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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第十章 挑む者、挑まれる者
155/170

154:とある猫妖精の下剋上(失敗)



 地下五四階層″大噴火地帯″。

 相次ぐ火山の噴火により溶岩が流れ出し、順路がたびたび変わる高難易度エリア。


 最初にボス部屋へと辿り着いたのはやはり帝国所属のアダマンタイト級パーティー【覇道の方陣】だった。

 熱と溶岩と魔物、探索するのが難しい階層にあって、彼らの継戦能力は際立っていた。

 他のパーティーが短時間で切り上げるのに対し、彼らは数時間、多い時は半日ほども探索できる。


 それは帝国にある【火焔窟】というダンジョンでの経験が大きい。そこもまた熱さと溶岩地帯も多いダンジョンであったからこそ、この階層における探索に活かせたのだ。

 例えば溶岩地帯の歩き方であったり、冷やす魔道具の持ち込みであったり、休憩の仕方であったりと。

 経験者故のアドバンテージを発揮した。もちろん自力があるのは言うまでもない。


 エリア中央のアカナメの砦を迂回し、奥へと向かう。

 その道も『どこの火山が噴火すればどこが通行可能になるか』という検証が必要なもので、彼らはそれを調べた上で進んだ。

 湖のような溶岩溜まりには溶岩竜と呼ばれる亜竜が泳いでいるのも見えた。明らかにこの階層の敵より強い為、これをアカナメに続く二体目の″徘徊ボス″と定め無視。さらに奥に進む。


 そうしてやっと見つけたのは岩壁にはめ込まれた見覚えのある扉だった。





『あーっと! ボス部屋の扉だ! 見つけました! 辿り着きました! 一番乗りは【覇道の方陣】だーっ!』


『長かったニャー。このエリアは目がチカチカして困るニャ。早く次の階層行ってほしいニャ。ニャ?【スネリン】』


『なー』



 モニターから流れ出る実況解説に観客も騒ぐ。

 今日の解説は二本脚で立ち人語を介す白黒の猫、ケットシーのネコマタ。

 サポートなのか勝手に付いてきたのかフォレストキャットのスネリンも居る。

 スネリンは一メートルを超える逞しいフォルムのヤマネコだが、ぐるりと寝転がって、まるで炬燵猫状態である。「なー」と相槌しか打たない。



『さあ【覇道の方陣】がパネルの前に着きました。【覇央】グラディウスがいつものように操作します』


『このパーティーは祈らないのニャ。というか″祭り組″で祈るパーティーの方が珍しいかニャ』


『そうですね』


『これで強い従魔が出ると面白いんニャけど。【三大妖】とかまだ出てニャいし』


『ネコマタさんもまだですよね』


『ボクはまだまだ深くないと出ニャいんじゃニャいかニャ? 【三大妖】と同じくらい出にくいんじゃニャいかと思うニャ。ま~ボクくらいにニャると……』


『あっと、スロットが止まりますね!』



 グラディウスの操作したパネルがモニターに映し出される。

 そこに出たのは白い背景に″白黒の猫の顔″……。



『ちょっ! うそニャアアアア―――』


『えっ! あっ! ネ、ネコマタさんの姿が消えます! 私の隣に座ったネコマタさんが転移の光に消えていきます!』



 実況室はポポルの絶叫でパニックだ。

 その音声につられて観客もざわめく。

 解説担当の従魔が従魔戦に選ばれたのは初だ。


 モニターに映し出される五四階層のボス部屋ではすでに転移の光からネコマタの姿が見え始め、【覇道の方陣】は少し下がって体勢を整えていた。

 【覇道の方陣】からすればケットシーという魔物は戦ったことのない相手だ。情報がない。

 ケットシー=猫妖精という事は知っている。しかし妖精そのものと戦った経験がないのだ。

 果たしてどのような戦い方をするのか、分からないままとりあえず『見』から入る。


 転移の光が収まる。現れたのは五〇センチほどの両足で立つ猫。

 王族のローブのような服を纏い、左手は腰に、右手は指一本を天に向けて伸ばしていた。

 サタデーナイトフィーバーである。

 そこに選ばれた時に慌てふためいていた様子は観られない。小さな猫にして王者の貫禄。とてもこの短時間で取り繕ったとは思えない。



『天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ! 探索者を倒せとボクを呼ぶ! 聞けぃ、探索者ども! ボクは二代目ダンジョンマスター! ケットシーのネコマタニャ!!』



 ネコマタは天に掲げた右手を今度は【覇道の方陣】に向けてビシッと指さした。

 ババーンと効果音が出そうな状況だが、相対する【覇道の方陣】は静まり返っていた。

 モニターを眺める観客たちもなぜかシーンとしていた。


 ちなみに二代目ダンジョンマスターとは自称であり、猫の分際でビーツの座を虎視眈々と狙っているからである。

 小さい猫だからこそ強者の集まる従魔たちの王になりたいと下剋上を目論んでいるのだ。そのわりにビーツに撫でられると嬉しいらしい。



『ス、スネリンさん。ネコマタさんは大丈夫なんでしょうか……』


『なー』


『……なるほど』



 実況のポポルも少々混乱しているようだ。

 スネリンは「ほっとけ」「好きにやらせろ」と言わんばかりに目をつむった。



『ゆくニャッ!』



 ネコマタは立った姿勢のまま、トテトテとグラディウス目がけて走って来た。どうやら右手を振り上げ殴るつもりらしい。

 速度は遅い。何かあるか、とグラディウスの目が険しくなる。


 ……近くまで来たので大剣を振ってみたら吹き飛んだ。



『ニャアアアア!!!』



 ……なんか転移の光に包まれている。



『これで勝ったと思うニャよおおおお!!!』





『……えっ、終わり?』


『あいつ狐軍じゃなかったか? 魔法は?』


『まじで? いや、まじで?』



 勝ったはずの【覇道の方陣】が戸惑っている。すでにネコマタは転移の光に覆われているのに迎撃体勢を維持。

 チャリンと従魔メダルが現れ、やっとのことで解いたのだった。



 実況室に転移で戻って来たネコマタは、何事もなかったかのように解説を始めた。



『いやぁ~【覇道の方陣】はさすがだったニャ!』


『そ、そうですか……』


『ボクだからあそこまで戦えたけど、他の従魔だったら即殺されてるニャ。ニャ、スネリン』


『なー』


『は、はぁ……』



 スネリンの「なー」は「はいはい」という意味である。

 実況室も観戦ホールもボス部屋も、全ては白けた様子で埋まっていた。


 ちなみにケットシーのネコマタはレアな魔物(妖精)である為、低い階層での出現確率は低い。強さ的に言うとアレなのだが……。




■百鬼夜行従魔辞典

■従魔No.77 ネコマタ

 種族:ケットシー

 所属:狐軍

 名前の元ネタ:猫又

 備考:55話で出したので割愛


■従魔No.73 スネリン

 種族:フォレストキャット

 所属:蛇軍

 名前の元ネタ:すねこすり

 備考:強い山猫。でもいつも包まって寝ている炬燵猫。

    ネコマタ的には子分扱いなのだが

    スネリン的には付き合ってやってる感じ。



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