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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第一章 ダンジョンのある日常
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03:初心者講習 後編



 ジェルリアはコホンと一つ咳払いすると、話を続ける。



「少し脱線しましたが説明を続けます。次に最も難しいという点ですが、一〇〇階層もある時点で他のダンジョンに比べ難易度が高いというのはお分かりかと思います。それ以外での難しさというのは、魔物の種類の豊富さ。そして罠の種類の豊富さでしょう。これは実際に潜ってみて感じて頂ければと思います」



 一〇〇階層もあるのなら、その分魔物は多いだろうし、罠の配置も多いのだろう。

 受講者たちはそろって頷く。



「それと一部のダンジョンで『フロアボス』と呼ばれる魔物がいるのはご存じでしょうか。【奈落の祭壇】であれば一〇階・二〇階・三〇階層に控える強力な魔物のことです。この【百鬼夜行】では全ての階層に『フロアボス』がおります」



 受講者全員の目が見開く。



「ちょ!地下一階からフロアボスが居るってのか!?」


「はい。といってもさすがに一階のフロアボスはかなり弱めですが。全ての階層は共通して、最奥にボス部屋があります。フロアボスを倒すとその部屋から次の階層に行けるわけです」



 納得したくないが納得せざるを得ない様子の受講者たち。

 思っていたよりも格段に高い難易度だと感じる。

 五年も経ち、これだけ冒険者が溢れているにも関わらず未だ四八階層までしか到達していないというのも納得だ。



「最後に最も安全という点ですが、ここが一番のポイントですので、心して下さい」



 そう言うジェルリアに視線が集まる。

 ここまで驚きっぱなしだったのに、まだ何かあるのか、と。



「階段を下りた先は全層共通で安全地帯の部屋となっており、その部屋に居る限り魔物が出ることはありません。部屋の中には休憩スペースと男女別に分かれたトイレがありますのでご利用下さい」


「トイレがあるの!?」



 女性冒険者から声が上がる。

 ダンジョンに限らず探索中のトイレは女性にとって死活問題だ。

 ダンジョン内にトイレがあるというのがまず非常識だが、それが全階層にあるとは嬉しい事である。



「また、部屋の中には転移魔法陣があります。そこから帰還室に戻ることが出来ます。帰還室は屋敷に入って左手の二番目の部屋になります。モニター観覧ホールの横ですね」


「ま、待ってくれ。転移魔法陣ってのはあれか?ダンジョンのトラップとかにある、あの……」


「そうですね。そのトラップを利用した階層転移システムとでも言いましょうか、これもダンジョンマスターの力による移動手段の提供という事です。

 皆さま最初はこのフロアから階段を下りて地下一階へと向かわれますが、二階以降は屋敷に入って左手手前の転移室からダンジョンに向かって下さい。転移室の魔法陣が、各階層へ向かう魔法陣。帰還室の魔法陣が、各階層から帰る魔法陣となります。

 転移室の魔法陣は、ダンジョンカードを持ち、利用した転移魔法陣の階層を思い浮かべれば、その階層へと転移します。ダンジョンカードはこの講習を終えた後に受付で受け取って下さい」


「ん?行きも帰りも転移魔法陣を使うってことか?」

「一度の探索で何階層も一気に潜るんじゃなくて、一階層ずつのがいいって事かな」



 重要情報が多くなって相談しだす冒険者たち。

 普通のダンジョンでは何日もかけて深部まで潜り、また何日もかけて地上に戻るのが当たり前だ。

 しかし、百鬼夜行では違うと言う。

 一層分の行きだけを考えればいいとなれば、持ち込む荷物も違うし、体力・魔力の温存など考え方が変わってくる。



「ダンジョンカードはあくまで個人を認識するものですから、その人が何階まで進んだかで転移候補が変わります。魔力認証もしていますのでカードの受け渡し等も出来ません。臨時パーティーを組む際やポーターを雇う際にはご注意下さい」



