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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第九章 ダンジョンアタック
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140:続・最強との会談・後編



 ビーツが頭を抱えエドワーズが閉目する隣で、発言を控えていたアレクが口を開いた。



「グラディウス殿、その兵はダンジョンに潜り、未だ帰還していない……という事ですね?」


「ええ、ただしいつ頃潜ってどのくらいの時間、報告がないのかは分かりません」



 グラディウスはアレクにも敬語で話した。

 この場ではアレクは宮廷魔導士長として席についており、それを考慮した結果だ。



「……もし長期間に渡り報告がなかった場合、皇帝陛下はどう動かれますか?」


「……おそらく我々に探索依頼を出すのでは、と」


「やはり……」



 だろうな、とアレクは思った。

 帝国の精鋭たる兵が揃って未帰還となればそれ以上の戦力で探るしかない。

 皇帝の持ち駒で言えば、それは【覇道の方陣】以外ありえないだろうと。

 そしてそうなれば、結末は一つだ。



「グラディウス殿、失礼を承知で申し上げます。私は【覇道の方陣】が世界トップレベルの実力者であり、仮に有名なダンジョンであっても走破する実力があり、仮にかのダンジョンマスターがかつての『十魔将』クラスの魔族であっても打倒する事が可能なパーティーであると思っています」



 グラディウスを見るアレクの目からはお世辞を言っている雰囲気はない。本心だ。

 ビーツの従魔を抜きに考えれば【魔獣の聖刀(じぶんたち)】より優れたパーティー。世界最強を名乗れるパーティーの一つだと思っている。

 【覇道の方陣】の面々もおべっかを使われているわけではないと理解している。

 神妙な顔つきでアレクの話しに耳を傾けた。



「その上で申し上げます。―――確、実、に、死にます」


『!?』



 冗談で言ってるわけではない。大げさに注意しているわけではない。

 アレクの雰囲気からそう感じた。

 だとすれば分からない。

 いかに難関なダンジョンであれ、いかに強い魔族であれ、自分たちであれば……と思っていた所もあるのだ。


 若干の困惑を見せる【覇道の方陣】を余所にアレクは続けた。



「もうお聞きかもしれませんが、先日ビーツは【三大妖】と共に【奈落の祭壇】を制覇しました」



 グラディウスが頷く。その情報はすでに仕入れている。



「探索開始から地下三〇階層制覇までに掛かった日数は……二日です」


『!?』



 【覇道の方陣】五人の目が見開かれ、その視線はビーツへと流れた。

 どれくらいの期間……というのは知らなかった。ドラゴン騒動の方がインパクトが大きかった為、話しに上らなかったというのもある。

 しかし冒険者内で超有名ダンジョンである【奈落の祭壇】を二日で制覇というのはとても考えられない速度だ。

 相対した事で【三大妖】の強さは感じている。過大評価という程に自分たちの中では絶対強者だと思っている。

 ……が、それでも尚、過少評価なのではないか?考えている以上に強い存在なのではないか?

 でなければ【奈落の祭壇】を二日で制覇などどう考えてもありえない。


 ビーツの後ろに立つタマモとシュテンは「ふふん」とドヤ顔している。

 グラディウスらは「お前らマジかよ」という目で二人を見た。



「で、それを踏まえてビーツ。お前と【三大妖】でその魔族のダンジョンに潜ったとしてどうなる?」


「確実に死ぬね」


『!?』



 さらにグラディウスらは驚愕した。

 事もなげにそう言ったのだ。自分たちの想像を絶する強者たちを従えたビーツが、当たり前のように「死ぬ」と。

 それは「考えるまでもない」「死ぬ以外にありえない」と言っているようにも聞こえた。



「ほ、ほんとか……?」



 思わず繕った言葉を無くしたグラディウスがビーツを見る。

 相変わらず飄々とした感じでビーツは話し始めた。



「えっと、何て説明したらいいか……うちもそうですけど、有名なダンジョンって理由があって探索者の皆さんを生かしてるんですよ。なるべく生かして帰してあげたいだとか、なるべく深くまで探索させてあげたいだとか。まぁうちの場合は極端なんですけど、アハハ」



 そう言って頭を掻くが、笑っている場合ではない。

 そうエドワーズもアレクも【覇道の方陣】も心の中で突っ込んでいた。



「でもその魔族のダンジョンはそういった考えがないわけで……例えば探索してて、スイッチもなしに急に足元に転移トラップが出てきたら逃げられないですよね?で、転移で飛ばされた先が水で埋まった部屋だったら?扉はあっても開けられない工夫がしてあったら?確実に死にますよね」


「……あぁ」


「他にもフロア全体を落とし穴にして逃げられなくしてもいいですし、つまりダンジョンマスターが探索者を殺そうと思えば、いくらでも方法があるんです。それは【三大妖】みたいにいくら強くても関係ないんです。強さとか種族とか関係なしに、殺そうと思えば殺せるんですよ」


「……それはダンジョンマスターであるお前がドラゴンを含めた従魔百体で挑んでも、か?」


「変わりません。確実に死にます。というか、僕がその魔族のダンジョンマスターだったら確実に殺せます」


「はぁ……」



 聞いてはいけない事を聞いた。聞くんじゃなかった。そんな気持ちが【覇道の方陣】の頭を巡る。

 これを聞いて「皇帝陛下の依頼だから俺たちがダンジョンマスター討伐に行くぜ!」などという気持ちになれるわけがない。

 無駄死が決まっている″死の行軍″になる。


 頭を抱える【覇道の方陣】に憐れんだ目を向けるエドワーズとアレク。

 なんと言葉をかけたものか。

 そう思っている所に、ビーツがさらに話し始めた。



「えっと、それでも皇帝陛下はその魔族を討伐するのを諦めませんよね?」


「…………多分な」


「で、王国としては皇帝陛下に無駄な派兵をやめさせて、出来れば王国側でもダンジョンの対処をしたい、借りを返したいと」


「まぁ出来れば、だがな」



 ビーツの問いにグラディウスとエドワーズが答えた。

 自国で何とか処理したい帝国と、関与したい王国。

 二国の間で思惑が絡み合う会談の最後、ビーツはこう言った。



「えっと、皇帝陛下がアダマンタイト級冒険者のビーツ・ボーエン個人に依頼するってのはどうです?」


『……は?』



 応接室は無音になった。




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