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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第九章 ダンジョンアタック
144/170

143:【白の足跡】vs五二階従魔戦



『あーっと!ボス部屋だー!ボス部屋が発見されました!一番乗りは【白の足跡】!獣王国アダマンタイト級パーティー【白の足跡】だぁーっ!』



 テンションだだ下がりのヒョッコリとは裏腹にモニターを見る観客と実況のポポルはテンションマックスだった。

 かれこれ一月以上も探索し続けていた″巡礼諸島″に終わりが見えたのだ。

 それも″祭り組″が探索し始めてわずか数日である。

 ″祭り組″に期待していた観客たちは早くも期待に応えてくれた【白の足跡】を称える。

 特に『五二階層を最初に突破するのは誰か』というものに【白の足跡】と賭けた人々は賭け札を握りしめていた。



『存外時間が掛かったのぅ』



 本日解説のウンディーネのマモリも少し嬉しそうに言う。



『じゃが我が主は「こんなはずじゃなかった」と言っておったぞ』


『どういう事です?』


『もっと早くに攻略できるものと想定していたらしい。ボス部屋への隠し通路……ゴールが実は一番最初の島にあるというのはよくある類のもので、罠とも言えない罠じゃと。トーダイ・モトクロスとか何とか言っておった』


『トーダイ……何ですか?』


『トーダイ・モトクロス。周りばかりを気にして足元を見ていないという意味だそうじゃ』


『なるほど』



 実際ビーツは五二階層は楽にクリアできる階層にしたつもりだった。

 宝箱は豊富だが碌に探索できない五〇階層″暗黒迷宮″。急いで攻略させる五一階層″宝運びの山道″と来て、この階層の難易度は低めにしようと。

 その代わりに巡る島を多くし、採取アイテムを豊富に、探索メインで訪れるならば探索しやすい階層という事だ。おまけに海を歩けるので景観も良い。のんびり採取にはうってつけのエリア。


 ところがどのパーティーも思いの外攻略は難儀した。

 祠に奉納して時間制限のある祝福が付与されると、時間に追われ、なるべく早く次の島に行こうとする。祠の周りを調べるパーティーなど皆無だったのだ。


 マモリの話しを受け、ホールでモニター観戦していた冒険者たちも「確かに」と頷く姿がある。言われてみれば祠の裏側などモニターで見ていても気にする事はなかった。

 だがちらりとでも気にしていれば一気に攻略が進んだだろう。

 ダンジョン攻略における罠やギミックというものの中にはこういったものもあるのか、と素直に感心する冒険者が多かった。

 ビーツの中では「よくあるタイプのやつ」というものだが、冒険者目線ではそうではなかったらしい。


 そして冒険者たちは心に刻むのだ。

 トーダイ・モトクロス、と。





「おおっ!ボス部屋じゃねーか!やったぜ!」

「さすがリーダー!まさか隠されたボス部屋を見つけるなんてな!」

「一番乗りじゃねーか!?俺たち!」

「よっしゃー!さっさと行こうぜ!」



 わいのわいの騒いでいる四人の後ろで「隠し宝箱が良かったノハシ……」と呟いているヒョッコリ。

 が、しかし、彼らが言うようにおそらく自分たちが最初のボス部屋到達者であるのは間違いないだろう。それは名だたる強者たちに先駆けてトップに立てるという優越感でもある。

 気持ちを前向きに、眼前のボス部屋へと挑むしかない。そうヒョッコリは顔を上げた。



「よっし!じゃあ従魔戦行くノハシ!」

「「「「おお!」」」」



 そして毎度おなじみ誰も居ないボス部屋への扉を勢いよく開け、足を踏み入れる。

 若干の緊張と興奮と不安を織り交ぜながら、ヒョッコリはパネルへと歩を進めた。

 パネルを操作するのはいつもヒョッコリの役目である。

 もちろんリーダーだからというのもあるが、四人の誰かに操作させた場合、ヒョッコリが覚悟を決めたり気持ちを落ち着かせたりする間もなく、淡々と操作してしまいそうで怖いのだ。タイミングは自分で決めたいというリーダーの我が儘である。


 慣れた手つきで人数を五人と入力。そして従魔スロットが現れる。

 ここで彼らは五人で組んだ両手を胸に当て、祈るのだ。


 巨躯の四人は「ジョロかガシャを出してくれ」と。

 ジョロは【白爪】ベン爺に敗北をもたらし、ガシャは深手を与えた。自分たちがリベンジしたいという思いだ。

 一方でヒョッコリだけは「なるべく弱いのお願いしますノハシ!」と。誰より強い祈りを込める。

 ちなみにこれまでの従魔戦、三戦ともヒョッコリの祈りが通じている。


 そしてスタートからストップを押す。


 徐々に止まるスロット。

 やがて静止したのは…………白地に茶色い蜘蛛の絵。



(えっと、茶色い蜘蛛は……マッドスパイダー!? 微妙ノハシ!)



