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17:質疑応答、ボス部屋にて



『さあ!ついにやって参りました四九階のボス戦~!今回特別に実況と説明役に任命されました、従魔ナンバー五一番、モクレンです~!そして解説はこちら!』


『従魔ナンバー二五番のマモリじゃ。よろしくたのむぞ』


『尚、この音声はボス部屋にいる冒険者と、モニターを見ている人にのみお届けしています~!』



 突然の声に【聖戦の星屑】も地上部の観客たちも驚きを隠せない。

 ただ、説明(・・)と言われたからには聞かなければいけない。

 これは非常識の塊であるダンジョン【百鬼夜行】における、暗黙の了解とも言える最低限のルールであった。




『さて、なんで説明とか実況とか言うのかというとですね~、この階層以降、ボスは我々【百鬼夜行】が務めるからなんですよね~』


『最初だからこうして説明し、ついでに実況というわけじゃな』


 

 その言葉に聞いた皆が驚愕する。



「【百鬼夜行】!?ビーツ・ボーエンの従魔が直々に出てくるのか!?」

「本気かよ!えっ、これからずっと!?」

「タマモ様が戦う姿を見られるのか!」



 と観客が騒ぎ出す。

 今まで、様々な魔物が出てきたが、実際にビーツの従魔が出てきたことなどないのだ。

 それは従魔だからこそビーツが保護し、戦いになど出さないものだと思われていた。

 それが、この先のボス戦、全てに出るという。

 観客は興奮し、対照的に【聖戦の星屑】はがっくりしていた。

 【三大妖】やらフェンリルやらアラクネやら出てこられても勝つわけがないのだ。



『というのも五〇階層からは難易度が高くなりますので~この階層のボス戦が初心者用の最終関門なんですよね~』


『我が主は通常エンドのラスボスと言っておったの』



 その言葉に冒険者たちがさらに驚愕する。

 これまでが初心者用とか何の冗談だ、と。

 【聖戦の星屑】に至っては先ほどからの展開に何が何やら訳が分からないので、冷静になるのに必死だ。



『さてさて~、で、どうやって我々と戦うのかですけど~、ボス部屋の冒険者の人たち~!中央のパネルの所に近寄って下さ~い!』



 そう言われた【聖戦の星屑】は足取りも重く、パネルに近づく。



『はい。パネルにはまず「何名で戦うか」という質問が出ていますね~。これは、人数によって相手になる【百鬼夜行】の数が変わるからなんですね~』


『具体的には五人までなら相手は一体、十人までなら相手は二体といった感じじゃな』


『だから実際に戦う人数を申告するんですね~。ちなみに部屋に入った人数未満の数を入力すると、ランダムで帰還魔法陣が発動して、入力した人数に合うように勝手にはじかれちゃいます~』



 これには復活した【天馬の翼】の二名がホッとした。

 自分たちが居ないままボス部屋に行っていたら、一八人対四体の従魔となる。

 二〇名で挑んでも相手は四体なのだから、だったら一緒に戦ったほうが良い。

 もしくは五名に絞って一体相手を繰り返すという手もある。



『じゃあ、戦う人数を入力して下さ~い』



 というモクレンの声に、一度メンバーを見回したセーリャンが五名と入力する。



『はい、そ~するとパネルの画面が変わりましたね~。画面の中央にあるのが″従魔スロット″と言います~。で、右手にスタートとストップの表示がありますね~。スタートに触ると従魔スロットが回ります~。ストップで止まった時に出た絵柄が、あなたたちの戦う相手です~』


『運で相手が決まるという事じゃな、祈れ』


『ちなみに二体相手の場合はスロットが二個出てきますし、三体相手なら三個です~。スタート・ストップは一回勝負で決まるので何回も触れる必要はないです~』


『祈れ』



 これには危機感を覚える人と、安堵する人が混じっていた。

 ボスがランダムという事は事前情報で装備を整えるなど出来ない。

 階層を探索し、やっと到達したボスが【百鬼夜行】のランダムボスなのだ。

 難易度が高くなるというのも分かる話しである。


 しかし、ビーツ・ボーエンの従魔【百鬼夜行】と言えど、ピンキリだ。

 それこそ、先ほどのゴブリンキングより弱そうな従魔も居る。

 マモリが「祈れ」と言っていたのも頷ける。



「まさか初っ端から【三大妖】とかもありうるってのか?」



 そうセーリャンが天井に向かって質問した。

 こちらは実際に戦う身なのだ。情報はなるべく引き出したい。



『一応、とある二体を除いて九八体から出ることになってますね~。ただ【三大妖】とかマモリさんもそうですけど、強めの従魔はもっと深い階層でないと滅多に出ませんがね~』


