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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第九章 ダンジョンアタック
136/170

135:ミーハー大作戦・完結



「…………なんか用か?」



 貴族区にほど近い北区、最高級の宿屋の一室。

 入口の扉を少し開け、顔を出したフェリクスは訝し気に問いかけた。招き入れる気も自ら出る気も感じられない。


 扉の外に居るのは二人の侍女。うち一人はよく知った顔だ。

 と言うか、ここに向かってきているのはデイドが感知していたから、分かった上でこのような態度をとっているわけである。

 俺の昼寝の邪魔すんじゃねえ、と。



「ご主人様からの依頼です」



 ホーキはそれだけ言うとニコリと微笑む。さっさと通しなさいという無言の圧力だ。

 フェリクスは溜息を一つつくと、大人しく扉を開けた。

 ホーキに続いてマールも「し、失礼します」と入る。



「うわっ!」



 マールとフェリクスは初対面。当然デイドも初対面だ。

 挨拶でもするようにノソノソとホーキに近づくデイドにマールは驚いた。

 まさか宿屋の一室に魔物が居るなんて普通は思わない。



「デイド、久しぶりですね」

「がう」

「ええ、こちらはマールです。管理層で共に働いています。よろしくお願いしますね」

「マールです!よろしくお願いします!」

「がう」


「……なんで家主より先に従魔(デイド)に挨拶してるんだよ」



 そんなフェリクスの呟きを無視しながら、ホーキはソファーへと腰を下ろし、デイドとの会話を継続していた。

 マールはフェリクスとデイドとホーキを交互に見ながら、恐縮しっぱなしでホーキの隣に座る。



「で?どうしたんだよ、わざわざ」

「ええ、サインと手形を貰いに来ました」

「……意味が分からん」



 今、ダンジョン【百鬼夜行】に来たアダマンタイト級冒険者や有力者にサインと手形を貰って、それをホールに飾ろうとしている。それで、以前【混沌の饗宴】として挑んだフェリクスにも貰おうとこうしてやって来た。

 という説明をホーキは淡々と行った。



「はぁ……で、アレクとデュークのとこにも寄って来たと?」

「ええ、後は貴方で最後ですね」

「クローディアは?」

「とっくに……というか一番最初がクローディアです。ご主人様とクローディアの話しが盛り上がって出た計画ですので」

「あいつはホントろくな事しないな」



 ダンジョン【百鬼夜行】で何かしらの盛り上がりがあった場合、クローディアが絡んでいる確率が非常に高い。

 それは観客や探索者に対するサービス精神でもあるのだが、どうも自らが楽しみたいだけのような気がする。

 ……というフェリクスの考えは間違いなく正しい。貴族よ仕事しろ。



「ビーツは?」

「ご主人様はご自分が探索者ではなくダンジョンマスターなので飾るのは違うだろうと」

「プレオープンの時にあいつら四人で潜っただろ。三人がサイン飾るのにビーツだけ飾らないってのもなぁ」

「私もご主人様の手形を飾るのは賛成なのですが、どうにもお恥ずかしいらしく……」

「あー……んじゃこうしよう」





「ただいま戻りました、ご主人様」

「ただいま戻りました!」

「おかえり、ホーキ、マール。どう?久しぶりの外は楽しめた?」

「はいっ!」



 管理層に戻ったホーキとマールはビーツへの帰還報告を行った。

 ビーツとしてはマール初めての外出という事で少し不安もあったが、どうやら杞憂だったらしい。

 最初に来た時はふらふらで今にも死にそうな状態。景色も何も見る元気がなかった。

 実質、今日が初めて王都を眺める機会である。

 人の多さ、店の華やかさ、建物の大きさ、王城の素晴らしさ。マールは目にしたものを言葉に並べ、感動したとビーツに語った。



「それは何よりだよ。また今度出歩く機会もあると思うからその時はよろしくね」

「はいっ!」

「で、ホーキ。成果は?」

「三人分、無事に集まりました」

「おお!」



 アレクもデュークも協力してくれるとは思っていたが、フェリクスの分も貰えたというのはビーツにとって僥倖だ。

 めんどくさいからパス、とか言いそうな人だし。



「ただフェリクス殿から条件がありまして」

「条件?」

「ご主人様のサインと手形を一番目立つところに飾る事、と」

「はあっ!?」

「パーティーメンバーのクローディア、アレク、デュークが飾られるのに、同じアダマンタイトのご主人様が飾られないのはおかしい、と」

「いやそれはだって……」

「これが認められない場合、私からご主人様にフェリクス殿のサインと手形を渡す事を禁じられております。その場合は破棄するように、と」

「うそぉ!?」



 フェリクスとホーキの思惑が一致した結果である。

 元より、従魔たちは皆、ビーツのサインと手形が飾られるべきと考えていた。アダマンタイトが名を連ねているのに、強者が名を連ねているのに、我らが主が並ばないのはおかしい。むしろ彼らより上に飾るべきだ。という念話が従魔間で議論されていた。

 フェリクスの条件は渡りに船であったわけだ。


 かくしてビーツも諦めたように自分の色紙を作った。

 なぜ自分の家に自分のサイン色紙を飾らないといけないのか……自問自答を繰り返していた。





「こんな感じでいっかな」



 色紙の総数は三〇枚を越えた。

 従魔たちやギルド職員、見物人の冒険者たちもあーだこーだと意見を出し、なんとか全てを飾り終えた。

 上下に並べて優劣をつけるのは嫌だったので、全て横並びだ。

 当初はホールの横壁にでも飾るつもりだったが、酔っぱらった冒険者が何かすると困るので屋敷入口の扉側の壁にずらっと並べた。

 フェリクスの条件もあったので、扉の真上、ど真ん中にビーツら【魔獣の聖刀】が飾ってある。


 「おー!」と冒険者たちの歓声と拍手が沸き上がる。

 飾り終えたそばから、近寄って手形の大きさを自分と比べる冒険者も居る。

 ここにはダンジョン【百鬼夜行】に挑戦した歴々のアダマンタイト級の痕跡が残るという事だ。これも大きな目玉になるだろう。まぁ中には冒険者ではない者やミスリル級も一名ほど居るが……。


 周りからの反応も上々。

 ビーツは満足気にうんうんと頷いた。




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