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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第一章 ダンジョンのある日常
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02:初心者講習 前編

最初に説明ばかり詰め込むのは構想の練りが甘い証拠。



 ロビンたち五人は、受付カウンターで登録を行う。

 初心者講習を受けるかと聞かれたので、よく分からないが門番の衛兵にも言われたことだし、受けてみようと肯定の意を示した。



「講習は右側手前の部屋になります。もうすぐ始まる時間ですので、すぐに向かって下さい。講習が終わりましたらダンジョンカードを発行しますので、またこちらにお戻り下さい」



 ダンジョンカードというものも気になったが、受け取る時に聞けばいいだろうと、彼らは一番手前にある講習室へと入った。

 部屋の中はいくつかの長机と椅子が並んであり、いくつかのパーティーが席を埋めていた。

 所々ポツンと座っているのはソロの冒険者か。

 おそらく彼らも自分たちと同じく、初めてダンジョンに挑むべく講習を受けるのだろう。

 そう思いながら、五人は固まって座れる位置に腰を下ろす。


 ほどなくしてギルド職員の女性が部屋に入って来た。

 部屋の正面に立ち、座った冒険者たちに一礼すると通る声で話し始める。



「お集まり頂きましてありがとうございます。これよりダンジョン【百鬼夜行】の初心者講習を始めます。私は本日担当しますギルド職員のジェルリアです。よろしくお願いします」



 鋭い目つきに笑顔はない。

 キビキビと段取りを行う熟練の職員の姿があった。



「このダンジョン【百鬼夜行】は通常のダンジョンとは違う点が多々あります。すでに庭園やホールのモニターや、屋敷内が拡張空間となっている事にお気付きかと思いますが、それ以外にも独自の特色が多くあります。それを理解し、利用する事で安全にダンジョン探索を行って頂きたいという趣旨の講習会となります」



 拡張空間という意味は分からないが、やはり屋敷内がやたら広いのは勘違いじゃなかったのか、とロビンたちは思った。

 ジェルリアの話しは続く。



「まずダンジョンとはそもそもどういったものか、をご説明します。ちなみにこの中で、余所のダンジョンに行ったことのある方は……いらっしゃるようですね」



 一つのパーティーとソロの一人が手を挙げた。

 ロビンたちのように新米冒険者ではなく、他国で腕を上げた冒険者が来ることも多いのだ。

 王国内でもダンジョンは他にもあるし、それらを訪れた後に王都にやってきた者もいるだろう。



「ダンジョンとは魔物が集まり、住処となった空間。形状は洞窟や廃墟、森に塔など様々ですが、共通して言えるのは奥地にボスモンスターと呼ばれる強者がいる点。そこからダンジョンは二つに区分されます。【ダンジョンマスターが管理するダンジョン】と、【ダンジョンマスターがいないダンジョン】です」



 ダンジョンマスターという言葉に幾人かがピクリとする。



「例えばゴブリンキングが廃坑を根城にし、ゴブリンの集団を形成した場合、その廃坑はダンジョンと呼ばれますが、そういったダンジョンは【ダンジョンマスターがいないダンジョン】ですので、ここでは省きます。これからご説明するダンジョンとは【ダンジョンマスターが管理するダンジョン】の事です。

 共通点は、罠がある・宝箱がある・魔物が自動で湧く・魔物を倒すとその身体は消滅し、時にドロップアイテムを落とす・ダンジョンコアがあるという事です」



 通常の魔物は倒せば死体が残り、解体し討伐部位をギルドに提出する事で依頼達成となる。

 しかしダンジョンの魔物ではそうはならず死体は消滅する。

 従ってギルドの討伐依頼や魔物素材の収集依頼でダンジョンを利用する事は出来ない。



「有名所で言いますと、獣王国の【奈落の祭壇】や帝国の【炎焔窟】などがありますが、ダンジョンマスターが判明しているのは世界で唯一【百鬼夜行】のみです」



 英雄ビーツ・ボーエンの存在を知らない受講者はいない。

 自分がダンジョンマスターであると堂々と公表し、姿を見せているのだ。

 そこで一人の受講者が手を挙げた。



「ダンジョンマスターがダンジョンの管理者ってのは分かるんだが、ダンジョンコアとは何だ?」


「ダンジョンコアとはダンジョンの心臓とも呼ばれる宝玉の事です。これに触れる事でダンジョンマスターの権利譲渡が行われ、正式にダンジョン制覇となるのです。最奥のボスモンスターを倒しただけでは制覇とは言えず、さらに先のダンジョンコアを手に入れる必要がある、という事です」



 その言葉にはすでに噂で聞いていた受講者の一部以外が驚愕した。

 今まではダンジョンボスを倒すことがダンジョン制覇であると思っていたのだ。

 そこにダンジョンコアという宝の存在が明るみに出た。

 なぜこんな新事実が判明したのか……と思ったがすぐに理解した。

 当のダンジョンマスターであるビーツ・ボーエンが協力しているのだ。

 ダンジョン自体の知識も広めているのだろう。


 しかし、その情報はビーツ・ボーエンにとっても致命的なのでは?

