136:五一階層への挑戦
「ったく、とんでもねぇ階層造りやがって。やっぱあの小僧、頭おかしいぜ」
悪態を吐きながらグラディウスは漆黒の闇を歩く。
地下五〇階層″暗黒迷宮″だ。
真っ暗で罠だらけ、おまけに入り組んだ階層だというのに照明の魔法が使えない。
松明は剣士のゲーニッヒと召喚士のギャラが持っていた。
「次は左側に寄れ。その後五歩で足元に糸だ」
「はぁ……ほんと正しいのかよ、その情報」
「今のところ正しいですけどね」
「よく調べたものね、ほんと頭が下がるわ」
五〇階の詳細地図など未だ発売されていない。そもそも突破者の誰もが脇道や抜け道などくまなく探索したわけではないのだ。
正解の順路が見つかれば、さっさと抜け出したいというのがこの階層である。
だから露店で売られる地図もかなり簡易的な地図(それでも最前線の為かなり高価)なのだ。
情報の収集は怠らない最上位冒険者である【覇道の方陣】ももちろん買った。
それに加え、実際に突破したパーティーにさらに高額な料金を払い、攻略情報を手に入れた。
アダマンタイト級である彼らが金を惜しむ事はない。
売った方にしても【覇道の方陣】に頼られるというのは格別だ。
そんなわけで狩人のゴルウェイは情報を写したメモを見ながら斥候を続けていた。
「そろそろシャドウパイソンとジャイアントバットが襲って来るらしい。グラディウス、ガーネット警戒しろ」
「あいよ」「はいっ」
ゲーニッヒとギャラが松明係なので、迎撃は基本的にグラディウスと魔法使いのガーネットとなる。
群れで襲って来るらしいが、この二人ならば問題ないだろう。
「この先の蜘蛛の巣ゾーンから結構道が分かれているらしい。どうする?探索するか?」
【覇道の方陣】はこれまで四九階層全てをほぼ正規ルートのみで来ている。
宝箱や採取アイテムがあっても特に必要とは思えなかった為だ。
これが金級やミスリル級であれば嬉しいお宝なのだが、アダマンタイト級である彼らにとっては回り道をしてまで取りに行きたいアイテムとは感じられなかった。
前者が魔力回復薬の使用を躊躇するのに対し、後者は気兼ねなく使う。つまりはそういう事だ。金も武器もアイテムも、アダマンタイト級というのはその価値観に一線を画す。
「この階層の宝箱は何が出たって?」
「うーんと、めぼしいのは……白鋼の防具くらいか。あとは金とか消費アイテム」
「せめてミスリルならねぇ」
「パスだな。さっさと抜けるぞ」
グラディウスは正規ルートを選択。
分かっている順路を通り、最低限の罠と魔物を対処する事に決めた。
「メタルイーターはどうする?」
ゲーニッヒから声が上がる。
五〇階層から追加された要素″徘徊ボス″のことだ。
スルー推奨とされる″徘徊ボス″だが、メタルイーターは災害級の魔物というわけではない。現に先を行く″祭り組″にも倒されたという情報が入っている。
「あー、邪魔なら倒す。邪魔じゃなければスルーだな」
グラディウスは気負う事もなくそう答えた。
【覇道の方陣】であれば苦戦しないレベルだという事だ。だからと言って一撃で倒せる魔物でもないわけだが。
♦
一足先に五一階層に着いた【不滅の大樹】は安全地帯からエリアへと続く扉の前。
看板を見ながら思案する。
五〇階層から急激に難易度が上がった。まさに【百鬼夜行】の本番が始まったと言っていいだろう。
だからこそこの五一階層も油断できないと感じていた。
『五一階は″宝運びの山道″!
入口にある水晶を三つ麓まで運んでね!
詳しくは入ってすぐの水晶置き場を見てね!』
「宝運びねぇ……」
五一階層の情報はすでに得ている。厄介な階層だという事も分かっている。
だというのに相変わらず呑気な看板だと、マーグリッドは苦笑した。
特に意気込むでもなく扉を開け、足を踏み入れる。入口に魔物や罠がない事はすでに承知していた。
見渡す風景はまさに山頂から一望する自然のそれ。
澄み切った青空と中腹から麓にかけて広がる森。
今立っている山頂付近は森林限界を現しているのか、背の低い木か草しか生えていない。
崖のような急斜面を下ったところから森林となっている。
その斜面をジグザグに進むように正面には山道が見える。
『いろは坂』というよりは『箱根登山鉄道』と言ったほうが良いだろうか。斜面を右へ左へ進みながら徐々に下りる山道だ。
道幅も五メートルほどと申し分ない。
扉のすぐ横にはログハウスのような建物があり、そこが『水晶置き場』なのだろうと近づく。建物に扉はない。入れない建物。
あるのは毎度おなじみの立て看板と、建物の壁に開いた丸い穴。穴の隣には従魔戦の時のようなパネルが付いている。
「これだね」
マーグリッドを先頭に看板へと近づいた。
そこにはこの階層の攻略手順が書かれていた。
―――――
一、水晶置き場の壁にあるパネルにダンジョンカードをかざしましょう。
二、すると水晶が出て来ます。壊れやすいので注意しましょう。
三、それを持って麓まで行きましょう。
四、ボス部屋の隣に水晶置き場があります。そこに水晶を置きます。
五、三つの水晶を麓まで運べばボス部屋への扉が開きます。
六、水晶を置いてから次の水晶を置くまで大きな時計で一回分(二時間)の猶予があります。
―――――
「面白い趣向じゃのう」
「そうかい?僕としては難関に思えるけどね」
楽し気に笑うムッツォと苦笑いのマーグリッド。
確かにギミックのようなイベントを盛り込んだ階層という点では観客的には面白いだろう。
しかし探索者からすればマーグリッドの意見が正しい。
宝を三つ運んで「はい終わり」と行くわけがないのだ。ここは地下五一階層。簡単にいくはずがない。
「とりあえず今日は様子見のつもりで行くよ。無理に突破は考えない。この階層は実際に体験しないと分からない事が多いらしいからね」
「「「「了解」」」」
そう言ってマーグリッドはパネルにダンジョンカードを近づけた。
投稿ペースを少し落とします。
週に2~3本を目安とさせて下さい。
代わりと言っちゃなんですが新作を投稿開始しました。
【百鬼夜行】とは書き方が全然違うのでアレですが、気になる方はどうぞ。
ぽいぞなぁ ~言いたいことも言えないこんな異世界じゃ~
https://ncode.syosetu.com/n4829gc/
 




