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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第十章 挑む者、挑まれる者
156/170

155:【不滅の大樹】vs五五階層



『五五階層は″氷の洞穴″!

 今度は寒いよ!

 足元に注意してね!』



「溶岩の次は氷か」


「意地でも一回帰らせようって事かね、ビーツくんは」


「まぁ溶岩地帯と同じ装備ってわけにはいかないでしょ」



 【覇道の方陣】に遅れて五五階層に到着した樹王国のアダマンタイト級パーティー【不滅の大樹】のエルフ五人。本日より探索開始である。


 前階層が暑い……いや熱い溶岩地帯だったのに対し、この階層は一面が氷に覆われた洞穴だ。

 体感温度は五〇度ほども変わる。防寒具が必須であり、地面も氷なのでスパイク付きの靴でないと探索に支障が出る。

 従ってこの階層に挑むパーティーは事前に装備を整える必要があったのだ。


 これまでにも雪山や雪原の階層はあったが、気温はともかく足元が滑るという事はなかった。しかしこの階層は危険だ。探索パーティーは一見しただけでそう思った。

 とは言え王都の武具屋や道具屋でスパイク付きの靴など売られていない。王国では南部の辺境近くでなければ雪が降らないからだ。

 なので持っていない者は発注して作ってもらう事になる。


 もちろんビーツ側から商業ギルドに情報をリークしてあり「近々こういった靴が必要になりますよ」とは話してあった為、急造による混乱というのは見られなかった。

 売る側からすれば単純に儲けるチャンスである。今はまだ五五階層に進む探索パーティーが少ないものの、進めば絶対に必要になると分かれば確実に売れる。

 そのパーティーが装備ロストすればまた売れる。という事だ。



「いやぁホントに寒いね、息が真っ白」


「やはり手袋したままでは弓は無理だな。ナイフメインでいくか」


「ウィンドコートでもダメ?」


「ずっと使い続けるの無理でしょ。いくらミルトチーネでも」


「やはり火属性魔法が使えないのがつらいのぉ」



 狩人の【蒼穹】モルトコバーンが弓の弦をはじきながら嘆く。

 魔法使い【風水士】ミルトチーネの風魔法″ウィンドコート″による外気遮断も可能だが、それを使い続けたままでの探索はやはり厳しい。

 となると火魔法による温度上昇を狙いたいところだが、エルフは本来火属性魔法の適正がない種族なのだ。エルフにこの階層は不向きと言える。


 ただ例外がある。

 本来(・・)と言ったのは一般のエルフに言えるもので、極稀に火属性の適正も持ったエルフが産まれる場合もあった。

 その例外が【輪導師】ムッツォ、このパーティーの最年少である。

 ムッツォは【魔獣の聖刀】のアレクと同じく、世界的に稀な六属性魔法使い(セクストゥーブル)であった。まぁ騒がれるので隠している身ではあるが。


 そのムッツォにして「火属性魔法が使えない」と嘆くのはこの階層の特性。

 五〇階層″暗黒迷宮″でライトの魔法が使えなかったのと同じように、この″氷の洞穴″では火属性魔法全般が使えない。

 つまり温度上昇だけでなく、ファイアボールなどの攻撃魔法やビルトコートなどの身体能力上昇魔法も使えないのだ。火と水の複合属性である氷魔法は使えるようだが……。



 この仕様に怒ったのは最初に探索をした【覇道の方陣】である。

 いつも使っている身体能力強化が使えない。暖をとろうにも生活魔法の″着火″すらできない。

 ふざけんな、と。

 小僧まじでぶっとばすぞ、と。

 すぐに転移魔法陣で戻りビーツに食って掛かったのは言うまでもない。


 それに対しビーツは「いやぁすみませんアハハ……」と苦笑いの上、平謝りしか出来なかったという。


 何もビーツは嫌がらせ目的でこの階層を造ったわけではない。

 従魔の中には雪山を住処とする者がいくつか居て、その住処を造ろうとしたのが切っ掛けであった。意外にも寒い環境に適した従魔は砂漠や沼地のそれに比べて数が多い。海や森に比べればかなり少ないのだが。


 ここにもそのうちの一体が″徘徊ボス″として住処を持っている。

 ただそれをメインで階層設計をし氷に覆われた洞穴を造ったはいいが、難易度が低く感じたのだ。それこそ前階層の″大噴火地帯″に比べて、突破は楽だろうと。

 ビーツ的にはそのままでも良かったのだが、気休め程度に難易度を高くした結果が″火魔法禁止″というルール制定である。



 後から考えれば「階層入れ替えればいいじゃん」という話しだったが、その時はそのまま突き進んでしまった。

 【魔獣の聖刀】でプレオープン時に探索した際、何も文句が出なかったのも大きい。

 むしろ縛りプレイを楽しむが如く、火魔法以外を行使するアレクのテンションは上がっていたと言う。



「しかし何とも幻想的なものよ」


「見た目だけは綺麗だよね」


「魔物と罠がなければ、な」



 ムッツォが洞穴を見回しながら感心したように呟く。

 壁も天井も地面も氷。しかしその色は地面を透過したような茶色ではなく、白と青、水色がガラスのような透明の氷で輝く世界。

 まるで水晶や宝石の中を歩いているような錯覚さえ覚える。

 洞穴と言っても縦五メートル横十メートル弱の大きなトンネルのようなものだ。それが入り組み、分岐し、どこまでも繋がっている。

 ″氷″というだけあって天井にはツララが並び、鍾乳洞のように地面からも氷筍が生える。


 見た目だけは綺麗、そう評するのも分かる。

 実際にはそのツララもトラップの一部として探索者目がけて落ちて来るのだから。



「来たよ」


「アイスアントか」



 さっそくお出ましか、と【不滅の大樹】は陣形を組んだ。

 いつもは双剣士の【艶舞】マーグリッドが一人前に出る形だが、今回はモルトコバーンも前衛で並ぶ。弓が使えないので短剣で応戦するようだ。

 後衛はいつものムッツォ、ミルトチーネ、そして召喚士【森ノ巫女】メルメリィが並ぶ。


 蟻系の魔物は群れで襲って来るのが常だ。個々の強さはないものの、数で圧倒してくるので危険視される。

 アイスアントも一メートル近い体躯を持つ、体毛の生えた白アリだ。それが十体以上で襲って来る。

 飛びかかり噛み付き、だけでなく蟻酸も吐いてくる。盾がメインの前衛特化パーティーであれば苦戦するところだ。



「ストーンバレット」


「ゲイルストーム」


「シャドウウェイブ」



 しかし【不滅の大樹】は後衛特化。魔法使いの二人に加え、召喚士のメルメリィも鞭ではなく杖を持っての魔法攻撃を主体とする。

 これに本来であればモルトコバーンの弓も入るという後衛特化ぶり。

 前衛を受け持つマーグリッドの【艶舞】の名に恥じない回避盾がなければとても成立しないパーティー構成だろう。


 五五階層″氷の洞穴″。

 こうして【不滅の大樹】は探索を開始した。




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