 そこまで考えたところでジェルリアが話を続ける。



「さて、そのダンジョンコアを目指す為に、皆さまにダンジョン【百鬼夜行】の特色をお話しします。【百鬼夜行】は世界で最も大きく、最も難しく、最も安全と言われております」



 矛盾しているような言葉を繋げる。



「最も大きいというのはその深さ。このダンジョンは地下一〇〇階層まであり、オープンから五年が経つ現在、最も進んでいる冒険者パーティーは四八階層まで。未だ半分も達していません」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。一〇〇階層だって!?」



 冒険者の一人が声を上げる。

 有名所の【奈落の祭壇】でさえ三〇階層だと言われている。

 それを大きく上回る一〇〇階層。驚くのも無理はない。

 もっとも情報としてすでに知っている冒険者も居るので反応はまちまちだ。


 四八階層までしか進んでいないのに一〇〇階層だとなぜ分かるのかと疑問に持つ者もいたが、すぐにビーツ・ボーエンの存在を思い出す。

 ダンジョンマスターが国とギルドと組んで経営しているのだから、そういった情報は流れるだろうと。



「じゃあ何だ?ここの地下が一〇〇層も掘られてるってのか?」

「下手したら王都も王城も地下に崩落する恐れがあるじゃねえか」



 次々に声が上がるが、ジェルリアは淡々と話す。



「いえ。崩落の心配はありません。ダンジョンとはダンジョンマスターが作り上げた異世界・異空間だと認識して下さい。この屋敷の地下からダンジョンへは行けますが、空間は隔絶されています。従って、ここの地下にダンジョンが広がるのではなく、ダンジョンの入口だけがここにあると思って下さい。

 以前に王都の民家の庭を掘り進め、ダンジョンへの不法侵入を試みた人がいますが、どれだけ掘ってもダンジョンへは繋がりませんでした。つまりは王都地下には存在しないという事です」



 また頭が痛くなるようなジェルリアの言い回しに、冒険者たちの顔も険しくなる。



「よく分からないが、ビーツ・ボーエンの魔法か何かでダンジョンという異空間を作っている……ってことか?」


「魔法ではなく、ダンジョンマスターとしての能力と思って下さい。空間の創造、事象の変化、ルールの制定など、限定した区域に限り神の如き力を持つのがダンジョンマスターです。

 分かりやすく言えば、大通りの柵門から、庭園・屋敷を含めたこの土地もダンジョンの一部です。だからこそ、屋敷が外観に比べ拡張された空間と化しているのです。ダンジョンマスターの力により屋敷内部の空間を広げているわけですね」


「ルールの制定というのは?」


「詳しくは後ほどお話ししますが一例としまして……」



 そう言ってジェルリアは腰に佩いていたレイピアを手前の冒険者に手渡す。

 不思議な様子でその冒険者は受け取った。



「これで私を攻撃して見て下さい」


「えっ」



 突然何を言いだしたんだと驚く冒険者と周りの受講者。

 問題ないからとジェルリアが促し、少しの問答があった後、仕方なしに冒険者はレイピアをジェルリアに向けた。

 本気の攻撃ではなく、大振りに左腕を狙ったものである。

 ジェルリアは避ける様子もなく、レイピアの攻撃を受ける……と思われたが、触れる寸前でレイピアが止まった。



「は?」

「どうした?寸止めしたのか?」

「い、いや、当てるつもりで振ったぞ?」


「ダンジョンの地上部分での私闘は禁止というルールがあります。小突く程度なら問題ありませんが、殴ったり武器による攻撃、攻撃魔法や状態異常系の魔法の行使、害を為す魔道具の使用さえ出来ないというものです。

 これは屋敷内だけでなく庭園も含みますのでご承知下さい。柵門を越えた時点で、普段とは別のルールが課せられた異世界のようなものです。少しはダンジョンマスターの力の一端が理解できたのではないでしょうか」



 屋敷内部の空間拡張に、攻撃を受け付けない現象。

 まだダンジョンに潜ってもいないのに、百鬼夜行というダンジョンの特異性に驚かされる。

 いや、ここもすでにダンジョンなのだ。地上部分が平和的なルールとなっているだけで。




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