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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第十章 挑む者、挑まれる者
148/170

147:【天馬の翼】vs徘徊ボス



「おいおい、脳みそが老化しすぎじゃねぇのか? どう見たってこっちの燭台が本命だろう」


「やれやれ、やはり子供の遊びには少々難易度が高いのではないかな? こんなあからさまな穴が壁に並んでいるんだ。これ以外ありえない」


「けっ!あからさま過ぎんだよ! そんなの魔物が出て来る隠し通路か何かだろうが。他の部屋にない燭台が三つも並んでるんだ、こっちに決まってる」


「はぁ、それこそビーツくんがしそうな引っ掛けのギミックだろうに。君は今まで何を見て来たのか、理解に苦しむね」


「んだと!?」



 狭い館のエリアに何組ものパーティーが同時に探索すれば、当然同じ部屋を探索するという事もあるものだ。

 今まさにそれを行っているのは【覇道の方陣】と【不滅の大樹】。世界的にも一・二を争う冒険者パーティーである。

 大人げなく言い争うグラディウスとマーグリッドを余所に、他の八人はそれぞれ部屋の中を探索している。勝手にやってろと言わんばかりだ。


 世界的に有名なパーティーの言い争いというのは風聞的にも悪いものだが、幸か不幸か、その光景は二番モニターで映されており、音声は一般客へと聞こえていなかった。一部、二番モニターに着目していた観客が「何言ってんだ?」と気にした様子であったが。


 そしてその有名パーティー二組を差し置いて一番モニターに映っていたのは【天馬の翼】。

 観客はその画面にガシャが映った事で、驚きの声を上げていた。





(ガシャがこの階層の″徘徊ボス″なのか! どうする!?戦う、逃げる!?)


 ラファエルが瞬時に頭を働かせる。


(ガシャの従魔戦での戦績は五勝一敗のはず。その一敗も【白爪】ベンルーファス陛下に大怪我を負わせての敗戦だ。俺たちが勝てるのか? 確かにいつガシャが従魔戦に出てきてもいいようにシミュレーションはしてきた。しかしこの狭い部屋で……。

 ″徘徊ボス″はボス部屋と違って戦わない事もできる。つまり逃げる事も許される。しかしガシャから逃げられるのか? ガシャがこの部屋を出て隠し通路の先まで追ってこないとは言い切れない。その場合は後ろから一方的に攻撃される。……壊滅必死だ。

 ならばやはり戦うしかないのか……!)


 ここまで一秒。

 まだガシャは執務机の前に出たばかり。急いでラファエルは声を出す。


「二の五番! 急いで中に入れ! 窮屈でも体勢を整えろ!」

『おお!』


 ラファエルの指示で【天馬の翼】の一九人が素早く動く。二〇人ものパーティーがとれる作戦など山のようにある。決められたフォーメーションは時間と訓練と実戦を経て身体に染みついたものだ。

 『二の五番』は前衛が完全なる防御姿勢。後ろは気にせず、広範囲魔法での攻撃を優先するというもの。このエリア″リドルの館″にある全てのオブジェクトはダンジョン壁と同じように破壊不可能。だからこそ、広範囲魔法で部屋にあるものが壊されることはない。


 それに加え、ガシャは圧倒的な技術・速度をもった剣技での単体攻撃のみ。

 一方で多角的な攻撃、魔法攻撃に弱いとは以前に解説のシュテンが言っていた情報だ。

 それらを加味し、ラファエルは指示を出した。極めて正しい判断、優秀な頭脳、素早い対処と言える。


 ……が、それは甘かったとすぐに悟る事になる。



 ガシャは執務机から少し前に出て構えている。右手の剣を体側に下ろし、左手のバックラーを前にするいつもの構え。極めて自然体で隙のないそれは初動を見せずに斬りかかって来るだろう。

 それを防ぎ、出来ればその前に魔法ダメージを与えたい。【天馬の翼】の魔法部隊は攻撃準備へと即座に移行し、放つ寸前でそれは起こった。



ドオン!ドオン!


