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18:【聖戦の星屑】vsダイダラ



 ボス部屋内で転移の光と共に現れ始めたダイダラを見て、【聖戦の星屑】の面々はすでに臨戦態勢をとっていた。

 サイクロプス一体というのは金級の冒険者パーティーで討伐できるレベルの魔物である。


 【聖戦の星屑】は金級パーティーではあるが、リーダーのセーリャンは個人でミスリル級である為、金級の中でも上位と言える。ミスリル一人、金四人で金級パーティーというわけだ。

 ダイダラの体格を見て、通常のサイクロプスより若干大きいのは分かるし、何より規格外召喚士であるビーツ・ボーエンの従魔である。普通の強さなわけがない。

 それでもサイクロプスの討伐経験もあるし、どのような攻撃手段をとるのかも分かる。

 だからこそ最初に距離をとって態勢を整えたのだ。


 サイクロプスは魔法は使わず、殴り蹴り、突撃などの物理攻撃オンリーだ。

 しかもボス部屋なので岩を投げるなどの手段もとれない。

 つまりこちらは遠距離攻撃を主体で行けば良い。



「シューリ!攻撃はいいから回避で頼む!あとは距離をとって攻撃だ!正面に立たずに足を使えよ!」


「「「「おお!」」」」



 セーリャンは警戒しつつも正攻法の戦い方を選んだ。





『祈りが足らんな』



 マモリの第一声がそれだった。

 もちろんすでにボス部屋への音声は途切れているので、聞くのは地上部の観客しかいない。



『さ~て、ダイダラと相対する冒険者たち!これは回避盾が一枚と遠距離が四枚ですかね~』


『サイクロプスが相手じゃから当然の布陣じゃな。近づかずに魔法などをぶつけるのがセオリーじゃろう。……普通のサイクロプスが相手ならば、な』



 意味深な発言に観客たちが首を傾げる。

 今モニターで映されている【聖戦の星屑】の戦い方は正しいと思う。

 いくら従魔とは言えサイクロプスはサイクロプスなのだから、戦い方は変わらないだろうと。





 ボス部屋のダイダラは現れると同時に「がああああ!!」と咆哮を上げる。

 屋敷で見るおとなしそうな様子は微塵も感じない、魔物としての咆哮。

 それも密閉されたボス部屋に響き、揺るがすような爆音だ。


 思わず体が硬直した五人だが、構えは解かない。

 セーリャンが指示を出すが、耳鳴りがひどく聞こえる状態ではない。

 そして、前衛のシューリの元へダイダラが駆ける。



「速い!」



 誰もが思った。

 巨大な体躯に似合わない速度で距離をつめ、いつの間にか大きく振りかぶった右手を、叩きつけるように振り下ろす。

 シューリは驚きながらも身をひねり、その拳を避ける。

 もっと小柄で素早い魔物などもいるのだから回避特化の前衛となれば避けることは可能だろう。


 しかし相手は巨躯のサイクロプスである。

 避けた拳の拳圧で体が浮くのをシューリは感じ、「しまった」と思ったその直後にはダイダラの左手がフック気味に襲いかかる。

 慌てて両手をクロスさせ防御をとるも、その威力の前にほとんど水平に体が飛ばされ部屋の壁に叩きつけられた。





 その光景を見て観客は開いた口が塞がらない。

 明らかにサイクロプスではありえない速さだったのだ。



『あ~っと!拳闘士が早くもダウン~!意識はあるみたいですね~』


『ま、こうなるじゃろうな。普通のサイクロプスだと思っているから痛い目にあう』



 呑気な実況と解説に、観客たちは耳を傾ける。



『魔物とて成長するもんじゃ。そして強くなった者が進化を果たす。サイクロプスは進化する種族ではないが、その成長率は野生の魔物と、目的を持って訓練した従魔では大きく異なる』


『もはやサイクロプスという名の別種族みたいなもんですからね~』



 その言葉に驚く人と納得する人、そして疑う人も居る。ほんとかよ、と。



『ましてやダイダラは従魔ナンバー六番じゃぞ?我が主が幼少の頃から【三大妖】たちと共に戯れておるんじゃ。そんなサイクロプス、他におらんじゃろ』



 続いたマモリの解説に観客一同が改めて納得した。

 従魔ナンバーとはビーツ・ボーエンが従魔にした順番につけた番号で、露店で売られているトレーディングカードなどにも記載されている。

 一番から三番が【三大妖】であり、ダイダラの六番というのはそのすぐ後。大体同じ時期に従魔にしたという証明でもある。

 【三体妖】と共に育ったと言われ、それもそうかという事である。



『ま~運がなかったですね~。ダイダラ自体は【百鬼夜行】の中でも″中″くらいの強さですけど、四九階層で戦うには強い方ですから~』


『祈りが足りん』



 そして観客である冒険者たちは祈りの大切さを知るのだった。





 その後、中衛・後衛のみとなった【聖戦の星屑】は早々に倒された。

 様子を管制室で見ていたビーツは「うーん」と唸る。



「どうかされましたか?」


「スロットのテーブルを見直したほうがいいかなーと」



 シュテンの問いにそう答えた。

 いきなり″中″のダイダラが出るとは意外だったのだ。

 四九階層での出現確率は確実に一パーセント以下だろう。それがいきなりだ。

 まぁ確率なんてそんなものだし、結果を見ていちいち変えるものでもないが……。

 だからこそ、このまま継続してみようかという気もある。



「でも、やり方次第ではあの人たちもダイダラに勝てそうだよね」


「はい。想定の甘さと未知への危機感ではまった感じですね。再度ダイダラと戦えば善戦するでしょう。勝つかどうかは微妙ですが」


「うん、まぁとりあえず今日はダイダラの祝勝会にしようか」


「はっ」



 なんにせよ、初めての従魔戦は終わった。

 反省点もあり、改良点もある。

 しかしこれからは益々従魔の出番が増えることだろう。

 ダンジョンがオープンしてから五年、やっとここまで来れたかと、ビーツは少し安堵していた。



■百鬼夜行従魔辞典

■従魔No.6 ダイダラ

 種族:サイクロプス

 所属:鬼軍

 名前の元ネタ:だいだらぼっち

 備考:初期にして巨人を従魔にできたので「だいだらぼっち」からとったが「一つ目入道」でよかったじゃんと後悔したビーツ。

    普段は大人しく屋敷警備に就く事が多い。

    今回は49階層という事で素手で戦ったが、本来はビーツから下賜されたこん棒を使う。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >四九階層での出現確率は確実に一パーセント以下 従魔100体全員が等倍がちょうど1%なので、全く低く感じませぬ(^_^; 強さによる調整が入ってるのならもっとずっと低くて大丈夫かと。 …
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