32:とあるゴブリンキングの不憫
『おっとこれは……!どうやら大通りを直進して王城に向かうようですね!』
『初めてのケースだな。ゴブリン騎士団の封鎖を突破し、ゴブリンキングの陣を正面から突破するつもりだろう。さすがといった所か』
『ゴブリンキングはシュテンさんの召喚眷属と聞きましたが』
『ああ、私が召喚した者だが通常のゴブリンキングよりも強くなってしまってな、普段は兵をバラけさせたり、自らが戦っても手加減するよう言明しているのだが』
『以前にヌラさんも仰っていましたが手加減させているのですか?』
『そうしなければミスリル級程度では突破できまい。通常のゴブリンキング単体の強さが金級冒険者上位相当と聞いているが、それより二回りほど強いからな。さて、今回の相手ではどうでるのか、楽しみだな』
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「そおい!そおい!そおい!」
レレリアの投げる玉が、先々で爆発を起こし、有害な煙を上げ、着込んだ鎧が無駄なものだとでも言うようにゴブリンが倒れていく。
「あーあー、なんだこれ、戦争じゃねえか。こういうのガラじゃないんだよなぁ」
愚痴りながら特大剣を振りゴブリンナイトを一撃で切り伏せていくフェリクス。
主人を下ろしたデイドは羽ばたきながら牽制の闇魔法を放つ。
「むう、わしの所にはあまり来ないのう」
残念そうに口を尖らせるベン爺の両手には【白爪】の二つ名の元となったミスリル製のクローを装備していた。鎧を着こんだゴブリン用であるが、ダンジョン探索をし始めてから装備するのは初であった。
この後のゴブリンキングと従魔戦に期待している証拠である。
北区画の大通りを封鎖するバリケードを破り、隊列を為すゴブリンナイトやゴブリンジェネラル級の騎士団を次々に倒して行く三人。
モニターでその様子を見ている観戦者たちはアダマンタイト級という異次元の戦いに、ある者は感動し、ある者は恐怖し、ある者は困惑している。
管理層のビーツや従魔たちは、やっとある程度の戦いが見られたかと安堵する一方で、気持ちはすでに従魔戦に向けていた。
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王城前広場ではゴブリンキングが醜い笑顔で、大剣を片手に立ち上がっていた。
すでにゴブリンアーチャーからの偵察報告で王城周りの貴族区に居る冒険者パーティーは【混沌の饗宴】の三人のみだと判明している。
ならば大通りを直進してくる者たちのみに対して警戒すれば良い。
しかしながら貴族区に散らばった全てのゴブリンを大通りに集め、集中攻撃するというのは、いくら【混沌の饗宴】の三人が強いとは言え、他の冒険者への対応と違いすぎる。それは強者に対する依怙贔屓だ。
だとすれば従来通りに分散させたままで、このまま蹂躙され、自身が戦う時も手加減をし、ある意味素通りのようにしたほうが良いのか。
それともせっかくの強者なのだから自身が戦う時くらいは手加減をせずに本気で戦ったほうが良いのか。
難しいところだ。
召喚主であるシュテンからは事前に「任せる」と言われ、特に指示は受けていない。
最善とは何か、それを為す考えを纏めなければならない。
詰まる所、これは今までの冒険者とは桁が違う強者に対する、一体のゴブリンキングとしての試練である。挑戦にして試金石である。
高揚を感じる。
自分が召喚された存在意義を感じる。
ゴブリンキングは独特の醜悪な笑い顔で、ゴブリン兵たちに指示を始めたのだった。
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「ぬわー」
ベン爺の白爪によって貫かれた腹部を押さえ、右手を大仰に天に伸ばしながらゴブリンキングは倒れた。
