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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第十章 挑む者、挑まれる者
151/170

150:ある日、五四階層の探索風景



「うーん、やっぱ配置失敗したかなぁ」


「配置というと砦の、ですか?」


「そう。【アカナメ】の負担が増しちゃうでしょ、これ」



 管制室のモニターを見ながらシュテンと話すビーツ。

 中央のモニターには五四階層を探索している【覇道の方陣】が映っていた。

 すでに【覇道の方陣】が探索を始めて三回目。【不滅の大樹】も探索を始めている。

 そして今日から探索を始める【交差の氷雷】も地上部の屋敷に姿を見せていた。



「エリア中央に目立つ砦があるせいで、そこにボス部屋があるって思っちゃうんだろうね。グラディウスさんたちも、どうやって砦に挑もうかって話し合ってるし」


「砦を迂回して奥に行ってもらいたいんですがね」


「そうそう」



 この階層唯一の建築物である砦。そこを住処としているのはレッドリザードキングのアカナメと、レッドリザードマンの軍隊だ。

 探索者としては如何にも何かありそうだ、と砦に注目が集まるらしい。

 確かに宝箱などは配置しているが、ボス部屋があるわけではない。″徘徊ボス″としてアカナメが居るだけだ。



「どうせなら【覇道の方陣】に一度砦を十分に探索してもらい、それをモニターで周知させたほうが良いかもしれません」


「だよねー。アカナメにはそう伝えておこうか」


「アカナメからすれば喜んでいるでしょう。強者に対し軍を動かせるのですから」


「そうかな?だったらいいんだけどね」





『五四階層は″大噴火地帯″!

 暑いから気を付けてね!

 水分補給を忘れずにね!』


「暑いって言うか、熱いんだが……」



 エリアへと一歩足を踏み入れたソルトがそう嘆く。【交差の氷結】の五四階層、初探索である。

 安全地帯から出た先はエリアの端の岩壁。そこに扉がある。

 ムワッとした空気が瞬時に彼らを包み込み、熱気と空気の重さに早くも汗がにじんだ。


 右を見れば火山、左を見ても火山、右前方と左前方にもある。計四つの火山がエリアの四隅にあるのがすぐに分かる。

 どれもモクモクと黒い噴煙を上げ、空は真っ黒。昼でも夜でも同じだろう。

 なのにどうして周囲が見渡せるのかと言えば、至る所に赤く輝く溶岩溜まりがあるせいだ。

 それは川のように、湖のように、池のように散らばり、松明いらずの明るさで満たしている。



「こりゃ骨が折れるな」


「スノウ頼りになっちまうが……」


「私に万事任せておけ!」


「姉ちゃんさすがだぜ!」



 どう考えてもスノウの氷属性魔法が鍵になる。それが【交差の氷雷】……の後衛陣の考えであった。

 探索中に魔法を使わせることで、いざ戦闘となった時に果たして魔力的余裕はあるのか。

 いくら桁外れの魔力を保有しているスノウであっても無理があるのでは……そう考えるのも止む無し。

 一度に時間をかけて探索するのではなく牛歩の如く遅々とした探索となるだろう。この階層におけるソルトの探索方針とはそのようなものだった。

 ……あるいは先に探索している【覇道の方陣】と【不滅の大樹】をモニタリングしその結果を持って探索する、という手もあるのだが。



―――ドオオオン!!!


「うおっ!」

「噴火だ!」



 入口付近で立ち止まっていた【交差の氷雷】を大きな振動が襲う。左前方に見えた火山が噴火したのだ。

 噴煙は激しさを増し、噴石が降り注ぐ。赤や橙に輝く溶岩が勢いよく噴き出し火山を下る。

 その溶岩流は元の地形を壊し、新たな川と新たな地面を造り出していた。


 このエリアは四つの火山が不定期に噴火する事で地形を変えるエリアなのだ。

 決まったルートというのは現状見つかっていない。

 いずれどの火山がどのタイミングで噴火し、それによって地形がどう変わるのか、どこが通れるようになるのか、次第に判明するのだろうが今はまだ手探りの状態だ。

 ソルトたちにしてみれば、今そんな事を考えるより「噴火する火山の近くにいたら噴石と溶岩流で簡単に死ぬな」という危険意識しかない。



「やっぱ安全地帯はあそこしかないのか」


「噴石も届かないし溶岩流も避けるみたいね」


「あからさま過ぎないか? あの砦」



 エリアの中央に見える石造りの仰々しい砦。見える限り、この階層唯一の建築物。

 火山から離れている為、噴火しても被害を受けず、流れ出た溶岩流も砦を避けるように見えた。意図的なものが感じられる。

 果たしてそれが良い意味でなのか、悪い意味でなのか。

 ソルトたちが頭を悩ませるが、そんなものは関係ないと鶴の一声がかかる。



「よし!じゃあ行くか!」

「よっしゃ!」



 スノウがサッズを引き連れてズンズンと進みだした。

 道も定まっていない溶岩の裂け目を。

 スノウの氷魔法頼りの後衛陣は溜息交じりに後を追うのだった。





 そんな【交差の氷雷】の様子を管制室のモニターで見ながらビーツは【覇道の方陣】へと目を向ける。



「やっぱこういうエリアは得意みたいだね」


「帝国の【火焔窟】も火山や溶岩エリアが多いと聞きますし」


「慣れてるんだろうね。グラディウスさんたち、あそこ制覇したのかな?」



 【不滅の大樹】や【交差の氷雷】に比べ、【覇道の方陣】の探索は順調に見える。

 不確定の道を見分け、危険な場所を避け、砦に向かう様子が見受けられた。

 確かに【火焔窟】での経験が生かされているのだろう。帝国出身の冒険者の強みだ。


 ちなみにそのグラディウスは五三階層をクリアした後に地上部の屋敷で会ったビーツに詰め寄ったらしい。



「おい小僧、お前ダンジョンの階層いじれんだろ? あの館みたいなエリアを十層くらい連続で出せよ。出せるんだろ? お前ダンジョンマスターだろ? なぁ、謎解きやらせろよ、なぁ」



 妖怪『謎解かせろ』である。

 さすがにパーティーメンバーが黙らせたらしい。

 それに対しビーツは終始苦笑いで「そのうち似たようなエリアが出て来ますよ多分……」としか返せなかった。

 あんなに謎解きばかりをやらせるエリアはないけど、とは言えなかった。

 好評なのは嬉しいが、ハマリすぎた人間を前にすると引いてしまう。そんな事をビーツは初めて知った。


 ビーツの言葉に気を良くしたのか、グラディウスは五四階層でもふて腐れずに探索を進めている。

 謎解きを前にすれば別人だが、今は″最強の冒険者″そのものだ。


 さて、その″最強″は砦を前にどう出るのか。

 アカナメと連絡をとるのを後にし、ビーツはモニターを見続けた。




■百鬼夜行従魔辞典

■従魔No.84 アカナメ

 種族:レッドリザードキング

 所属:鬼軍

 名前の元ネタ:垢嘗(あかなめ)

 備考:レッドリザードマンの群れを束ねる王。

    溶岩地帯に根城を作る部族の長。

    同じ王でもオークキングのカタキラとは違い

    蛮族の王っぽく戦争好きの脳筋老兵といった感じ。


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