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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第十章 挑む者、挑まれる者
147/170

146:ある日、五三階層の探索風景

00話に前章終了時、145話までの登場人物紹介を更新しました。



「この数字は何の意味があるノハシ……?さっきの台座にあった数字?本に書いてあった文章と合わせる?あーーーっ!分かんないノハシ!」



 カモノハシの獣人少女、ヒョッコリが頭を掻いて天を見上げた。



「……ちょっとは手伝ってくれないノハシ?」

「「「「魔物が出てきたら任せろ!」」」」

「聞いた私がバカだったノハシ……」



 地下五三階″リドルの館″。

 【白の足跡】が五二階のボス部屋への入口を発見してから、五三階への到達者は相次いだ。

 【天馬の翼】と【紅の双剣】はしばらく屋敷のホールで黄昏ていた。海中探索とは何だったのかと。しかしその後、気を取り直したようで、翌日には鬱憤を晴らすが如く、五三階へと到達した。

 他にもずっと五二階を探索していた【星屑の聖戦】たちや、″祭り組″の【黒竜旅団】【交差の氷雷】、そして【不滅の大樹】や【覇道の方陣】も続いている。

 皆が皆、五三階に集まったのだ。中には金策の為に五二階に留まる者も居たが……。


 それだけのパーティーが集まった、にも関わらず数日経った現在、未だ突破者は出ていない。

 ″リドルの館″というこのエリアに全員が足止めをくらっている状況だ。



 五三階、安全地帯の扉から入るとそこは屋敷のエントランスである。外から屋敷に入った格好だ。

 広めの貴族の屋敷という雰囲気。正面には二階へと続く階段、その両脇に一階奥へと続く通路。エントランスの左右にも扉がいくつか並び、天井を見上げれば豪華なシャンデリアが怪しげな鈍い光を放っている。

 エントランスからは窓も見えず、魔物の気配すら感じない。

 そんな不気味な屋敷が舞台であった。ちなみに今までの階層で最も狭いエリアである。


 コンセプトは言うまでもなく″脱出ゲーム″。

 散りばめられたヒントを元に、徐々にゴールへと向かっていくというもの。

 ただ普通の脱出ゲームと違い、ここはダンジョンである。大きく二つの相違点があった。


 一つは魔物と宝箱が出るという事。ダンジョンなのだから当然だ。

 これにより、正規の脱出ルートへと続く暗号の他に、隠し通路へと行ける暗号・ギミックが盛り込まれた。脱出には不必要なヒントが混じることで、尚更脱出しにくくなっている。

 解読を間違えたりすれば魔物が出て来たり、隠し通路に宝箱があると思いきや、魔物が出たりする。もちろん宝箱が出る場合もある。


 二つ目は、それらの隠し通路が物理法則を無視して造られている事だ。これもダンジョン特有の現象。地上部の屋敷と同じである。

 明らかに部屋や通路があるはずのない隙間に普通に部屋や通路があったりする。エントランス以外の部屋には窓がある所もあるが、その窓側に向かって隠し通路が伸びていたりする。普通の建物を想定して探索すると絶対に見落とす構造だ。


 ちなみにこの階層はビーツ一人で造ったものではない。【魔獣の聖刀】の四人がわいわい騒ぎながら遊び感覚で造ったのだ。「ここはバ〇オ1のアレで」「いやそれだと単純すぎる」「青〇のアレは?」「これ攻略できるの?」とそんな感じだ。

 むしろ盛り上がる三人に対して若干引いていたのがビーツだった。



 さて、そんな狭いエリアに何組ものパーティーが詰め込まれているので、当然同じ部屋に数組のパーティーが居ることもあるし、せっかく見つけたヒントを他パーティーに知られるリスクも高い。

 もちろん協力体制を布くパーティー同士ならば問題ないが、全部が全部そういったパーティーではない。

 そこであらゆるギミックの解除には、これまでの階層でおなじみのダンジョンカード認証が使われている。カードをかざす小さなパネルが至るところにあるのだ。隠し通路を開けてもギミックを解除したパーティーだけしか入る事が出来ない、といった具合だ。