 自分は一〇階に行きたいのに臨時パーティーメンバーやポーター(荷物運び)が九階までしか到達していないのなら、例えパーティーを組んだとしても一〇階へは行けないわけだ。

 一〇階まで進んでいるのに、九階に転移するというのは可能である。

 そういった説明がジェルリアから為された。



「最後にもう一つのダンジョンカードの機能……というよりダンジョン【百鬼夜行】の機能をカードに登録する必要があります。それはモニターへの撮影権をどうするか、です」



 庭園と屋敷内ホールにあるモニターでは、冒険者たちが探索し、魔物と戦っている様子を映し出している。

 そのモニターに映し出す事を許可するのか否かという話しだ。



「モニターに映されれば戦い方や秘匿したい能力が映し出され、衆目に晒される可能性があります。逆にメリットとして、映ることで名声を得やすいですし、何よりダンジョンの機能で【不死】になります」


「「「……えっ」」」



 講習者一同が再度唖然とする。

 ジェルリアが言った意味が分からないのだ。

 この【不死】という情報が他国や遠方に流れる事は滅多にない。特異すぎて誰も信じないだろうと噂にもなりにくいのだ。

 もちろんそれを真実と受け止めるものもいるが、残念ながら今回の受講者はその噂自体を知らなかった。



「撮影権を拒否した場合、罠や魔物相手に死ぬのが普通です。しかし撮影権を了承した場合、ダンジョン内で死ねば復活室という部屋に転送されます。死ぬことはありません」


「ほ、本当かよ!さすがに嘘だろ!」


「復活室は帰還室の隣りですので、そこで観察するか、ホールで先達の冒険者にお聞きすればいいかと。

 但し、死亡時のペナルティとして、装備品・所持している消費アイテム・ドロップアイテム・金銭の全てがなくなります。身一つの状態で復活室へ転移されますが、それでも死ぬよりはマシだと思われます。ギルドとしては撮影権の了承をお勧めします」



 ゴクリと唾を飲む音が聞こえる。

 確かに死なないのならば撮影権は了承すべきだ。

 しかしペナルティもかなり痛い。

 探索し魔物を倒すために苦労して揃えた装備品やアイテムが全てなくなると言われれば、おいそれと死ねなくなる。

 いや、死なないようにするのが普通なのだが、いざ死なないとなると心構えが難しい。



「撮影権は後から変更できるのか?」


「もちろん出来ます。その際は受付カウンターでご提示下さい」



 それから細かい質問が相次いだ。

 当たり前だが、死なないダンジョンというもの自体が初めてなのだ。

 確認できる事は出来るだけ確認しておきたい、そういう冒険者が多かった。

 一通り質疑応答を終え、ジェルリアは初心者講習会を締める。



「では初心者講習はこれで終わりとなります。この部屋を出て右隣の部屋が地下一階への入口となりますので、受付でダンジョンカードを受け取った後、潜るのならそちらからどうぞ。

 最後に絶対に守って頂きたい注意事項がありますので、お伝えして終了と致します」



 ジェルリアの目が一段と鋭くなる。

 やっと終わったかと安堵した講習者たちが、一斉に訝しんだ。

 この期に及んで何を言うのか、と。



「この地上部分……屋敷や庭園もですが、ダンジョンマスター本人や、その従魔である百鬼夜行の面々がよく見かけられます。屋敷内には必ず一体は常駐しています。決して喧嘩を売ったりしないで下さい。決して迷惑をかけないで下さい。特にダンジョンマスターへの悪口・陰口の類は絶対に厳禁です。

 このダンジョン【百鬼夜行】で一番多い死因は、撮影権拒否による罠や魔物相手の死亡ではなく、ダンジョンマスターの悪口を言ったことによる従魔からの報復です。従魔はダンジョンマスターへの暴言を見逃しません。運良くダンジョンマスター自身が庇う場合もありますが、普通はありえませんので」



 講習会場はシーンと静まり返ったのだった。




ジェルリアさん、話し長いっすね、あ、いや、まじですみません(ボコォ

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