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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第九章 ダンジョンアタック
138/170

137:【不滅の大樹】vs五一階層



 ガコン―――パリン


「…………」



 パネルにダンジョンカードをかざすと、ログハウスの壁に開いた丸い穴から水晶が出て来た。……そのまま落ちて割れた。どうやらちゃんと受け取らないとダメらしい。

 無言で見合う五人。

 今一度マーグリッドがカードをかざし、今度は狩人のモルトコバーンがしっかりと受け止める。



「うおっ!けっこう重い!」

「えっ、あんなに簡単に割れたのに?」

「ほら、持ってみろよ」

「うん……うわっ、私の体重と変わらないかも……」



 直径一メートルほどのガラス玉のような球体。

 しかし割れた光景はガラスのようにひび割れや砕くといった感じではなく、泡のように一瞬で割れたのだ。パリンという実際の音は相応しくない。パンッという感じで割れた。

 だというのにそこそこ重い。

 なんとも不思議で矛盾した物体だと【不滅の大樹】の面々は思う。



「さてどうするか……」



 マーグリッドは顎に手を当て考える仕草をし、皆の意見を聞く。

 まず考えるのは、この水晶を″いくつ持って行くか″だ。

 クリアに必要なのは三つ。

 一度に三つ出して運んでも良し。一つずつ出して三往復しても良し。なんなら途中で割れる事を考慮して五つ持って行くのも手ではある。

 ただそうした場合、魔物出現時の対応が誰も出来ないので当然却下だ。


 この水晶が割れやすいというのは今までの探索をモニターで映した事で周知されている。

 水晶を抱えたまま小走りするくらいならば問題ない。だが振り回したり、ジャンプして着地したりするだけで簡単に割れる。水晶を持ちながら魔物と戦うなど以ての外だ。


 山道を行かず、崖を降りてショートカットするのも不可。降りた衝撃で割れる。

 以前に挑戦した別のパーティーが背負い籠と大量の布を持って来て、水晶を完全に梱包し、背負ったまま行こうとしたが、なぜだか割れた。崖でも山道でもだ。

 つまりは一人一つずつ抱えながら山道をえっちらおっちら下るしかない、というのが現状の唯一案であった。


 それを踏まえて、【不滅の大樹】はとりあえず三つ出す事に決めた。

 持つのはリーダーの双剣士【艶舞】マーグリッド、狩人の男性【蒼穹】モルトコバーン、魔法使いの女性【風水士】ミルトチーネの三人。

 魔物の対処は召喚士の女性【森ノ巫女】メルメリィと【輪導師】ムッツォに頼む。


 男性が三人だから男が持つべきなのだろうが、ムッツォは背が小さいので大きな水晶が持ちにくいのだ。代わりにミルトチーネが持つ事になる。

 ……もっとも仮にムッツォの背が大きくても四人は持たせなかっただろうが。





 【不滅の大樹】による五一階層の挑戦はモニターで映されていた。

 観客たちも彼らがどのように攻略するのか、気になるところではあるが、さすがに【不滅の大樹】と言えども一度目の挑戦で突破はありえないだろうと、声を張り上げての応援はない。

 ただ一部のマーグリッドファンが黄色い声を上げているだけだ。



『さあ、【不滅の大樹】が″宝運びの山道″を進み始めました。手に持つ水晶は三つ。ここからいかなる攻略を見せてくれるのか!期待が膨らみます!』


『さすがに一発クリアはないと思うがのぅ』



 実況のポポルを諫めるように今日の解説、ヌラが言う。



『いかに【不滅の大樹】と言えども、ですか。やはり五人パーティーで三つの水晶を一度に運ぶというのは困難という事ですか』


『そうとも言い切れんが安全に行くならば先駆者のやり方がベストじゃと思うぞ』


『先駆者……すでに突破している【天馬の翼】や【紅の双剣】、【聖戦の星屑】といったパーティーですか』


『もしくは【交差の氷雷】や【白の足跡】とかじゃな』



 五一階層を突破しているパーティーには二通りの攻略方法があった。


 一つは三つの水晶を同時に運び、護衛を増やすというもの。

 【天馬の翼】は二〇人パーティーなのでそれが容易く出来る。困難な魔物の対処も一七人も居れば戦うも守るも逃げるもやりやすい。

 一方で【紅の双剣】は単独パーティーでの突破を断念。【聖戦の星屑】と協力体制をとった。

 三つの水晶を残りの二人と別パーティーの五人が守るという構図だ。

 これを二回繰り返すことで両方のパーティーが突破した。

 このような協力体制を組むというのは五〇階層の″暗黒迷宮″で攻略情報を持ち寄る為に協力しあった経緯が大きい。あれがなければ他のパーティーとの共闘など考えなかっただろう。