 普通にパネルがあるだけでは「ここにギミックがありますよ」と知らせているようなものなので、無関係な所も含め、いくつもパネルがあったりする。


 おまけにギミックを動かすための暗号は毎日微妙に変わる。

 前日に見つけた数字の並びが、次の日には使えなかったりする。結果、暗号を間違えたと同じ扱いをされ、魔物が出現したりする。ひどい話しだ。



 そんな通常のダンジョンにおける″探索″とは一風変わったエリア。


「ちょっとは手伝って下さいよ~!」

「レスティアに任せる。わし無理」

「「「同じく」」」

「私だって苦手なんです~!魔法使いだからって賢いと思わないで下さい~!」


 【白の足跡】と同じように全然探索が捗らないのが【黒竜旅団】。


「なるほど、それでこの四桁の数字を合わせるのか」

「隣の部屋の本にも四桁の数字あったぞ?」

「あれは別のだと思う。こっちは書体が一緒だし」


 後衛三人が優秀な【交差の氷雷】はそこそこ順調。

 スノウも超感覚的な思考で見つけにくいヒントを見つけたり、意外と貢献している。サッズは論外。


「はははっ!楽しいのう! 樹王国にもこの手の施設が欲しいぞ!」

「楽しそうで何よりだよ、ムッツォ」

「マーグリッド、この鍵どうする?」

「うーん、通路で開けられそうな部屋を探そうか」


 【不滅の大樹】も順調。このパーティーは五人揃って思考能力が高い。


「やべぇ!おもしれぇ!」

「いつになくテンション高いねぇ、グラディウス」

「気持ちは分かるわ。こんなダンジョン他にはないし」

「よっしゃ! 変なマーク見つけたぜ!」


 意外にも【覇道の方陣】が探索を捗らせている。傲慢で戦闘狂のイメージが先行する彼らだが、予想外なことに″リドルの館″にハマっていた。特にグラディウスは今まで見たこともないようなテンションだ。



 そして、モニターで観戦している観客たちもいつものダンジョン探索とは一風変わった盛り上がりを見せていた。


「ん? あれはさっきの机の手紙がヒントじゃないのか?」

「違うだろ、飾ってあった謎の絵がヒントだ」

「いやいや椅子の裏に貼ってあった記号だろ?」

「あ~~~!気になって仕方ねえ! 俺もう休憩時間終わりなんだが!」

「諦めてさっさと帰れ。正解は見ておいてやるよ」

「謎が解けた時の爽快感を味わいたいんだよ!」


 皆が皆、ギミックやヒントの意味を考え、頭を悩ませながらの観戦。

 さながら『合同謎解き会場』と化していたのだ。

 そしてこうした一般客の中から、探索者が思いもよらない正解が出たりする。高ランクの冒険者が非戦闘員である一般客から知恵を借りる事態も、そう遠くない未来かもしれない。



 さて、そんな中、一番順調に探索を進めているのは【天馬の翼】であった。

 今やアダマンタイト級がゴロゴロと居る五三階という最前線。

 総勢二〇人の金級パーティー。リーダーのラファエルはミスリル級だが他は金級冒険者だ。アダマンタイト級の面々とは力量に天地の差がある。

 しかしこの″リドルの館″において最も必要なのは柔軟な思考能力であり、その考えを出す為の人海戦術であった。【天馬の翼】に適した階層と言っていいだろう。


 もちろん戦闘面で劣るが故に魔物が出れば苦戦する。

 ただでさえ魔物の数が少ないこのエリアは、出て来る敵がやや強めになっているのだ。

 【天馬の翼】が今まで相対した魔物はオーガゾンビやトロールゾンビなどのアンデッド。または五〇階層で見たシャドウパイソンの群れや、スライムが大量で天井から降って来るというものもあった。


 豪華な貴族邸宅を意識しているのか部屋はどれも広い。しかし【天馬の翼】は二〇人パーティーである。

 二〇人が陣形を組めるような広さはなく、隠し通路で魔物と遭遇した時など、戦えるのはごく僅かな人数でしかない。

 それでもこれまでのダンジョン探索の経験をもとに凌ぎ切り、打倒してきたのだ。


 そしてまた見つけた隠し通路。

 そこは宝箱や魔物が出るだけの通路とは少し様子が違っていた。

 やや広めの通路で、正面には扉が見える。ボス部屋ではなく普通の部屋の扉だ。

 つまりは隠し部屋。【天馬の翼】に若干の期待が見えるも、リーダーのラファエルはそれを諫める。


「扉に罠は?」

「……大丈夫。鍵もなし」

「よし開けるぞ。警戒を怠るな」

『おう!』



 ギイとわずかな音を立てながら扉が内側に開く。

 警戒しながら覗き込んだ先は書斎のようであった。

 そこそこの広さがある壁一面書棚の部屋。

 奥にある執務机とその向こう、革張りの椅子に腰かけ、本を読んでいる人影があった。


『!?』


 入口から覗き込んだラファエルと【天馬の翼】の数人はすぐに気付く。

 その人影がスケルトン(・・・・・)だと。

 眼球のないスケルトンが隠れた書斎で本を読んでいる。

 異様な光景に絶句したまま身体は動きを止めた。


 彼らが入室したのを察知したのか、スケルトンは丁寧に栞を挟み、パタンと本を閉じ、顔を本から彼らへと向け立ち上がった。

 執務机から回り込むように歩き出るスケルトン。ラファエルはすぐにスケルトンの持つ剣と盾に目を奪われた。


(ミスリルソードとミスリルバックラー!?)


「ガシャか!!!」


 ラファエルはそう思わず声を上げた。




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