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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第三章 最高位冒険者たち
35/170

34:【白爪】vsガシャ



 ――強い。


 少なくともただのスケルトンではないし、下手したら先ほど戦ったゴブリンキングより強い。

 剣を持っているのだから『スケルトン・ソードマン』か、鎧を着ずとも『スケルトン・ナイト』かと思っていたが、もしかすると『レジェンダリー・スケルトン』かもしれん。ベン爺は咄嗟にそう判断し、ガシャの評価を上げる。


 レジェンダリーともなれば早々出会える敵ではない。

 まるで意思を持つかのように剣技を極めたスケルトンとも言われ、死者でありながら生者の如く技術を磨くその魔物は、討伐レベルが極端に高くなる。

 ましてや見た目が最下級アンデッドのスケルトンそのものなのだ。傍目ではそれがレジェンダリーか、それ以下かなど分からない。戦っての様子で「こいつはレジェンダリーでは?」と話が出るものなのだ。


 ベン爺も長い冒険者生活で強いスケルトンと戦った事があるし、おそらくレジェンダリーと思われる個体とも戦った事がある。

 ただそれをレジェンダリーだと証明する事は無理だ。剣を持っていたのなら「強いスケルトン・ソードマンなのだろう」と言われればそれでお終いである。だからこそスケルトンという魔物の評価は難しい。


 ……というのが強者の意見なのだが、一般的に出現するスケルトンは間違いなく最下級アンデッドであり、極稀にソードマンやナイトが出るといった程度の事である。

 冒険者ギルドという組合がスケルトンをアンデッドの最下級とする事を覆すには至らない。スケルトンの九割以上が銀級冒険者程度で狩れるものなのだから。





『――ではガシャはレジェンダリーでも、ソードマンでもないと?』



 モニターではガシャとベン爺の壮絶な打ち合いが繰り広げられていた。

 お互いに隙を見せない構えに痺れを切らせたベン爺が突っかかり、ガシャは剣と盾を巧みに操り、ベン爺の【白爪】を弾き、逸らし、避けては斬りつける。

 その高度な剣術に観客は言葉を失いながらもポポルとシュテンの実況解説に耳を傾ける。



『スケルトンが剣を持っていればソードマン、盾を持っていればシールダー、鎧を着ていればナイトなどは、そもそも人間が勝手に区分けしているに過ぎない。ゴブリンじゃあるまいし個体差はあれど職種で能力が変わるなど、スケルトンにはあり得ない。だから全て【スケルトン】という種族の魔物だよ』



 シュテンの言い分は観客、特に冒険者にとって納得できるものではなかった。

 これまでのアンデッド階層で戦ったスケルトンや、通常の冒険者としての依頼で屋外にて戦ったスケルトンと、ガシャが同一の種族とは思えない。

 これまでもイナバやダイダラなど「強くなりすぎた同一種族」を見てきたが、ガシャはそれとは違う。意思もなく虚ろに襲ってくるだけの死者が訓練だけでこれほどの強さになるとは思えなかった。



『じゃあ何が違うんだという話しだが、それはスケルトンという魔物が生成される過程だ』


『生成される過程……ですか?』


『死霊が生まれやすい地域の魔力溜まりから生まれるのが通常のスケルトン。人間の死体に魔力が籠って生まれるのがガシャのようなスケルトン。どちらも【スケルトン】という種族に変わりはなく、だからこそ最下級アンデッド種族として四九階層にも出やすいという事だ』



 そのわりには中々出なかったがな、とシュテンは言う。



『……つまり、ガシャは元々人間で、死んだ後に魔物となったスケルトンという事ですか』



 そういう話しは一般人にもよく聞くもので、だからこそアンデッドにならないように死者は教会や聖職者の手によって清められるし、戦地となり死者を多く出した土地には聖職者が赴く。それも神聖国や教会の仕事なのだ。



『ガシャは相当昔の今は亡き某国の騎士だったらしくてな。剣技を使える従魔も限られているものだから、私が一番模擬戦をしている相手なんだ。ま、スケルトンである以上強さに限界はあるのだが、根が真面目でな。今も必死に勉強し鍛錬し、剣技を磨いているよ』



 だからこそ、この戦いが楽しみだ、とシュテンは笑った。

 シュテンと模擬戦を繰り返している剣士――というだけで観客のガシャへの評価がググッと上がる。だからこそ、これほど強いのか、と。



『ちなみにそういったアンデッドの知識は、今発売中のモンスター図鑑の第六巻に書いてある。気になる者は是非買って読むといい』



 マーケティングも忘れない。

 さすが【三大妖】である。





 ガキンガキンと連続した音がボス部屋に響く。

 ベン爺とガシャの戦いは続いている。両者共にほとんど足を止めての打ち合いだ。

 ベン爺は獣人特有の俊敏性があり、ガシャは骨の体特有の身軽さがある為、本来ならばヒットアンドアウェイが共に基本戦術だろう。

 特にガシャは速さだけならばベン爺よりも速い。なのに打ち合う。


 力の強さは圧倒的にベン爺。なのに打ち合う。

 それを可能としているのは経験を元にした圧倒的な技量であった。

 アダマンタイト級として第一線で活躍し続け、老齢となったベン爺の経験・技量は冒険者の中でも獣人の中でも随一と言っていい。

 しかしガシャは亡国の騎士として仕えた後に魔物となり剣を振るい続け、ビーツの従魔となってからはシュテンを始めとした強者たちと日々切磋琢磨している。

 それはベン爺の約七〇年の経験・技術を超えるものだった。



 入口の扉の近くで、壁に寄りかかるようにフェリクスとレレリアはその戦いを眺めていた。



「ベン爺が楽しそうで何よりねぇ」


「あれが四九階層で出るレベルの敵かよ。どうなってんだビーツの従魔どもは」


「さすがに最弱じゃないでしょ。確率が低いほうに当たったんじゃないの?」


「スケルトンでこの強さとか嫌になるな。普通、スケルトンとかはゆっくり襲ってきて打撃一発で倒されるだろ。どうやりゃ筋肉もない身体であんな鍛えられるんだか全然分からねえ」



 軽口を叩きながらも二人の視線は鋭い。即座に動けるように気も張ったままだ。

 しかし参戦せずに眺めているのはベン爺に気を使っての事ではなく、参戦せずとも問題ないという判断からだ。

 つまりはベン爺一人でも勝てるだろう。万一ベン爺が倒されても、フェリクスとレレリアの二人掛かりであれば間違いなく倒せるという判断。

 さらに言えばガシャとの相性的にベン爺一人よりフェリクス一人の方が楽に勝てるとも思えた。フェリクスは剣技だけでなく光魔法も多用する戦い方だし、デイドも居るのだから。



 二人の会話も耳に入らずにベン爺とガシャの戦いは苛烈になる。

 スタミナという概念のないスケルトンのガシャと、老齢となったベン爺。

 持久戦になればベン爺が不利になるかと思いきや、実際は逆だった。


 ガシャの身体はただの骨なのだ。

 いくらベン爺の攻撃を躱し、盾で受け、剣で受け流しても、骨はミシリと軋み続ける。

 ベン爺のパワーと連撃の前に、己の身体は思いの外早く崩れようとしている。そう確信したガシャは一度大きく距離をとった。



 これが最後の攻撃になる。

 距離をとったガシャを見て、ベン爺はそう思った。



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