 相手が誰か分かったヒョッコリはすぐさま後方に下がる。

 確か今まで一度も出てきていない従魔。魔物の強さとしては銀級~金級程度だが決して弱くはない。運が悪くもないが良いとも言えない、そんな相手。

 頭の中でそう分析しながら、四人に声をかける。



「『ハの陣』!ハウルガストは糸に注意するノハシ!」

「「「「おう!」」」」



 ヒョッコリは最後尾につき指示を出す。

 【白の足跡】の基本陣形は四種類。『ハ』『ク』『ソ』『ウ』の陣がある。

 『ハの陣』はその中でもオーソドックスな攻撃型の布陣。特大剣の獅子獣人ハウルガストが敵前面を抑え、横と後ろから双剣の黒豹獣人ホロウバーツと狩人の大猿獣人ヘキサエッジが攻める。

 盾戦士のフロストンは最後尾のヒョッコリのみを守る事に専念。ヒョッコリは指示出しと魔法攻撃要員だ。


 ちなみにこの四つの陣形を覚えさせる事だけでも相当の苦労があり、ヒョッコリ的には涙なしには語れない。細かく指示を出したところで理解できない四人なので、四つだけを覚えさせたのだ。

 「敵がこういう攻撃をするからここに注意してこう攻めろ」などと言っても「ん?つまりどういう事だ?」となる。超感覚派に理屈は無用なのだ。



 そうして【白の足跡】が布陣を整えたところで転移の光からその従魔は現れた。

 体長二メートルほどの大きな蜘蛛。茶色のグラデーションは迷彩のように体表を覆っている。

 マッドスパイダーという沼地に生息する魔物。

 従魔としての名前は【ツチグモ】と言う。



「うおおおお!!!」



 現れたと同時に咆哮を上げ突貫するハウルガスト。

 ツチグモは驚くように後方へと飛び、ついでとばかりに口から糸を吐き出した。

 ヒョッコリは火属性魔法を使えない。糸を焼き切る事はできない。



「ふんっ!」



 しかしハウルガストは特大剣を糸に向かって振り回し、剣で絡め取った。

 斬れないと感覚で判断した。ならば身体について身動きが取れなくなるよりも剣で封じた方が良い。

 自然、ツチグモとハウルガストの持つ剣が糸で繋がれ、綱引きのような状態になる。


 ツチグモはその剣を糸で引き寄せ、相手から武器を奪うつもりだった。

 だが自分の糸を引き寄せても、ハウルガストはビクともせず、剣を手放さない。完全に力負けしている。

 いかにツチグモがビーツの従魔契約と訓練により強化されていても相手はアダマンタイト。特にハウルガスト相手では単純な力で敵う従魔も限られる。


 逆に糸でハウルガストに繋がれ動きの止まったツチグモは、その糸を切り離す暇も与えられず、ホロウバーツとヘキサエッジの猛攻を受け、その身体は光となった。結果を見れば【白の足跡】の圧勝である。



 後に残されたツチグモメダルを拾う。

 ……結局何もしなかったノハシ。と思うが、一応リーダーっぽくみんなを讃えておく。



 そして休憩をとる事もせず戦闘のあとで未だ興奮冷めやらぬといった状態の四人を引き連れたまま、五三階への階段を下りた。


 いつもの安全地帯。いつもの休憩スペース。

 そしていつもの立て看板を見る。



『五三階は″リドルの館″!

 秘密を暴いて脱出を目指そう!

 毎日微妙に変わるから楽しんでね!』



 それを見たヒョッコリにたらりと冷や汗が流れる。

 時が止まったように看板を見入ったまま、後ろから聞こえる四人の声が耳に入った。



「リドルってなんだ?」

「ミスリル級にそんなやついなかったっけ?」

「ああ、あいつか。いたなリドル」

「あいつダンジョンに住んでたのか」



 ……これは詰んだかもしれないノハシ。


 ちなみに獣王国王都の冒険者ギルドに居たミスリル級冒険者は『グリドル』と言う。





■百鬼夜行従魔辞典

■従魔No.48 ツチグモ

 種族:マッドスパイダー

 所属:蛇軍

 名前の元ネタ:土蜘蛛

 備考:沼地の上をすいすいと歩く巨大蜘蛛。

    身体は沼地仕様の迷彩といった感じ。

    沼に潜って奇襲する事も可能。

    決して弱くはないがうっかり屋さん。



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