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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第九章 ダンジョンアタック
143/170

142:ある日、五二階層の探索風景



 時は少し巻き戻り、【覇道の方陣】がエドワーズとの会談を始めた頃。

 五二階層″巡礼諸島″。



「ここもハズレかな……」



 二〇人パーティー【天馬の翼】を率いる狩人のラファエルが祠の看板を見てそう呟く。

 看板には他の島々を同様、『~を奉納すれば海面を歩く祝福を~』といった文面があった。

 奉納し、祝福を受け、島を渡る。その繰り返しだ。

 一向にボス部屋に辿り着けない。

 どこかの島にボス部屋への扉があるか、看板の内容が『~したらボス部屋へ行ける』といった文言に変わるのでは?という期待を持って延々と探索していたが、今のところ進展はない。


 二〇人もの大所帯が揃ってげんなりした顔になる。

 と、そこへ近づく別パーティーがあった。



「あら、【天馬の翼】じゃない。あなたたちも来てたのね」

「ああ、ティルレインか。【紅の双剣】も同じ島とは珍しい事もあるもんだ」



 【紅の双剣】の先頭に立つリーダーのティルレインがラファエルに話しかけた。

 彼らは所属国も違うが、五〇階層″暗黒迷宮″の地図作成にあたり協力しあった経緯もあって気軽に話せる間柄だ。別に仲良しというわけではないが敵ではない。



「他はさんざん見て回ったからね。その様子だとここもダメか」

「だろうね。まだ奉納はしてないけど」

「あー参ったわね。もう残ってる島なんてほとんどないでしょ。【天馬の翼】がこんなエリアの端っこの島に来てるくらいだから、そっちも回り切った感じ?」

「大体ね。まぁおかげで懐は潤うんだけど」



 この″巡礼諸島″は魔物のドロップや植生アイテムを採取して奉納していくエリアだ。

 当然アイテム入手率が他の階層とは一線を画す。

 特にここ最近″暗黒迷宮″″宝運びの山道″とろくに探索できないエリアが続き、罠で死亡する確率も高まった事で、高ランク冒険者である彼らも地味に金欠であった。

 そこへ来て″巡礼諸島″の長期間探索というのは金策的には嬉しい。


 ……まぁ一方で出口の見えない中で延々と探索というのも苦痛なのだが。



「何か見落としてるのかしらね……」

「と言っても唯一怪しい祠も、どれもこれも『海面を歩く祝福』…………ん?……まさか!」



 そこでハッとして顔をあげたラファエル。ティルレインを始め周りの皆が注目する。



「……ひょっとしてボス部屋は島じゃないのか?」

「島じゃないって……ここは島を巡るエリアでしょう?島以外にないじゃない」

「海だよ、海!『海面を歩く祝福』を貰って俺たちは海を急いで渡っただけだ!海中はろくに見ていない!」

「あっ!」



 ボス部屋は海中にあるのでは。海面を歩く祝福は島を渡るだけのものではなく、海中にあるボス部屋を探せという意図があるのではないか。

 そのラファエルの気付きは【天馬の翼】と【紅の双剣】にとってまさに青天の霹靂だった。


 すぐにその場で二パーティーによる共同戦線が組まれた。

 海中を探すには祠でアイテムを奉納し祝福を受ける必要がある。

 彼らは二手に分かれ、アイテム採取を始めた。





 その頃、五二階層に転移してきたのは獣王国のアダマンタイト級パーティー【白の足跡】。

 これでこのエリアも三回目の探索となる。



「んじゃホコレナ草を回収しつつ祠に向かうノハシ」

「「「「おお!」」」」



 小さなリーダーの気の抜けたような指示に巨躯の四人が揃って気合の咆哮を上げた。

 いつもの彼らの光景である。


 最初の島の奉納品はホコレナ草。低~中ランク冒険者の金策御用達とも言える採取アイテムである。

 ここではある程度広い範囲での植生をしており、地上よりも早いサイクルで芽が出る為、奉納に必要な一〇本と金策用に少々余分に取るだけならば、そうそう狩り尽すという心配はない。


 とは言え探索者が多くなれば金策目当てで余計に狩る人間も出るだろう。

 それを危惧するのがモニターで注目されている高ランク探索者たちの宿命とも言える。

 余計に狩っている場面がモニター放映されれば非難は必至なのだから。



「……というわけで余計にとっちゃダメノハシ。もし全部とっちゃったら次にここに来た人たちが奉納する物がなくなっちゃうノハシ。島を渡れなくなるノハシ」


「「「「おおっ!さすがリーダー!」」」」



 ヒョッコリは至極当たり前の事を言っているが、それは盲点だった!さすがリーダーは目の付け所が違う!とでも言うように巨躯の四人は盛り上がった。

 ……ちなみに同じことを説明するのは二度目である。


 四人は祠の前に立つヒョッコリを囲んでぐるぐると周りながら踊り始めた。

 リーダー!リーダー!リーダー!と。

 小さな祠と小さな少女の周りを踊りながら囲み回る巨躯の四人。

 まさしく生贄の儀式である。


 やめろ、落ち着けと宥めるヒョッコリを余所にしばらくテンションの上がっていた四人だったが、その内の一人、盾戦士のフロストンが「ん?」と踊りを止め、立ち止まった。合わせるように三人も止まる。



「やっと止まったノハシ……」

「リーダー、祠の裏になにかあるぞ」

「ん?」



 岩壁の前にある小さな祠。岩壁と祠の間は一メートルほどの隙間があった。

 彼らはその隙間を通り、ぐるぐると回っていたのだが、そこから見えた祠の裏側に何かあるとフロストンは言う。

 どれどれ、とヒョッコリは小さな身体で岩壁との隙間に難なく潜り込んだ。


 そこには文章が刻まれ、カード大の小さなパネルがはめ込まれていた。



『五つの島で奉納を済ませカードをかざせ

 閉ざされた道が開けるだろう』



「こ、これはまさか……!」

「どうしたリーダー!何か分かったのか!」



 祠の裏側に刻まれた文章を読み、握り拳で顔を上げるヒョッコリ。

 彼女は四人を見回して言った。



「隠し通路があるっぽいノハシ!隠し宝箱もあるかもしれないノハシ!」

「「「「おおっ!」」」」

「まだ誰も気づいてないはずノハシ!私たちが一番最初にゲットするノハシ!」

「「「「おおおっ!」」」」

「急いで五か所の奉納を済ませるノハシ!近場の島に行くノハシ!」

「「「「おおおおっ!」」」」



 ダッシュ!ダッシュ!その日のうちに五か所の奉納を済ませた【白の足跡】。

 うきうきしながら祠の裏側のパネルにダンジョンカードをかざすと、背後の岩壁がゴゴゴと割れ、通路が現れた。


 テンションマックスのまま踏み入れる一行。

 そしてすぐに見えたのは……今までに何度も見て来たボス部屋への扉だった。


 た、宝じゃなかったノハシ……。


 ヒョッコリのテンションはだだ下がりだったと言う。




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