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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第九章 ダンジョンアタック
139/170

138:【黒竜旅団】vs五二階層



 一方、ここは五二階層″巡礼諸島″。

 現在、最前線となっている階層で、【天馬の翼】が初到達してから一月近くとなった今、十のパーティーが挑戦し続けていた。



『五二階は″巡礼諸島″!

 島々を巡ってゴールを目指してね!

 海の魔物に注意してね!』



「巡礼のぅ……」



 エリアへと続く扉の前にある看板を見て【黒竜旅団】の【剣聖】ローランドが呟く。

 すでに一度様子見で入った扉ではあるものの、本格的な探索は今日が初日。

 気負う事なく、五人ともわくわくした気分でエリアへと入った。


 南国。

 そう思わせる青い空と青い海、白い砂浜。潮騒のザザーッという音が心地よい。

 右を見れば熱帯林のような島の木々。

 左を見れば海の先に点々としたいくつかの小島が見えた。



「島々を巡る……でしたかな。あの看板は」

「だね。問題はどの島が正解か、なんだけど」

「突破したパーティーがまだ居ないですからね~」



 ラストーダ、ルーベンス、レスティアが口々に言う。

 出発点となっている小島からは今見えている島々だけでなく、ぐるりといくつもの島が並んでいる。

 それらの島々を辿った先にゴール……ボス部屋があるのだろうが、最初の段階で選択肢となる島が多いのだ。

 どの島が正解なのか。それともどの島を辿ってもゴールは一つなのか。それは未だに判明していない。



「とりあえず海岸線を一周して行けそうな島をチェックしてから『祠』を探そうかのぅ」



 幸いにして先駆者により島を渡る方法は確立されている。


 三〇階層に″干潮の浜辺″というエリアがあり、そこは干潮の時間帯になると島を繋ぐ砂の道が出来る、俗に言う『トンボロ現象』を利用した島と海のエリアだった。

 当初、ここに到達したパーティーも同じように長時間砂浜をうろついてみたがトンボロ現象は見られない。という事は泳ぐか、船でも造って進めと言うのか……。

 考えはまとまらず、仕方なしに島内の熱帯林を散策した。


 そこで見つかったのは岩壁の前にある、苔むして朽ちそうな小さな『祠』。その前には台座がある。

 そして雰囲気をぶち壊す立て看板。

 見つけたパーティーは苦笑いで何とも言えない表情をしていたと言う。


 看板にはこう書かれていた。



『ホコレナ草を一〇本、祠に奉納しカードをかざせ

 海面を歩く祝福が授けられるだろう』



 そのパーティーは熱帯林を散策している中で魔力回復薬の原料となるホコレナ草の群生地があったので、小遣い稼ぎとばかりにいくつか採取していた。

 祝福とはいかなるものか、まずは試しとホコレナ草を一〇本、祠の台座に乗せる。

 台座の隣に五一階層の水晶置き場で見たようなパネルらしきものがあったので、そこにダンジョンカードをかざすと、台座のホコレナ草は消え、パネルにはパーティー名と砂時計が表示された。


 つまりはホコレナ草の奉納を終え、今は祝福がかけられている状態。

 これで海の上を歩く事が出来るならば、祝福がかかっている制限時間内に次の島に辿り着けという事だろう。

 そして実際、海の上を歩ける事が判明する。

 さらに、その制限時間が一時間だと言う事もその後の調査で判明した。


 このエリアは祠への奉納……つまりアイテム収集と、一時間以内に辿り着ける島の選定を繰り返すエリアなのだ。

 島の祠によって奉納品は異なるが、それは今のところ大した問題ではない。

 問題は一時間という多すぎる(・・・・)時間によって選べる島が増えすぎる事。


 祠から砂浜までダッシュし、そこから海を渡る。

 仮に魔物と戦闘せずに走り続けようものならば、近くの島々をスルーし、一気に遠くの島に行く事も可能だ。

 だからこそゴールの見えないルート選定が難しい。

 【黒竜旅団】も頭を悩ませているのはそこである。



「ホコレナ草は見つけた時に採っておく」

「だね。でもあれだね、こうして見てると一時間で行けそうな島なんてホント多いね」

「近場から順に攻めるか、一気に距離を稼ぐか……ですかな」



 ローランドに続いて歩くリーシュ、ルーベンス、ラストーダが口にする。

 海の方を見れば確かに候補となる島が多すぎる。

 歩きながら振り返ったローランドが続けた。



「距離を稼ぐのならば海の魔物と戦う機会が多くなるじゃろ。出来るのならこの期に戦っておきたいところじゃが……あまり海の上に居るとあの何とかフィッシュってのが出るんじゃろ?」


「タイラントフィッシュの【イソナデ】ですね~。このエリアの″徘徊ボス″」


「そうそれ。別に戦うのはいいんじゃが、万一時間切れとかなるとのぅ……」


「溺死はつらい」



 レスティアの結論に四人ともうんうんと頷いた。

 傭兵である彼らは戦闘による傷や痛みに怖がることはない。死ぬほどの痛みや毒でさえ経験がある。

 しかし溺死はさすがに経験もなく、とてつもなく苦しいと聞く。

 いくら【黒竜旅団】の面々と言えども溺死は嫌なのだ。


 祝福が時間切れしても次の島まで泳げるのならば問題ない。

 が、泳げない距離だったら?泳いでいる最中に魔物が襲ってきたら?泳ぎながら戦えるのか?どれも不確定要素である。


 だから先を行くパーティーも近場の島から順に探索しているのだ。

 向かう方向は違えども、それぞれ辿り着いた島で祠への奉納に何が必要なのか、島の植生や魔物の種類などを調べ、独自の攻略情報をまとめている。



 【黒竜旅団】の面々も少ないながらも今現在出ているこの階層の情報を改めて頭の中に描いた。


 あくまでモニターで映される情報が今のところ頼りなのだが、祠への奉納品はその島内か周辺の海で採れるアイテムに限られている。

 別の島で植生されている植物を、別の島で奉納するといった事はなさそうだ。

 そしてそれは魔物のドロップアイテムが多く感じる。


 最初の島の『ホコレナ草』など植生アイテムよりも、トレントを倒して時々落とす『トレントの枝』や、波打ち際を泳ぐナイフフィッシュのドロップアイテム『刃の鱗』などなど。

 植生アイテムは植生場所を見つけるのが厄介だが、一度見つければまとめて手に入る。

 だがドロップアイテムは魔物を見つけて倒してもドロップ確率があるのだ。運が悪ければ奉納品を集めるのに非常に時間が掛かる。

 特に海棲魔物に関してはどうやって倒し、どうやってアイテムを回収しようかと頭を悩ませる。弓や魔法で倒しても海に沈むだけだ。

 釣ったほうが早いのでは?と釣り竿を持ち込むパーティーも居る。……実際、魔物が釣れるものなのか不明だが。

 まぁ基本的にはそういった『厄介な奉納品』を要求する島には行かないほうが無難という事だ。だからこそそれぞれパーティーで攻略情報をまとめている。



「ここは長引きそうじゃのぅ」



 ローランドは日差しに目を細めながら輝く海を見やった。





■百鬼夜行従魔辞典

■従魔No.70 イソナデ

 種族:タイラントフィッシュ

 所属:鬼軍

 名前の元ネタ:磯撫

 備考:体長5mの巨大魚。

    角の生えたワニの頭を持ったサメって感じ。

    従魔・海軍団の先兵的存在だがコロモのペット的存在でもある。



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