36:とあるカオスパーティーの終結
パチパチパチと拍手と共に歓声が上がる。
五〇階層の転移魔法陣から帰還室に帰って来た【混沌の饗宴】を迎えた冒険者たちによるものだ。
ベン爺は軽く手を上げ、フェリクスは頭を掻き、レレリアは従魔メダルを見せびらかせるように掲げて答えた。
「あっ、お疲れさまです。フェリクスさん、皆さん」
近づいてきたのはダンジョンマスターのビーツだった。
自身の従魔が負けたのを意にも解せず、【混沌の饗宴】が四九階層を突破した事を純粋に祝福している。
「おぅビーツ。いい従魔持っとるのぅ。おかげで楽しめたわい」
「ありゃ強すぎだろう。どうなってんだよ、お前の従魔」
「あはは……」
好評なのか不評なのか分からないが従魔が強いと言われれば悪い気はしないビーツであった。
レレリアは従魔メダルの装飾をどうやって作っているのか気になるようだが、ビーツがダンジョンマスター能力で作り出したものであり、ビーツ自身もよく分からないので愛想笑いで過ごすしかないのだ。
「えっと、それでこれからどうするんです?お目当ては従魔戦だったと思いますけど」
「俺はそろそろ時間切れだな。いつまでも王城に顔出さないわけにもいかないし」
フェリクスがそう言う。どうやら彼のダンジョン探索は終了らしい。
この従魔戦が一区切りと話していたようで、レレリアとベン爺は特に気にしないような様子だ。
「私は色んな従魔メダルが欲しいから続けるんだけど、六〇階とか行ったところで極端に強い従魔が出るわけじゃないんでしょ?だったら四九階層で周回しても色んなメダルゲットできる機会的には変わらないし、五〇階以降には行かないわね」
「わしはやっぱ四九階層じゃな。あのゴブリンキングも居るし、従魔とも戦える。わし好みの階層じゃよ」
「四九階層なら大通りを真っすぐ行くだけで罠とかないしな。俺が斥候役で付いて行く必要もないし、だったら抜けても問題ないってわけだ」
どうやら【混沌の饗宴】は解散し、レレリアとベン爺の二人で四九階層に入り浸るつもりらしい。
パーティーを解散と聞き少し残念に思ったビーツだったが、それでも二人がまだ楽しむつもりだと分かると嬉しそうにした。
ビーツはダンジョンマスターとして挑戦者や観戦者に楽しんでもらう事を第一にしている。自身や従魔はテーマパークの従業員のような感覚なのだ。
「じゃあベンさんとレレリアさんはまた宜しくお願いします。フェリクスさんとデイドも気が向いたら来て下さいね」
「ああ」
♦
「えぇ~~~!五〇階層行かないの~~~!?」
一〇一階層の管制室。
嘆いているのはサキュバスのモクレン。
ダンジョンのトラップデザイナーであるモクレンは、魔力探知に優れたデイドに全ての罠を抜けられた事に躍起になり、魔力を使わない罠の開発に力を入れていた。
しかし魔力を使わないとなると、古典的な落とし穴やトラバサミのような隠した所で見た目に違和感があるものしかなく、それを改善し尚且つデイドでさえも引っ掛かりそうな罠の開発となると困難を極めた。
そうして短期間で作られた試験機のような罠はビーツの意向により五〇階層以降に配置された。
今も頻繁に探索者が入っている四九以下の階層には置きたくなかったという事である。
ところが【混沌の饗宴】は五〇階層を探索せずに、お目当てのフェリクス(というかデイド)は探索自体を止めると言う。
私の苦労は何だったのかと、モクレンが項垂れるのを隣でハーピークイーンのクラマが慰めていた。
「まぁまぁ。またチャンスはあるナノヨ。オロチっぽい探知能力の従魔が他に居ないとも限らないナノヨ」
召喚眷属の多数のハーピーがモニタリングしている後ろで、クラマはそう言う。
クラマはアカハチなどと同じく、眷属の視覚・聴覚の情報を統括する能力がある為、管制担当の一人でもある。
しかし、そう言うものの、オロチやデイドクラスの探知能力が突出した者が稀有であるとクラマ自身も自覚しており、あまり慰めにはならないと思っていた。
「う~~、ナノちゃんは優しいねぇ」
「ナノちゃんではないナノヨ。我にはクラマという名があるナノヨ」
その後しばらくして、管制室の四九階層モニターには、ベン爺が来るや大通りを素通りさせるゴブリン騎士団、そして話しながら切磋琢磨し合うゴブリンキングの姿が映っていたらしい。
■百鬼夜行従魔辞典
■従魔No.90 クラマ
種族:ハーピークイーン
所属:蛇軍
名前の元ネタ:鞍馬天狗
備考:ハーピーを眷属とする女王。
アカハチと同じように視覚・聴覚を統括する能力を持つ、モニター管制担当の一体。
神経質なアカハチと違って気分屋な彼女はカメラワークがかなり異なる。
それもまたセンスとビーツが矯正するような事はしない。




