20:とあるギルドの祈り
王都には様々なギルドがあり、冒険者ギルドの他にも魔法ギルドや商人ギルドなど数々ある。
表立ってない所では闇ギルドというのもある。
平和な王国・王都にあっても当然のように裏の顔があり、通常は知り得ない情報の売買や、暗殺めいたものまで活動内容は広い。
ともするとただの犯罪者集団と見られがちだが、実際は斥候寄りの何でも屋といった所で、依頼があり、報酬があり、だからこそ必要とされ国にも潰されない組織なのだ。
スラムに近い、暗い部屋に幾人かの人影が席に着く。
皆がフードを深くかぶり、いくら同じギルドの構成員と言えども顔や表情は見せないという事を徹底している。
「――というわけで、詳細地図は三五階層まで揃ったわけだ」
「四九階層で足踏みしているうちに詰めたいものだな」
「厳しいな。三〇階層以降は挑む冒険者自体が少ない。主だったルートの地図は作れても全域を把握できる詳細地図は作れん」
彼らの会議の主な内容は、ここ数年、ダンジョン【百鬼夜行】に関する事が主になっていた。
彼らの本分は情報を収集・精査し、売ることで稼ぐ。
そして現状、王都で一番売れる情報とは【百鬼夜行】の事に他ならない。
他国は戦力の把握として、ビーツの従魔の詳細を知りたがる。
冒険者は探索する為の地図や罠情報を知りたがる。
一般客は賭けに勝つために冒険者の情報を知りたがる。
実は闇ギルド自体が国や冒険者ギルドと連携して、ダンジョン【百鬼夜行】の敷地内で露店を開き、地図を売ったり、賭博の胴元をしているのを客は知らない。
ただの露店のおっさんに見えて、実は闇ギルドの構成員でした、とは思わないものだ。
もちろん従魔の情報を他国に売るのも、秘密裏に国側からの許可をとり、流していい情報やあえて流したい情報に限られる。
「しかし四九階層からランダム従魔戦だとはな」
「従魔の情報はより売れるだろう」
「精査は慎重に行えよ?おそらく新階層以上に膨大かつ重要視される情報になる」
「ボスドロップも気になる。ウンディーネ曰く何かしら出るらしいが……」
手元にある「これが百鬼夜行の全てだ!」という非公式ファンブックを叩きながら話していた。
これも彼らの著作で、実際に露店で働き、従魔の情報を集め冊子化したものだ。
ダンジョン敷地内で非公式の冊子を売るわけにもいかず、商人ギルドを通して少し流したが、思いの外売れた。
やはり【百鬼夜行】の情報はまだまだ売れると確信する。
さらに従魔戦が始まって以降、その重要度は確実に増したと言える。
今まではアイドル的存在だった従魔たちが、倒さなければいけない敵として立ちはだかったのだ。
冒険者でなくとも観客だって知りたいと思うだろう。
だからこそこうして頻繁に集まり、情報の整理と方向性を協議するのだ。
「では本日の会議はこんなところだな。続いて″祈祷″にうつる」
議長のような男がそう告げると、彼らは席を立ち、別室へと移動する。
その部屋はスラムの傍にありながら窓からの陽光が満ち、白く清潔な印象を与えていた。
皆が同じ方を向き、片膝を立て、手を胸にあてる。
それは裏世界に生きる闇ギルドの構成員とは思えない、清らかな祈りを現わしていた。
「おお、我らが神よ――」
「我らが神よ――」
彼らの祈る先には台座があり、一つの人形が置かれていた。
土魔法の極みとも言える造形に着色された人形は、小さいながらも本物かというほどの躍動感を生み出している。
白き衣と、白金の流れる髪、そして後光の如き九本の尾……
そう、タマモのフィギュアである。
あまりに人気が出すぎて極一握りの金持ちしかお目にかかれないと言われており、仮に売れば、家どころか爵位まで貰えるのではと言われるほどの人形だ。
それを彼らは闇ギルドとしての力をフルに利用し、その一つを入手した。
金もコネも使い切った感があるが、それでも手にした時は全員で涙した。
神を我らが手に、と。
そして今日もまた祈るのだ。
平和を?繁栄を?いや違う。
タマモという存在を生み出した神に、ビーツに、世界に感謝するのだ。
自らの為ではない、タマモの為の祈りを、タマモ自身に捧げるのだ。
ここはスラム近くの一軒家。
闇ギルド本部。
またの名を「タマモ教総本山」と呼ばれる。
表に出ない闇ギルドよりも、タマモ教総本山としての方が認知されやすい現状になってしまっている事を彼らは全く気にしていない。