笑いながら戦っていたベン爺はいつの間にか流れていた汗をぬぐい「ふぃ」と一息つくが、その表情は達成感や強敵に対する戦闘欲の開放というよりどこか残念そうなものだった。
そこへゴブリンジェネラル達を倒したレレリアとフェリクスが合流する。
すでに王城前広場にゴブリンの姿はない。
「いやー、あんなゴブリンキングいるのね。そこらのヤツより数倍強いでしょ」
「ベンさんとあれだけ殺り合えるんだからな。普通のヤツなら一発だったろうに。でもその表情って事はまだ満足できてないんスか?」
「うむぅ。いや、恐らくヤツめ、最後に手を抜いたんじゃないかとのう」
実際に戦っている最中は、そのゴブリンキングらしからぬ強さに驚き喜んだものだが、数分間打ち合った結果、致命傷となったのはゴブリンキングが自ら見せた大きな隙を突いたものだった。
もちろんベン爺としてはそれが囮であると考えた上で、反撃に対する防御や返しを考慮しての攻撃であったが、それはクリーンヒットし、そのままゴブリンキングは倒れてしまった。
そんな話しを聞いた二人は「ベンさん相手に手抜きするかねぇ?」「傍から見てたらそうは見えなかったけど」と話しもするが、戦っている本人にしか分からない感覚もある。それもベン爺ほどの達人となれば、その戦闘感覚は常人と逸脱しており、その本人がそう言うのであれば、それはそうなのだろうと納得せざるを得なかった。
しかし、何はともあれこれでボス部屋へと行ける。
三人は気を取り直して、王城へと向かった。
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『ぬわー』
モニターに映されるベン爺とゴブリンキングの決戦は、これまでの【混沌の饗宴】の探索風景を観戦していた観客や冒険者からして、もっとも熱い戦いであった。
ゴブリンキング単体の強さは金級上位相当と言われているが、ここのゴブリンキングはアダマンタイト級の【白爪】ベンルーファスと互角に戦っていたのだ。
それはアダマンタイト級同士の対決と言われても遜色なく、観戦している者はもちろん、実況のポポルでさえも、かつて闘技場で実況していたどの対戦カードよりも激しい戦いに興奮していた。
しかし、それに水を差したのがポポルの隣に座る解説のシュテンだった。
『ヤツめ……手を抜いたな』
そう呟いた声に一番早く反応したのが隣席するポポルだった。
『えっ、ゴブリンキングが……ですか?あ、あれで手を抜いていたと?』
どう見ても全力の死闘に見えたポポルがそう言う。
それは一般人であるポポルや庭園の観戦者だけではなく、ホール観戦している冒険者たちも同じ気持ちであった。「あれで手抜きとか嘘だろ」と。
『一合目は様子見、二合目以降は間違いなく本気だな。そこでヤツはすでに従魔戦への資格ありとしたのだろう。しかしヤツはこのまま戦えば獣人も手傷を負い、少なからず消耗すると踏んだ。つまり我々従魔と戦う相手が万全ではない状態という事だ。だから遠慮した。結果、最後に大きな隙をわざと見せ、そこを攻撃させて倒れたわけだ』
見ていただけでそんな事が分かるのか、と思ったのはポポルだけではない。全ての観客だ。
しかし【三大妖】という超実力者であり、ゴブリンキングの召喚主であるシュテンがそう言うのであれば、と納得してしまう。
『獣人の戦闘力――力・技・速度・経験は間違いなくこれまでの探索者で最強だ。あのレベルの相手に手抜きなど失礼にも程がある!これを聞いている冒険者の諸君、ヤツには説教しておくので安心して欲しい』
それを聞いていた冒険者の声は様々だった。
「全然安心できないんですけど」
「いやもう、ずっと手抜きしてくれよ」
「ゴブリンキングが不憫になってきた」
「むしろ俺がシュテン様に説教されたい」
壮絶な一戦を終え、シュテンの解説を受け、ざわめきが残る観客席だったが、本番はこれからである。
【混沌の饗宴】対【百鬼夜行】。
いよいよ始まる従魔戦に向け、観客のボルテージは再度上がっていった。




