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16:ボス部屋へと進む者たち



「ぬわー」


 ゴブリンキングが棒読みな悲鳴と共に、青白い光となって消えていく。

 倒したのは【天馬の翼】。

 総勢二〇人のパーティーだったが、前衛が一人と斥候が一人倒されたので、現在は一八人だ。


 彼らは王城周囲の貴族区で監視の甘い場所を探し、王城の側面から広場のゴブリンキングへと強襲したのだ。

 近衛のゴブリンジェネラル六体を遠距離攻撃で引きつけ、ゴブリンキングから引き離すのに一五名、残りの五名でゴブリンキングと相対した。

 その様子を管制室(ブリッヂ)から見ていた幹部たちは、なんとも言えない表情をしていた。



「あいつ演技は下手くそなんだな……」



 自らの眷属を罵ったシュテンのつぶやきは、まさしくそんな空気の幹部たちを表していた。



「と、とりあえずモクレンとマモリは準備よろしくね!本番はこれからだよ!」


「了解!」「うむ!」



 ビーツの号令により管制室の空気はピリッとした。

 余談だが管理層で復活したゴブリンキングはシュテンに苦言を呈され、少ししょんぼりしていた。





『ぬわー』


「「「うおおおお!!」」」



 地上一階の庭園と屋敷内の観戦者たちは大盛り上がりだった。

 かれこれ三週間にも渡り、挑戦し続けてきた″ゴブリン王国″がついに走破されたのだ。

 ボスであったゴブリンキングの強さも尋常ではなく、近衛兵も合わせて【天馬の翼】でなければ無理だったのでは、と口々に騒ぐ。


 その【天馬の翼】でさえ二名を欠く熱戦で、復活室から現れたその二名を周りの冒険者たちは「よくやった!」と褒め称えた。

 本人たちは装備品などを失っているので悔しい表情ではあるものの、達成感もあり、迎えた冒険者たちと共に、ホールのモニターで自分たちが抜けたパーティーを眺める。



「かぁ~!やっぱ【天馬の翼】か!負けた~!」



 賭け札を握りしめながら庭園で観戦していた男が嘆く。

 同様の人は多く見受けられ、【天馬の翼】の偉業は素直に素晴らしいと思う反面、賭けに負けたことはやはり悔しいらしい。



「五〇階層に到達するまで賭け札はとっておいて下さい!」



 そう露天の商人が叫ぶが、「もう決まってんじゃないか!階段下りればいいだけだろ!」と自棄になる始末。

 これには「じゃあ【天馬の翼】が五〇階層に行かなくても知らないからな!責任はとらんぞ!」と言うに留めた。


 実は賭博胴元の露店商人は、ゴブリンキングが中ボスだと知っている。

 ギルド職員も知っている。

 混乱を防ぐためにビーツ側から情報をリークしたのだ。

 しかしそれを知らない人は皆、ゴブリンキングをフロアボスと勘違いしているようだ。

 長期間攻略とあれだけの熱戦だったので気持ちは分かるが、これまでのダンジョンを見ていればゴブリンキングの陣がボス部屋でないのは明らかなのだが……と知っている(・・・・・)人達は思うのだった。