「うわあっ!」「きゃあっ!」



 後衛の魔法部隊が攻撃を受けた。魔法による被弾だ。

 ガシャは動いていない。慌てて魔法が放たれたと思われる上を見た。

 そして皆が皆、目を見開く。


 天井に張りつくように漂う半透明のローブ姿。……レイスだ。

 しかもほとんど見えない顔なのに明らかに笑っているのが分かる、三日月のような口。表情などないはずのレイスに不釣り合いな表情豊かな笑顔。


「エンラ……だと!?」


 ラファエルの声が部屋に響く。

 スケルトンのガシャにレイスのエンラ。【百鬼夜行】の従魔がこの狭い部屋に二体も居るというのか。そんなのアリか、思わず嘆きたくなる状況で必死に頭を働かせる。


(エンラを仕留めないとマズイ! ガシャは防ぐ事だけに専念し、先にエンラを倒さないと!)


 しかしその逡巡の隙を見逃すガシャではない。



ザシュッ!ザシュッ!


「ぐあっ!」「速っ!」


 あっという間に前衛の二人が死亡判定を受けた。

 ラファエルはガシャからの攻撃を守り切るのは不可能と判断、すぐに新たな指示を出す。


「退避! 走れっ!」


 一八人が逃げ出す。部屋の扉に近い者から脱兎の如く隠し通路へと走る。

 背中を向けた【天馬の翼】の面々に、ガシャとエンラの攻撃が襲い掛かる。

 そしてまた三人が戦闘不能になった。悔しさと悲鳴の混じった声を上げながら我先にと部屋を出る。


 追撃は部屋の中のみであった。

 通路まではガシャもエンラも追ってこない。もし追ってきたら狭い通路で後ろから襲われ全滅は必至だっだだろう。

 なぜ追ってこなかったのか、別に部屋から出られないわけじゃあるまいし。考えてみても答えはでなかった。

 何にせよ九死に一生を得た気分だ。仲間が数人やられたが、それでも大多数は生き残った。喜ぶべきか悲しむべきか、いや、それよりも今頭を占める感情はただ一つ。


「ハァハァ……従魔二体同時とか……ふざけんなよ!」


 悔しさと憤り。【天馬の翼】の面々は揃ってしばらく悪態をついた。





『いやいや、″徘徊ボス″はエリアで最低でも(・・・・)一体ってマモリも言ってたでしょ~? そりゃ二体居る場合もあるし、二体が同じ場所に居ることだってあるさ~』



 モニターから流れる解説でサキュバスのモクレンがそう語る。声色からして笑顔だ。

 実況のポポルは『は、はぁ、そうなんですか……』と若干引き気味。

 屋敷のホールで観戦していた冒険者たちは、怒ったり項垂れたりと様々だ。



『大体、二〇人で従魔戦したら四体相手でしょ~? 今さら二体同時くらいでやんや言われてもねぇ~』


『た、確かにそれはそうですが……』



 【天馬の翼】はボス部屋での従魔戦にはいつも五人体制で挑んでいる。それを数回繰り返して全員で次の階層を探索する、というのを常としていた。だから戦う従魔はいつも一体だ。

 実は四九階層で最初にそれぞれ一度だけ二〇人で戦った場合と、一〇人で戦った場合も試してみたのだ。

 結果は惨敗。

 以前にマモリが解説で言っていた「従魔の種族はバラバラだが意外と連携が上手く集団戦が得意」というのは当たっていた。

 少なくとも【天馬の翼】にとっては複数の従魔相手より、単体の従魔の方が戦いやすいと感じた。それから五人で挑むようにしたのだ。階層クリアにロスが生じようとも。


 だからこそエンラが出て来た段階で即座に逃げに転じたわけだが……。



『まぁガシャもエンラも出掛けてる時あるしね~。今回はたまたま二体とも居てラッキーだったけど』


『ラ、ラッキーですか?』


『そりゃそうだよ。二体を相手に戦えるシチュエーションなんて限られた階層の″徘徊ボス″か、六人以上で挑む従魔戦しかないんだから、慣れておいて損ないでしょ~。これから三体同時とかあるかもしれないんだし~』


『えっ!? あ、あるんですか!?』


『いやいや~例えばの話しだよ~。まぁネタバレは禁止されてるからあってもなくても言わないけどね~、むふふ』



 屋敷のホールは不穏な空気に包まれるのだった。




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― 新着の感想 ―
[一言] タイトルに惹かれて。 読み始めたら止まらないくらい、おもしろかったです!これまでダンジョン系の小説を結構読みましたが、個人的に1番といってもいいくらい好みでした! 主人公が強い、で終わらせず…
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