールです!よろしくおねがいしますっ!」


「おお、あの時の少女か。余は若からこの宝物庫を任されておるカタキラだ。よろしくな。しかし普通の人間が管理層で働くとは、若、思い切りましたな」



 管理層で働くのは従魔とその眷属のみという事は、マールも聞いていた。

 それよりも自分の事を″普通の人間″と称してくれた事が嬉しかった。もちろん魔物からすれば人間も獣人も同じなのだろうが、獣人は人間ではないと差別を受けて来た身としては、その価値観の違いが嬉しかった。



「まぁこっちの都合と本人の希望とかでね。で、この首輪なんだけど」


「んー、なるほど隷属の首輪。近くで見ると一般的なものと大分違いますな。さぞ強力な隷属魔法がかかっていたのでしょう」



 ビーツから見れば王国で見られる一般的な隷属の首輪との違いが分からなかったが、カタキラは一見で″違う″と看破する。

 マッケロイが死んだ事で隷属魔法自体は消えている。しかし首輪を外さない事には″奴隷″である事には変わらず、新たな隷属魔法が掛けられれば、また同じように身体の自由が奪われるほどの隷属が為されるだろう。

 だからこそ隷属魔法が切れている今、首輪を外さなければならない。

 だからこそビーツはまず【宝物庫】へと来たのだ。



「どう思う?再利用はもちろん認めないけど、保管か処分か」


「まぁ処分でしょうな。保管した所で余が愛でたい品ではありませんし、もっと言えばエドワーズ殿やユーヴェ殿に一度見せた後に処分、ですかな」


「それは考えたんだけど、見せるだけで済むとは思えないんだよね。持ち帰って調べるから貸してくれって触れさせる事になりそうだし」



 首輪の処遇をどうするか、という話しだがビーツにはこれが触れて安全なものなのか判断できなかった。

 なので第一王子のエドワーズやギルドマスターのユーヴェに触れさせるのは躊躇われた。仮に彼らが触れなくても渡した先で誰かしら触れるだろう。この隷属魔法が込められた首輪を触れさせるのは安全なのか危険なのか、その判断は王国内では無理だと思えた。

 だからこそ一時的にダンジョン内で保管する案もあるとビーツは考えたのだ。



「うーん、じゃあやっぱ思い切って処分しようか。報告は口頭だけにするよ。ちなみにカタキラ、外せる?」


「お任せを」



 ビーツがカタキラを頼ったのは何も首輪の処遇に関する意見を聞きたかったというだけではない。彼はアイテムを扱うプロなのだ。

 時に宝物庫へと送られるアイテムの中には、呪われた装備や特殊な魔道具などもある。それらを扱う彼は解呪の技術や呪い耐性も備えており、さらにビーツより下賜された装備品によって魔法耐性などもバッチリ。隷属の首輪を扱うならば従魔の中ではカタキラだろうとビーツは思っていた。


 そして、その考えは正しく、慎重にマールの首元を両手で操作した結果、首輪は外れた。

 その光景は巨大なオークが獣人の少女の首を両手で絞めるが如く″事案″な図柄だったが、そんな事を思うのはその場でビーツだけだった。


 カチャという音と共に、自分の首から外れたそれを見ると、マールは大粒の涙を流す。



「うわあああん!ありがとうございます!ありがとうございます!」



 その光景を見たシュテンは閉目してうんうんと頷き、ビーツはカタキラに向かって「お~」と拍手。カタキラは照れたように、それでも王の如く「ぶひひ」と笑うと手にした首輪を魔力炉へと投げ入れた。




――私はどうして


――いや


――私は生きている


――私はこうして生かしてもらった



 マールは本当の意味での″自由″を手に入れた。




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