『それでもゼロじゃないって事じゃな。祈れ』



 冒険者たちにとっては嬉しいような嬉しくないような情報だった。

 とりあえず四九階層ではよほど運が悪くない限り、強い従魔と当たる事はなさそうだ、と。

 逆に言えば運が悪ければ、スロットの段階で死が確定だ。


 

『もちろん我々が選ばれるかもしれませんので~その時は実況と解説が一人になります~。ご了承ください~』


『わしは実況したくないから、モクレンは当てないでくれ』


 

 無茶を言わないでくれ、とセーリャンは嘆く。

 


『さて、説明はそんなところでしょうか~。あ、実際の戦闘になったら、この実況は地上部のみでお届けします~』


『戦ってる中で実況されたら集中できんしな。ここは闘技場ではないし』


『さて、ボス部屋の皆さん~、ほかに何か質問ありますか~』


 

 そう問われてセーリャンたちは思考を深くする。

 管理者に質問できる機会など早々あるものではない。

 聞ける時に聞かなければならないのだ。

 


「……例えば、スロットの結果、【三大妖】が相手に決まったとする。そうした場合、棄権なり逃げ出すなりは出来るのか?」


『それは無理ですね~。これまでのボス戦同様に部屋からの退出は不可です~。諦めて死にましょう~』


『知らなかったのか?ボス部屋からは逃げられない』



 ですよね、とセーリャンたちは思った。

 あわよくばと思って聞いただけだ。



「俺たちが倒した従魔は、本当に死ぬのか?それとも俺たちのように不死になっているのか?」


『不死ですね~。何回でもスロットで当てることが可能です~』


「その場合、ドロップアイテムはどうなるんだ?」



 魔物を倒した際に時々落とすドロップアイテムだが、今まではフロアボスならば確定でアイテムを落としていた。

 それが不死の存在である場合、ドロップしないのでは?という質問だ。



『それは倒してからのお楽しみに~と言っておきましょ~』


『価値としては微妙じゃがな』



 なんとも曖昧な回答だが、とりあえず何かしらドロップするらしい。



「複数パーティー……例えば百人とかで挑むのもアリなんだよな」


『アリですけど、おすすめはしませんね~。そうなると従魔が二〇体になりますけど、強い従魔が混じりそうですし~』


『我らは種族はバラバラながら何気に連携得意じゃからの。個人戦よりも集団戦のほうが得意な連中が多いぞ』



 これは観客である冒険者にとってありがたい質問であり忠告であった。

 肩を落としたのは【天馬の翼】の復活組二名だ。

 二〇人vs四体は危険なのかもしれない。

 いや、それが分かっただけでも僥倖なのだ。

 そして質問が終わったモクレンがいよいよ開始する。



『じゃ~そろそろ行きましょうか~!初めての従魔戦~!スロットスタ~~ト!』


『さあ祈れ』



 その言葉に気合いを入れ直し、セーリャンがスタートに触れた。

 パネル中央に映し出されたスロットが勢いよく回る。

 「じゃあ止めるぞ」とメンバーに一言声を掛け、ストップに触れた。

 スロットの回転が途端に緩やかになり、やがて止まる。


 その絵柄は毛むくじゃらで一つ目の顔。

 セーリャンはすぐに相手が誰だか分かった。



「下がれ!距離をとるぞ!」



 その号令で一斉に下がる様は、さすがにここまで進んできた冒険者パーティーだけあり乱れることはない。

 そしてモクレンの声がボス部屋と地上に響いた。




『ああ~っと!サイクロプス!サイクロプスのダイダラだ~~!』



 地上の観客たちはビーツ・ボーエンの従魔の中でも有名所の登場に湧き上がる。

 屋敷の中で階段の警備なども時々やっているのだ。

 三メートルほどの巨体が階段の踊り場でちょこんと座っている様は、一見怖いが慣れてしまえば可愛らしくも感じるもので、だからこそ「あのダイダラと戦うのか!?」と冒険者は騒いだ。





 一方管理層の管制室ではビーツが一息ついていた。

 従魔の皆が戦いたがっていたので二体以外はスロットのテーブルに入れたが、当てて欲しくない従魔もいたのだ。

 例えば実況しているモクレンとマモリであったり、今屋敷内で階段の警備にあたるカニボーであったり、今モニター管制を統括しているアカハチであったり、選ばれた場合は即座に交代する形は整えていても、仕事を中断させるのは申し訳ないと思っていた。

 だからこそ、サイクロプスのダイダラが選ばれたことで安堵もしているのだが……



「あーダイダラかぁ……」



 と思わず呟くビーツであった。



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