 ゴブリンキングのドロップアイテムとして出た高品質の魔石を拾ったラファエルは、パーティーメンバーの状況を確認する。

 当然ながら怪我人が多い。

 それを回復魔法や回復薬でとりあえず治し、王城へと顔を向けた。


 そこで違和感を感じる。

 実際に地上の王城を見たわけではないが、王城の入り口を塞ぐ扉が、王城らしくないと。

 煌びやかな装飾があるわけでもなく、それどころか質素で王城にしては小さい……いや、よく見れば自分たちがこれまで何回も開けたことのある扉に見える。



「おいおいおい……」

「まさか……」



 ラファエル以外にも気付いた者がいるらしい。

 そう、あれはボス部屋の扉だ。

 つまり――



「あいつ、フロアボスじゃなかったのか!?」

「うそだろ!」



 【天馬の翼】の面々はそう騒いだが、地上でも大騒ぎだった。

 開いた口が塞がらない者も多い。

 握りしめた賭け札のしわを必死に伸ばす者も居る。

 復活した【天馬の翼】二名は項垂れている。何の為に死んだんだと。



 そんな地上の様子をよそにラファエルたちは作戦会議を行う。

 いつゴブリンキングがリスポーンされるか分からない為、早急に話し合う必要があった。



① 一八名のままボス戦に向かうのか

② それとも一時帰還するべきか

③ それとも二名が来るのを待つのか。


 とりあえず③はない。二名だけでは安全地帯までも来ることは出来ないだろう。

 では①はどうか。それでもしボスを撃破すると、二名のために再挑戦を行うはめになる。

 その場合、五〇階層一番乗りという栄光は得られるが、おそらくゴブリンキング以上のボスが控えていると思われるので、それを二戦するというリスクは大きい。

 となれば②の一時帰還だが、次に来るときにまたゴブリンキングを倒さなければならないのか……という不安もある。



「いや、あいつがボスじゃないんなら戦わなくてもいいんじゃないか?」



 そんな鶴の一声に皆が感嘆した。

 なるほど、それは一理あると。こういった意見が出るのも人数が多い強みだ。

 であれば次に来る時の為に、ゴブリンキングがいない今、王城周囲の探索をし、どこかからボス部屋の扉に直行できるようにするべきだ。



「よし、やる事は決まったな。階層クリアできないのは残念だが今回は退く。ルートを見直すぞ」



 ラファエルの声により行動が決定した。

 二〇人もいればボスと戦いたい人間もいそうだが、それを統率する力がラファエルにあるのが、このパーティーが最前線にいる要因でもある。

 しかし、その決定を受けて観客の一部と管理層の面々は「ボス戦いかねーのかよ!」と突っ込んでいた。

 ……が、その不満もすぐに解消される。





「棚からパンケーキってやつかね……」

 


 そうつぶやいたのは【聖戦の星屑】のパーティーリーダー、セーリャンだ。

 彼らは一週間ほど前に四九階層に到達し、地元民ならではの土地勘を活かし、裏道・抜け道を駆使し、王城へと辿り着いていた。

 近くまで来て、戦闘音でボスと戦っているのは分かったし、冒険者の常識として先に戦っている【天馬の翼】の邪魔をするわけにも、抜け駆けするわけにもいかず、身を潜めていた。

 結果、【天馬の翼】はボス部屋直前で撤退し、ゴブリンキングがリスポーンされる前に侵入し、今自分たちがボス部屋前に居る。



「……一応聞くけど、どうする?」


「【天馬の翼】に感謝しつつ突入」


「ですよね」



 そんなゆるい会話をしつつ、ボス部屋への扉を開く。

 観客たちも固唾をのんでそれを見守る。

 誰も彼らを火事場泥棒のようには思わないのだ。

 実際、実力があったからこそ到達できる事だし、何より王都の地元民である【聖戦の星屑】に期待する部分もある。


 リーダーで弓術士のセーリャン、拳闘士のシューリ、回復術師のキグノス、斥候で鞭術士のシュウ、魔法使いのワンキの計五名が部屋へと入った。

 ボス部屋の内部は外観の王城とは全く違い、通常のボス部屋と同じように、ダンジョン壁に上下左右を囲まれた空間だった。


 ただ普通のボス部屋と違う点――ボスがいないのだ。

 代わりに部屋の中央には何やらパネルのようなものがある。

 何なんだこれは、と思ったと同時にフロアに声が響いた。





『さあ!ついにやって参りました四九階のボス戦~!今回特別に実況と説明役に任命されました、従魔ナンバー五一番、モクレンです~!そして解説はこちら!』


『従魔ナンバー二五番のマモリじゃ。よろしくたのむぞ』


『尚、この音声はボス部屋にいる冒険者と、モニターを見ている人にのみお届けしています~!』



 何が何やら分からない。

 ボス部屋の五人も、モニターを見る観戦者たちも口を開けて止まっていた。



決して同じ技が通用しなかったりしません。

だからセーフ。

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