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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第十章 挑む者、挑まれる者
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158:【黒竜旅団】vs五四階層



 ″祭り組″のアダマンタイト級冒険者たちが五五階層″氷の洞穴″に挑んでいる頃、傭兵の国ロザリアからやってきた【黒竜旅団】は、未だ五四階層に留まっていた。


 他のパーティーよりも密に探索していたから? それは違う。

 五三階層″リドルの館″の謎解きに手間取っていたから? それはそうだが理由は別だ。


 【黒竜旅団】はリーダーである【剣聖】ローランドを筆頭に、五人全員が戦好き。

 【白爪】ベンルーファスのように、強敵を相手に自分の力を試したいという戦闘欲とは違い、ただただ戦いたい、ただただ殺し合いたいという、言うなれば戦闘狂の類である。

 冒険者どころか一般的な傭兵とも隔絶された思考を持つ傭兵団の団長たち、それが【黒竜旅団】である。


 彼らは強敵と戦う事に喜びを感じる。

 四九階層のゴブリンキングから始まる、従魔戦、もしくは″徘徊ボス″戦。彼らがこれを逃すことはほぼない。


 ゴブリンキングは探索初回こそ戦えなかったが、後日改めて戦った。

 五〇階層の″徘徊ボス″メタルイーターも倒した。

 五一階層の″徘徊ボス″ブライトイーグルのバサンは空に居たので無理だった。飛ぶのはずるい。

 五二階層の″徘徊ボス″タイラントフィッシュのイソナデは戦わなかった。溺死は怖い。



 そして迎えた五三階層″リドルの館″。

 謎解きなど彼らには専門外もいいところだったので、すっかりやる気をなくしていた。

 ……が、隠し部屋にスケルトンのガシャが出現したという情報が入る。(エンラはどうでもいいらしい)


 ガシャと言えば、何度か従魔戦に登場している有名従魔。アンデッド最下級のスケルトンでありながら、その剣技は素晴らしく、唯一の黒星である【白爪】ベンルーファス相手でも腹に風穴を開ける大怪我を負わせた上での敗戦。

 【黒竜旅団】としても是非とも戦ってみたい相手であった。


 俄然やる気を取り戻した【黒竜旅団】は″リドルの館″を再捜索。クリアそっちのけでガシャの居る隠し書斎を見つけ出し、無事戦う事に成功した。……何度も。

 【黒竜旅団】が一組のパーティーではなく、個人の寄せ集めなのだからしょうがない。皆が皆、ガシャと一対一の勝負をしたかったのだ。

 結果はローランドと拳闘士のラストーダが勝利。他の三名は敗れた。

 尚、その際、レイスのエンラは空気を読んで退席していたらしい。出来たやつだ。



 ほどほどに満足した【黒竜旅団】にさらなる続報が入る。

 次の五四階層″大噴火地帯″ではレッドリザードマン軍団との砦攻略戦があるというのだ。


 戦争だ。

 待ちに待った戦争だ。

 みんな大好き戦争だ。


 彼らは足取りも軽く五四階層へと向かった。戦闘狂の本気は謎解きをも凌駕するのだ。

 耐熱装備を用意してさっそくとばかりに攻略に取り掛かる。

 そこは経験のない溶岩地帯。当然探索には苦労を強いられた。


 エリア中央部の砦は、階層唯一の建造物。否応なく目に入る。

 彼らはただそこに行くことだけを目標に、流れる溶岩を越えて行った。


 そうしてやっと砦に近づいたところでレッドリザードマンの斥候隊と衝突する。

 さあ戦争の時間だ。我ら傭兵、戦場こそが生きる場所。

 瞬く間に斥候隊を屠った【黒竜旅団】に襲い掛かるのは、次から次へと砦から出て来るレッドリザードマン。これを順次迎え撃つ。


 ローランドの二本の刀が見えない剣筋で切り裂く。

 ラストーダの巨躯から繰り出される力の乗った拳は、一撃で戦線を破壊する。

 ルーベンスは剣と盾を巧みに使い分け敵を翻弄する。

 リーシュはその姿が消えたと思ったら、敵を背後から一刺ししていた。

 レスティアは味方の事などお構いなしに広範囲魔法を嬉々と放っていた。


 【覇道の方陣】がパーティーで対処しようと試みたレッドリザードマンの軍勢に、彼らは『個・対・軍』×5といった形で相対した。それが功を奏したとも言える。なにせレッドリザードマンたちを指揮する従魔のアカナメは、自身が組織編成や指揮に優れることもあり、相手として想定していたのも『強力なパーティー』だったのだから。

