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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第十章 挑む者、挑まれる者
149/170

148:【覇道の方陣】vs五三階層



「さあ、この鍵で開くかどうか……よっしゃ!」

『おおおお!!!』



 地下五三階″リドルの館″。一階奥にある調理場、ここには外へと出るための裏口があった。

 一階の部屋にある窓は開閉が出来ない。二階もバルコニーのような場所があるがそこから外に降りる事は出来なかった。

 窓から見える屋外は屋敷の正面に庭園が見え、さらに奥、正門の場所にはボス部屋の扉が見える。


 探索者たちは皆思う。ボス部屋に行くには屋敷を脱出し、外に出なければならないと。

 しかしながら外へと続く扉が見つからなかったのだ。

 いくつもの謎解きをして一つの部屋を開け、またいくつもの謎解きをして通路を発見する。その繰り返し。


 逸早く裏口のある調理場を見つけたのが、連日探索していた【覇道の方陣】だった。


 本来、アダマンタイト級パーティーであろうと、一日探索したら休みを入れるのが普通である。

 いくら敵が弱くとも探索自体に精神力を使うものだし、モチベーションと体調、探索に必要な道具など全てを万全にした上で潜るのが普通。

 経験を積んだアダマンタイト級であれば尚更だ。


 しかし【覇道の方陣】はこの五三階層に限り、本当に連日の探索を行った。

 ひとえにリーダーである【覇央】グラディウスが謎解きしたかったが故である。

 まさか″世界最強の冒険者″がここまで謎解きにはまるとは……。ビーツもパーティーメンバーでさえも思いもよらなかったというのが本音だ。


 だが、そのかいあって、調理場裏口の扉が開いた。歓声はパーティーメンバー全員の達成感によるものだ。



「よっし、開けるぞ。戦闘準備」

『おう!』



 ゆっくりと少しずつ扉が開く。

 屋敷の敷地をぐるりと囲む塀がすぐに見える。裏口の外は人が二人通れるくらいの狭い道しかない。これを屋敷の壁に沿って正面側に回り込まないといけない。

 窓から見えた景色は、闇夜に蠢くアンデッドの群れだった。

 当然、それを警戒しながら【覇道の方陣】は外へと踏み出した。″リドルの館″からの脱出である。


 庭から溢れたのか、狭い裏口側にもスケルトンやグールがうろついている。

 先頭を歩くグラディウスは、羽虫を払うように大剣で斬り捨てていた。狭さを感じさせない、そしてどの魔物をも一撃で葬る強さ。

 彼らにとって当たり前の光景をモニターに映しながら、徐々に屋敷の側面へと近づく。


 側面の敷地はさすがに裏口より広い。正面ほどではないが、悠々と五人が並ぶくらいはある。

 当然アンデッドの数も増えるが、ここぞとばかりにメンバーが一斉攻撃を開始。

 ダンジョン特有の魔物が消滅する光で視界は彩られた。



「ん? ……納屋か?」



 敷地の右奥、その端にある小さな建物にグラディウスの目がいった。

 貴族風の屋敷にして納屋とは珍しい、そんな違和感があった。普通の貴族の屋敷であれば、例え掃除道具や庭園整備用の道具を置くにしても、それが見えないように館の中にしまうか、納屋を作るにしても格式にあったマシな見た目にするものだ。

 だがここにある納屋は木造の、いかにも掃除道具入ってますよとでも言うような、言うなれば″庶民的な納屋″だった。だからこそグラディウスも立ち止まる。


 他の四人も、グラディウスが納屋に近づくのを何も言わずに追った。

 確かに何か変だ。そう感じた。

 そして近づくとそれは確信に変わる。



「……パネルじゃねえか」

「ここも謎解き?」

「いや、もうボス部屋に行くまで正面の庭園を抜けるだけだぜ? 解く謎がねえよ」



 今まで何度も使ってきたダンジョンカードをかざす小さなパネルが納屋の扉にはめられていた。

 謎を解きギミックを解除する為のパネル。少なくともこの階層では全てそうだった。

 それがなぜ館を脱出した今になって出て来るのか……。


 訝しい表情の五人は頷き合い、グラディウスは自分のダンジョンカードをパネルにかざす。

 ……と、扉に文字が表示された。



『【覇道の方陣】 謎解き率:42%』



「なっ!?」


 声を上げたのはグラディウス。四人はそういう事かと納得気な表情を浮かべた。

 つまりはこれまでこのエリアで解いた謎解きの数が全体の四二%なのだろう。

 これはかなり少ないのではないか。

 むしろ四二%の謎解きで脱出できたことに四人は安堵する。無駄な探索をしなくて済んだと。


 しかし納得しない人間が一人。



「……戻るか」

「「なんでだよ!」」

「いや、まだ全然謎が残ってるんだぞ!? 半分もいってねぇ! それに百%になったらこの扉開くだろ! 絶対何かあるぞ!」

「そうだろうけど今はさっさと階層クリアだ」

「そうそう、ここまで来てボス部屋行かないとかないでしょ」

「こんな中途半端なまま次の階層行くのか!? お前らそれでいいのか!」



 グラディウスはごねた。″最強の冒険者″には見えないほどにごねた。

 パーティーメンバーは若干引いた。

 モニターを見ている観客もさっさと行けよと冷めた。


 結局、パーティーの「休日にでも一人で謎解きしてろ」という無慈悲な言葉にリーダーであるグラディウスが折れた。

 八つ当たりのように、屋敷正面の庭園に跋扈していたアンデッドの群れが散っていったのだが、詮無き事だろう。

 それでもまだふて腐れるように、グラディウスはボス部屋への扉を開いた。





 その頃、地上部の屋敷ホールでモニター観戦していたカモノハシの獣人が居た。



「おお~、そんなとこが鍵になってたノハシ。さすが【不滅の大樹】ノハシ」



 二~五番モニターの探索風景をチェックしながら、″リドルの館″の攻略ポイントを熱心にメモっている。

 もう自分の力で謎解きするのは諦めた。

 四人衆の力を求めるのは端から諦めている。

 だから他人に頼ろうと、他のパーティーの探索風景をチェックしているのだ。


 これは極めて正しい攻略方法である。

 別にビーツは独力での突破しか認めないわけではない。

 ただ全く同じ攻略をさせない為に、毎日微妙に謎解きを変えているだけだ。順路を大幅に変えるような事はしていない。



「あそこの絵と隣の部屋の天井が同じ模様になってんだよ」

「で、その模様合わせて寝室の引き出しのところで使うっぽいな」

「燭台の点火はあそこの本に順番が載ってるぞ」

「おお! ありがとうノハシ!」



 モニター観戦好きの冒険者たちからも情報が入って来る。

 その冒険者にしても、何と言うかヒョッコリが可哀想に思えたのだ。他の四人が脳筋すぎる。小さなカモノハシ獣人の少女が一人で謎解きに挑んでいるのを見るに見かねた、そんな冒険者が多かった。

 ヒョッコリは貰えるものは何でも貰う性格だ。

 ありがたく全ての情報をまとめ、その攻略メモは数枚ぎっしりと埋まっていた。

 探索時には見られないホクホク笑顔だったという。




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