 トップを走る探索者パーティー同士は敵ではないものの、仲良しこよしの間柄ではないのだ。そういった意味では今まで共闘したことのない″祭り組″がここへ来て共闘するというのは少し考えにくい。必然、単独パーティーでの挑戦が筋となる。


 そして二つ目の方法は、単独パーティーで水晶を複数回に分けて運ぶというものだ。

 水晶を持って下山し、また登山し、また下山……という流れになる。

 この場合鬼門になるのは『次の水晶を置くまで二時間』という時間制限。


 ダンジョンカードをかざす事で出た水晶を麓の水晶置き場に置くとパーティー名と残り時間がパネルに表示される。

 水晶を出した際のカードの情報を記録しているのだ。

 これにより『とあるパーティーが別のパーティーの為に水晶を持ってくる』というのを防いでいる。持ち出しも納品も同じパーティーでなければならないという事だ。



 単純に山道を通り、登山して下山する……というのを二時間でやろうと思えば可能だ。

 しかし問題は道中で次々に襲って来る魔物がなぜだか(・・・・)水晶を狙って来るという事。

 空から強襲する鳥系魔物、森から群れて来る虫系魔物、猿の魔物は木の隙間から石礫を投げて来る。

 それを防ぎ、避けながら、そして水晶を守りながら二時間以内に下山するのだ。なんとか一度で三つ運ぼうとした【紅の双剣】たちの苦悩も分かる。



『おまけに″徘徊ボス″が……ブライトイーグルのバサンですからね』


『まぁあやつは居る時と居ない時があるからのぅ。階段で警備している時ならば狙い目じゃが今日は警備についとらん。ま、だからと言って確実に五一階層に居るとも限らんからの』


『ヌラさんは居るか居ないか分かるんですよね』


『分かるが言わんぞ?ネタバレは禁止されておる』



 山道を下りきろうかという所で、バサンの縄張りがあるのだ。これもこの階層を困難たらしめている要因の一つ。

 ブライトイーグルは全長二メートル、翼を広げれば四メートルにもなる巨鳥。銀級上位か金級冒険者の討伐対象であり、当然ながらバサンは通常のブライトイーグルよりも強い。

 五〇階層で初登場した″徘徊ボス″がメタルイーターだったのに、五一階層ではいきなり従魔の【百鬼夜行】がお目見えした。当時の観客たちは騒然としたものだ。


 ちなみに実はこの階層には二体目の″徘徊ボス″としてバグリッパーのショーラが巣くっている。

 山道を通らず崖を降りるショートカットを使おうとするとショーラの縄張りとなるのだ。

 今のところ水晶を持ちながら崖を降りたパーティーが居ないのでショーラの出番はないのだが、ヌラは【不滅の大樹】ならばもしかして……と考えていた。



 ″宝運びの山道″の一番楽な攻略方法は崖を下り、森を突っ切る事。

 ショーラの居る森を突っ切るにはそれなりの殲滅力が必要だが、それ以上に水晶を持ったまま崖を降りるには一工夫が必要。

 鍵となるのは風属性上位魔法の『エアフロート』か、魔道具『フロートボード』。

 要は水晶を誰かに持たせ、その者を浮かせるという事だ。水晶自体を浮かせた場合はなぜだか(・・・・)割れやすくなる。だから人が抱える事が前提だ。

 エアフロートは風魔法を使いこなせなければならないし、フロートボードを延々と使うには膨大な魔力量が必要。それこそアレクのような……。



(しかしこのパーティーならば出来そうじゃがな)



 ヌラの見るモニターには風と水属性魔法のエキスパート、【風水士】の異名を持つミルトチーネと、誰よりも魔法の才に溢れた少年のようなエルフの姿が映っていた。




不滅の大樹はマ行縛り。

マーグリッド、ミルトチーネ、ムッツォ、メルメリィ、モルトコバーン

二つ名は普通の冒険者っぽくバラバラですね。

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