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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第十章 挑む者、挑まれる者
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153:とある古代竜の真実



 なんとかズールルォたちをソファーへと座らせる事に成功したビーツ。

 最終手段として神竜様からの「はやく座ればいいのだ」という有り難いお言葉を頂戴したが故である。

 とりあえずホーキの淹れた紅茶を飲み、主役の神竜様はお茶菓子に顔を綻ばせている。



「えっと、この人たちが竜神国の守り役でこちらが長のズールルォさん。こっちは僕の従魔のオオタケマル、エンシェントドラゴンです」


「もぐもぐ、オオタケマルなのだ。よろしくー」


「は、はいっ!よ、よろしくお願いしますっ!」



 これはダメだ。ビーツはすぐにそう思った。

 ただでさえ敬語が苦手だと言っていたのにオオタケマルを前にしてさらに喋れなくなっている。

 これはもう自分のほうで好き勝手に進めるしかないなーと幹部会議で見せるようなお仕事モードで挑むことにした。少し気合を入れ直す。



「オオタケマル、竜神国って知ってる?」


「んー?」



 首を大きく傾げるオオタケマル。

 まずは竜神国が竜信仰をしていて、その中で神竜様と言われているのがどうやらエンシェントドラゴンらしいと説明した。



「おー、確かに鱗人から『神竜』とは言われたことあるのだ」


『えっ?』


「あれ? オオタケマルって鱗人の人たちに会ったことあるの?」


「私はないのだ。先代なのだ」



 オオタケマルはエンシェントドラゴンが『神竜』と呼ばれている事を知っていた。さも自分がそう呼ばれたように言う。

 それに対しズールルォらが驚いたのは、教義にある神竜様と目の前の少女の姿が一致しておらず、さらに竜神国の成り立ちの歴史から換算すれば、鱗人がエンシェントドラゴンと共にあったという教義の内容は千年ほども前の事になる。

 教義の中にあった神竜様その人なのか、いやそんなわけはないだろうという葛藤が見えた。


 一方のビーツはオオタケマルが四百歳くらいでずっと山に籠っており、人と接していないのを知っている。

 なのに鱗人とは会ったのかと疑問に思ったのだが、どうやら違うらしい。

 オオタケマルが『先代』について話し始めるのを、ビーツは興味深く、ズールルォらは神竜の言葉を一言一句聞き逃すまいと集中して聞いた。



「先代はある時期大陸の東側に住処をもってたのだ。で、その近くに緑鱗人が集落を作ったのだ」


「あー、今の竜神国の場所かな」


「先代は近くの魔物を適当に狩って喰ってたのだ。で、鱗人は別に美味しくもなさそうだし放っておいたのだ」


『…………』



 要は見逃されていただけらしい。その時のズールルォらの心境はいかなるものか。しかし聞く耳に集中させ自らの感情を律した。

 『先代』はたまに鱗人の集落に竜人化して遊びに行ったらしい。

 そこで『神竜様』と呼ばれていたとのこと。どうやら鱗人からは「魔物の脅威から守ってくれる」と思われていたらしい。


 しかし当の『先代』にそんな気はなく、山脈付近の強い魔物を食べ、集落で酒をふるまわれる。気ままな暮らしだったと言う。



「へぇ~、それを『先代』から聞いて知ってたってこと? 『先代』ってお父さん?」


「違うのだ。私は記憶を受け継ぐのだ」


「……どういうこと?」



 そこからの話しは誰もが知らない真実。ビーツでさえ知らないエンシェントドラゴンという特異な竜の生態だった。


 エンシェントドラゴンは世界にただ一体のみの竜。

 殺されるか老衰か、いずれにしても死ねばどこかで新たなエンシェントドラゴンが生まれる。

 そして代々の記憶を継承し、次代に引き継ぐと言う。

 オオタケマルが話した『先代』の記憶は自らの経験ではなく、その記憶を垣間見ただけに過ぎないと言うのだ。



―――我は在るがままに時を揺蕩う

―――我は為すがままに身を残す

―――重なる時は史となりて過ぎる

―――それは繁栄か衰退か、芽吹きか滅びか

―――我はただ視る者なり



「……って『初代』が言ってたのだ」


『…………』



 オオタケマルの言葉にズールルォらは涙を流した。

 神竜の歴史を垣間見たのだ。教義にない真実を知ったのだ。敬純な彼らはただただ聞き入っていた。


 しかし隣のダンジョンマスター様は「へぇ~すごいね」と特に感動していないご様子。

 師匠のシュタインズであれば興奮冷めやらぬ状態であっただろう。エジル国王らが聞けば「また規格外の真実が……」と頭を抱えたことだろう。

 が、ビーツは特に気にせず平常運転だった。



「じゃあ鱗人の人たちに『神竜様』って呼ばれてたのも『先代』の記憶にあっただけでオオタケマルが実際に言われたわけじゃないって事だね」


「そーなのだ。なんであの頃、強い魔物が美味いって思ってたのか、今となっては謎なのだ。絶対にオロシのご飯のほうが美味いのだ」



 そりゃ魔物の生肉をそのまま食うより、手間暇かけて作った料理は美味しいだろうとビーツはオオタケマルに語る。比べたらオロシに失礼だよと。

 しかし何千・何万と続くエンシェントドラゴンの歴史に大規模な味覚革命を起こしたことには気付いていない。

 これでオオタケマル以降、次代のエンシェントドラゴンたちは美味しい料理でなくては満足できない舌になった事だろう。

 残念な事に今現在、ビーツのダンジョン以外には存在しない料理なのだが……。



「あ、鱗人の人たちが竜人化したエンシェントドラゴンの子孫だったりするの?」



 思い出したように質問したビーツにズールルォらの顔が一斉に向けられる。

 聞いて欲しいような、聞いてはいけないような質問だったからだ。

 しかしオオタケマルの返答はあっさりしたものだった。



「ありえないのだー」


「やっぱり」


「そもそもエンシェントドラゴンは自然発生で産まれるから子孫を残すようにはできてないのだ」



 そういう事らしい。

 ズールルォらは少し落胆したものの、当の神竜様ご本人の言うことだし是非もないと顔を上げた。



「あとは……何か聞きたいこととかあります?ズールルォさん」


「えっ、あっ、その、その『先代』様とのお話しを……」


「あー、オオタケマル、『先代』と鱗人の人たちの事だけど―――」



 何も話せなさそうなズールルォたちに代わり、ビーツはオオタケマルに色々と質問した。

 オオタケマルは体験ではないものの思い出話しをするかのように話す。

 それは『先代』がどういう竜だったのか、鱗人との関わりはどのようなものだったのか、そしてどのように亡くなったのか……老衰だったらしいが。


 そういった会議とも言えないお話しをある程度したところで、オオタケマルのまぶたが重くなってきた。



「食堂行ってから寝るのだー」



 ということでお開きである。

 オオタケマルはホーキに連れられて管理層へと行き、それを見送ったズールルォらは神竜様との謁見を終え、極度の緊張から解放された。

 疲れと喜びと感動と、何とも言えない表情をしたままビーツにお礼を言い、屋敷を後にした。


 翌日、彼らは竜神国へと出立する。

 五人で記憶を出し合って前日のオオタケマルの話しの内容はまとめた。

 二つの木の箱に大切に梱包されたのはオオタケマルフィギュアだ。

 土産というには信仰的に重すぎる荷物を持って、彼らは意気揚々と足を運ぶ。

 願わくば竜神国まで無事に辿り着けるよう祈るばかりである。




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