 まさかここまで個人の力量を前面に出した戦い方をするパーティーが居ようとは、そしてそんなパーティーがこの階層まで来ようとは。

 アカナメは後日反省していたが、ビーツの「あんなのローランドさんたちだけだよ」という言葉に救われたらしい。



 何はともあれ【黒竜旅団】は砦に向かい進軍を続ける。

 次々に出て来るレッドリザードマンを倒し続けた。

 砦の城壁上から矢を放ってくる部隊もあったが、レスティアの魔法によりその数も減る。

 やがて砦から出て来る数も減り、我先にと砦に突っ込んだ。


 これが戦争での砦攻略戦であるならば、こんなに簡単に突っ込んだりしない。

 偵察を放ち、安全性を確保した上で突入するものだ。彼らは傭兵、戦争のプロである。そんな事は当然知っている。


 だと言うのに突貫した。おそらくテンションのせいだろう。

 むしろそうでなくては世の傭兵たちに申し訳ない。こんなのが傭兵団の団長たちで良いはずがない。

 もしモニターで見ているロザリアの傭兵が居たならば彼らをどう思ったのであろうか。

 「何やってんだ」と苦言を呈するか、はたまた「まぁ団長たちだし」と納得してしまうか。おそらく後者である可能性が高いのが悲しいところだ。



 砦に入ってからも通路を塞ぐように隊列していたり、突如として部屋から大勢で襲い掛かってきたりと、屋内独自の戦法を用いて来る。

 真っ先に敗退したのは広範囲魔法の連発で魔力が尽きかけていたレスティア。

 続いて、槍の大群相手にリーチの差に苦しんだラストーダが沈む。

 レッドリザードマンリーダー数体が率いる部隊と対峙した事で、堅実な戦いを見せていたルーベンスも倒れた。


 戦場で散るのは傭兵の常。

 残ったローランドとリーシュは引き下がる事もせず、倒れた仲間を振り返る事もなく突き進んだ。

 そして辿り着いたのはまるで玉座の間と言えそうな司令本部。

 鈍く光る石の煉瓦は欠けることなく天井から床まで埋め尽くし、扉から玉座へと伸びる真っ赤な絨毯、部屋の横にはビーツの家紋でもある【百鬼夜行】のロゴが入った旗がいくつも垂れている。


 玉座に座り、ローランドとリーシュを迎えたのは、一体のレッドリザードマン。

 明らかにこれまで見たレッドリザードマンとは格が違う。


 まず大きい。身長は二メートルを超えるだろう、そしてそれに伴うように筋肉の鎧を身に纏っている。

 その上から羽織るのは王者に相応しいローブ。

 白いあごひげを伸ばし、かと言ってそれは年老いているとも思えない。

 ……もっともローランド達からすればリザードマンの年齢など見た目で分かるものでもないが。


 手に持つのはミスリル製と思われる立派な槍。

 これもまた異質。これまで見たレッドリザードマン達は皆、普通の槍を持って戦っていたのだから。

 ここから導き出される答えは一つ。



「ほぅ、お前が″アカナメ″とか言うやつじゃな」



 ローランドがニヤリと笑って、右手の刀の切っ先を向けた。

 対するアカナメも「シャー」と一言。嬉しそうに立ち上がり、槍の切っ先をローランドに向ける。

 もはや言葉は不要。

 後は近づき、互いに刀と槍を切り結ぶのみ。



「えっ、私は……」



 リーシュの声がむなしく響いた。




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