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38:とある従魔の寝起き散歩



 ビーツが初めて従魔を手にしたのは三歳の時。

 それは小さなシャドウスネークの幼体だった。

 大きな蛇に成長して欲しいと大蛇(オロチ)と名付けた。


 その後、狐のタマモと、(オーガ)のシュテンを従魔とし、従魔の名前を″妖怪縛り″にしようと決める。

 後付けで「じゃあオロチは八岐大蛇ってことで」と自分を納得させたものの、『日本三大悪妖怪』に『玉藻前』と『酒呑童子』はいるが『八岐大蛇』はいないと気付いた時にはすでに遅く従魔三体を【三大妖】と呼んでいた。


 そこから従魔を増やし名付けの″妖怪縛り″を継続、さらに謎の″四文字以内縛り″にしたのは何故か。

 召喚する際の呼びやすさを重視したのか、レトロゲームの名付けシステムを踏襲しているのか、本人にもいまいち分からないこだわりのような物だ。

 そのこだわりからフェンリルは鍛冶ヶ嬶(カジガカカ)を元ネタに『カジガカ』と名付けられ、謎の一文字消去となったわけだが、ビーツは「ど、どうせこの世界に鍛冶ヶ嬶なんて知ってる人いないし(震え声)」と自分に言い聞かせたものの、なんとなくフェンリルを不憫に思ってしまう今日この頃である。



 そんなビーツにも従魔にするに当たり、憧れの魔物というものが存在した。

 この魔物溢れる世界に転生した時から出会う事を夢見た存在。

 魔物の頂点と言われる種族――ドラゴンである。



 誰もが知る存在でありながら、滅多に見る事の出来ない種族。(まぁ頻繁に見られても世界が滅亡しそうだが)

 大陸一周の冒険の末、ビーツがやっと出会え、従魔に出来た時、すでに従魔は九九体。

 記念すべき百体目が憧れのドラゴンという事に、喜びと同時に「これが最後の従魔か」と感慨深くなった。

 すでに二つ名を【百鬼夜行】と名乗っていた為か、自身の召喚士としてのキャパシティのようなものを百体と分かっていたのか、実際、それ以降ビーツは従魔を増やしていない。


 最後の従魔という事で、とっておきの妖怪の名前を付けた。謎の″四文字縛り″もなしだ。

 鬼っぽくなっちゃったけど人化すれば二本角で鬼っぽく見えなくもないし……とまたも自らを納得させた。

 そんなとっておきの従魔は【三大妖】のどの軍にも属さず、ボス戦の従魔スロットのテーブルにも出ないようになっている。

 これはスライムのクラビーも同じなのだが、クラビーはビーツの傍から離れないようにする為の措置であり、百体目の従魔は完全に秘匿する為の措置と言える。





 ペタペタペタ


 ダンジョン【百鬼夜行】の一〇一階層、各部屋をつなぐ廊下を歩く少女の姿。

 緑銀の髪を伸ばし、薄緑のワンピースドレス。そして裸足。

 絵織物と違うのは腰から伸びるゴツゴツとした強靭な爬虫類を思わせる尻尾だ。

 恐らく意図的に描かれなかったのであろう、その尻尾はペタペタと歩くたびに左右に揺れている。



「ふぁ~~あ」


「おはようございます。相変わらず眠そうですね」



 欠伸の拍子で大口を開けたままの少女は声に振り返ると、掃除用具を持ったサキュバス侍女の姿があった。



「おー、ホーキかー。おはよーなのだ」


「今回はまだ一月(ひとつき)ほどですよ。寝たりないんじゃないですか?」


「あー、そんなもんかー。でも起きちゃったししょーがないのだ。ビーツはー?」


「今は管制室ですよ。……というかダンジョン機能でも念話でも使えばいいでしょうに」


「んー、まー、見つからなかったら使うのだ。じゃー管制室に行ってみるのだ」



 そんな会話をして世話しなく働くホーキと別れた。

 あまり歩きなれない廊下を進み、部屋の扉に掛かれたプレートからお目当ての管制室を探す。

 途中、ホーキと同じように管理層で働くシュテンの召喚眷属であるゴブリンたちに出会うも、少女を見たゴブリンたちは恐れるように廊下の壁沿いにビシッと整列し、少女の道を開けるのみだ。

 そんな様子を「おー、シュテンの眷属はちゃんとしてるなー」と眠そうな目で見ながら通り過ぎるのみであった。魔物界における頂点には最下層の心の機微など分からない。


 ややあって管制室に辿り着いた少女は、「ここかー」と何の躊躇いもなく自室のような感覚で扉を開ける。

 部屋に広がるのは庭園のそれなど比較にならないほどの超巨大モニター。

 ダンジョンの各層での探索者の様子が映されており、その手前には多数の小モニターでそれぞれ管制するオペレーターもどきのキラービーたち。

 この後方、一段高い所からキラークイーンビーのアカハチと、今日はそれだけでなく、ビーツや【三大妖】を始め、何体かの従魔が揃っていた。



「ビーツ」


「ん?……あっ【オオタケマル】!おはよう、今回は早いね」



 オオタケマルと呼ばれた少女がペタペタと集まる従魔たちを無視するかのようにビーツに近づく。挨拶もされなかった他の従魔にしても、それでオオタケマルに何か思う所はない。元よりそういう魔物だと知っているし、何より主第一なのはどの従魔も同じなのだから。



「前回は半年で、今回は一月か。おはよう、タケ」


「随分と不定期でありんす」


「寝すぎて逆に身体の調子が悪くなりそうですね」



 シュテン、タマモ、ジョロが続いた。

 近づいたオオタケマルの頭をよしよしと撫でながら、ビーツは話す。

 滅多に起きないオオタケマルとのコミュニケーションは召喚士にとっても重要なのだ。

 それをオオタケマルは眠そうな目をさらに細めて嬉しそうにされるがまま、ポツポツと会話していた。



「――で、みんな集まってどーしたの?」



 これだけの人数が管制室に集まるのは珍しいというのが、ひたすら寝ているオオタケマルにも異常だと分かる。

 それを聞こうとした所、屋敷の受付部分を映していたモニターから音声が流れ出した。



『貴様!こちらを帝国侯爵家次男のマッケロイ様と知っての物言いか!』


『無礼者!言うに事かいて″初心者″だと!?』


『これだから王国の田舎者どもは常識も礼儀も知らぬと言うのだ!』



 どうやら帝国貴族の青年が、自前の騎士たちを引き連れ、ダンジョン登録に来たらしく、ギルドの受付嬢に食って掛かっている。

 他国の貴族や、他国で名を馳せた傲慢な冒険者によく見る光景なのだが、今回はいささか傲慢の度が過ぎるらしく、暴言の類が止まらない。



「……お祭り?」


「いや、違うよ」



 人間の営みに疎いオオタケマルには賑やかなお祭りに見えたらしい。まぁある意味でお祭りなのだが。

 ビーツは苦笑いしながら、オオタケマルにも伝わるように説明してあげるのだった。





■百鬼夜行従魔辞典

■従魔No.100 オオタケマル

 種族:エンシェントドラゴン

 所属:なし

 名前の元ネタ:大嶽丸

 備考:記念すべき百体目の従魔にして魔物の頂点と言うべき種族の少女。

    年老いた竜が成ったものではなく、元々エンシェントドラゴンという竜種である。

    秘匿しているのはその種族の希少さと竜人化できるという事実を隠す為。

    基本的に寝ている。年単位もざら。



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