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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第十章 挑む者、挑まれる者
153/170

152:とある守り役の呼び出し



『お疲れさま、アカナメ。お見事だったね』


『シャーシャー!シャシャーシャシャー!』


『うんうん、まぁそれはまたの機会でいいんじゃないかな。今度従魔戦に呼ばれるかもしれないし』


『シャーンナロ!シャーンナロ!』


『ああ、それもいいかもね。誘い込む目的なら時間決めたほうがいいと思うよ。時間かかると思うけど分析されるだろうし』



 管制室のビーツは【覇道の方陣】を撃退したアカナメと念話をしていた。

 アカナメが組織した迎撃部隊は見事な働きをした。アカナメに眷属召喚はできないので、その全てがダンジョン機能によりポップされたレッドリザードマンである。

 にも関わらずアカナメは訓練を施し、軍隊として機能させた。ビーツは素直にそれを称賛した。


 が、当のアカナメは自分が戦いたかったらしい。それが出来なかった事を残念に思うのが半分。

 もう半分の残念事は、一当てしただけの【覇道の方陣】にアカナメの存在を示唆された事。まさかこうも早く看破されるとは思っていなかった。


 存在がバレたからには隠す意味もなし。

 アカナメはレッドリザードマンの部隊を砦の外へと巡回させる事をビーツに提案した。砦の中にいる数をわざと減らすことで、侵入者をおびき寄せる為だ。

 アカナメ自身が砦を離れることは従魔たちの″徘徊ボス″ルール……住処への侵入者に対する迎撃、に反する。

 だからこそアカナメは侵入者を招き入れたいのだ。


 これにビーツは了承した。

 せっかく組織したレッドリザードマンたちを砦に閉じ込めておくのも勿体ないと思ったのだ。アカナメの気持ちを汲みたいというのもある。

 ともかくこれで後続となる探索者たちがどう動くのか、ダンジョンマスターとしては楽しみなところである。



 そんな事を思ってアカナメとの念話を切ったビーツ。

 ふと管制室の扉が開く音がして、ビーツへと声が投げかけられた。



「ふぁ~~、ビーツー、おはよーなのだ」


「おっ、おはよう、オオタケマル」





 竜神国の守護を務める″守り役″。その長であるズールルォと精鋭四名の緑鱗人たち。

 いずれも屈強であり鱗人特有のしなやかな肉体を持つ。

 魔物と相対せば鎧袖一触。個々の強さもさることながら、連携面でも秀でている。日頃の守り役としての訓練の賜物だろう。


 中でも守り役の長であるズールルォの力量はかけ離れている。

 ″祭り組″のアダマンタイト級冒険者と比べても遜色なく、まさに守り役、まさにその長といったような腕を見せつけていた。



 そんな彼らは現在、一二階層″朝露の森林″でせっせと採取に励んでいる。


 同時期に潜り始めた″祭り組″たちはすでに最前線に陣取っている。

 なぜズールルォたちが未だ低階層に留まっているかと言うと理由は二つある。


 一つは斥候役が居ない事。

 ダンジョンを探索する上で必須といえる斥候職。それが不在。ましてや彼らは冒険者でもない。探索のイロハを知らないのだ。

 地下一層の″チュートリアルステージ″でトラップとはこういうものだと知ったはいいが、それを活かす術がない。結果、罠に嵌りまくる。


 二つ目の理由は……金がない事。

 罠に嵌り死亡扱い、装備をロスト。それを補充する金が限られている。

 竜神国は小国だ。そこの守り役、その長と言えどもアダマンタイト級冒険者の懐事情とは大きく差がある。


 彼らの第一の目的は『神竜様との接触』である。真偽についてはビーツとエドワーズとの会談によりすでに計られた。あとは出来れば実際に会いお言葉を頂戴したいという思いのみ。

 いつ目覚めるか分からない神竜様を待つ間、王都に滞在し続けなければならない。

 その為の滞在資金を確保し続けなければならない。罠を回避しながらだ。

 そういったわけで未だに彼らは一二階層で金策中なのであった。



 そこへ待ちに待った報せが入る。



『ピンポンパンポーーン。えっと、探索中に失礼します、こちらはビーツ・ボーエンです。探索者のお呼び出しをします。パーティー『竜人の守り役』の皆さん、なるべく早く探索を切り上げ、帰還をお願いします。繰り返します。パーティー『竜人の守り役』の皆さんはなるべく早く探索を切り上げ、帰還をお願いします。以上、お騒がせしました』



 一二階フロア全体に響いたダンジョン内放送。同じように金策目的で探索していたパーティーが騒ぎ出す。

 以前スタンピードの際に流れた放送を聞いた者もいる。放送が流れ始めた当初は「また何かあったのか」と危機感をもった彼らもどうやら違うらしいと安堵の声を漏らした。


 ズールルォらは突然流れた放送に驚き、自分たちが呼ばれたことに疑問をもったが、すぐにそれは解消された。おそらくそういう事だろうと。

 パーティーの仲間たちと頷き合い、すぐに探索を切り上げ、一二階層の転移魔法陣へと駆け出したのだった。





 すでに慣れ親しんだ転移魔法陣から帰還室を出ると、そこには待ち構えたように【三大妖】シュテンが立っていた。

 ズールルォらも一度は会った身である。少し緊張はしたものの、話しは普通にできた。

 ホールの脇を歩きながらシュテンとズールルォは小声で話す。

 周りの冒険者の視線も気になるが、今はそれどころではない。



「すまん、遅くなった」


「いや急がせて申し訳ない。タケの奴がいつまた眠るか分からないのでな、急ぎ呼び出させてもらった」


「いや、むしろ助かる。しかし……御前(おんまえ)をこの身なりで……さすがに失礼ではないだろうか」



 新調したスケイルアーマーは安物で、森の中を探索していたのだから汚れている。

 このまま神竜様に拝謁するのは躊躇われた。せめて汚れだけでも落としたい所だ。


 しかしシュテンは一蹴する。

 別にビーツもオオタケマルも気にするタイプではないし、そうこうしているうちに「ねむいのだー」と言い出し兼ねない。今日を逃せば次は一月後か半年後か、最悪一年後もありうる。

 ズールルォらも渋々承諾。自分たちの矜持よりも神竜様を待たせる現状のほうが無礼であり優先させるべき。意を決した表情でダイダラがちょこんと座っていた階段を上る。


 一階ホールからは見えない奥のほうにある応接室。

 シュテンがノックしズールルォらの訪問を告げると、すぐに返答があり扉は開かれた。


 いよいよ神竜様とお目に掛かれる。

 極度の緊張がズールルォらを襲った。背筋が強張り、口が渇く。

 それらを強い意思で振り払い、目をまっすぐに部屋へと入った。



 ……直後目にしたのはビーツに肩車されたオオタケマルの姿だった。



「ほらほら、お客さん来たからもう終わりだよ」


「おー」



 ふわりと浮いてビーツの隣に立つ少女。

 それは二本の角を有し、長い髪は緑と銀を混ぜ合わせたように煌めく。竜のそれを少女のサイズの合わせたような尻尾は白鱗に覆われ、美しく力強く、鱗人であるズールルォらに何とも言えないような思いを抱かせた。


 自然と涙があふれる。

 誰からともなく両膝を床につけ、頭もつけた。

 竜信仰の者たちが儀式などの際に行う祈りの姿勢だ。ビーツ的に言えばそれは土下座だが。


 うわぁ、と若干めんどくさそうにズールルォらを見やるビーツであった。




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