132:【黒竜旅団】vs四九階層
「おかしいと思ったんじゃ。せっかく大通りで来たのに噂のゴブリン騎士団もゴブリンキングの本陣も居ないと来た。おぬしが殺ったのか」
「いや、わしは付き添いじゃよ。今さっき【白の足跡】がボス部屋に入ったとこじゃ」
正面から王城前広場へ悠々と歩いてきた【黒竜旅団】。先頭のローランドがベン爺へと話しかけた。
かたや獣王国の先代獣王。未だ獣王国の最大戦力と称される武力を身に着けた巨躯の白虎獣人。
かたや傭兵の国ロザリアの現・武王。″世界最強の剣豪″と称される小柄な老人。
共に国のトップであり、共に七〇歳近い年齢。
お互いが有名人の為、名前も風貌も知っていたが会うのは初めてである。
「【白の足跡】……ああ、獣王国の。てことはボス部屋もすぐには入れんのか。暇じゃのう……あ、どうじゃ?【白爪】。待ち時間で儂と遊ばんか?」
「あっ!ずるいですぞ陛下!このラストーダも【白爪】殿と戦いたいですぞ!」
「黙ってろ筋肉バカ!武王!僕も戦いたい!」
「ルーベンスも五月蠅い。戦うの私。是非」
「えーっと、じゃあ順番にしませんか~?」
「……いやお前ら全員却下。儂が切り出したんじゃから儂に優先権あるじゃろ」
「「「「えぇ~?」」」」
目の前で次々と戦う事への意思表示をしてくる五人にさすがのベン爺もちょっと引いた。
ベン爺も好戦的なタイプだし、強者との戦いに惹かれる所はある。
しかし『武を競いたい』とか『修練の成果を出したい』とかではなく『斬りたい』とか『殺したい』と言っているように聞こえるのだ。
冒険者と傭兵の違いか……いや、ロザリアのトップの連中がおかしいだけか。
ロザリアが抱える各旅団の旅団長が揃ったこの【黒竜旅団】というパーティーが異常なのだとベン爺は考えを改めた。
「いや、わし戦わんけど」
「えぇ~?ゴブリン騎士団もゴブリンキングも戦えなかったのに【白爪】とも戦えんのか!従魔戦も強い従魔が出る確率低そうじゃし……」
シュン、としょんぼりするローランド。小柄な老人が益々小さく見える。
「また四九階層に遊びに来たらいいじゃろう?わしみたいに。そうすりゃ少なくともゴブリンキングとは戦えるわい。それにどうせ五〇階以降は今までのようにすんなり通過も出来ないじゃろうしな」
「ふむ、そうか……」
四九階層まで順調に進んで来た″祭り組″の連中も五〇階″暗黒迷宮″以降は苦戦する。ベン爺はそう思っていた。
少なくとも一度目のチャレンジで突破できるような階層ではない。特に五〇階は。
『四九階までは初心者用、五〇階以降が本番』とは従魔の解説や五〇階の立て看板で知られている事だが、ベン爺もモニターで見る限りそう思う。難易度がいきなり上がるのだ。
だからこそ五〇階以降で足踏みする事があれば、たまには四九階に来てゴブリンキングとでも戦ったらどうだ?という事だ。
……ゴブリンキングからすれば堪ったものではないだろうが。
……いや実戦の訓練としては嬉しいのかもしれない。
そんな立ち話をしているうちにボス部屋へと続く扉に変化が見られた。
他のパーティーがボスと戦っていたり、ボスのリポップ待ちの状態だと、扉に赤いランプが点灯され、入室できないのだ。
これは【百鬼夜行】独特の仕様であり、他のダンジョンだと単純に入ろうとしても入れないだとかが多い。
その赤ランプが消えた。【白の足跡】が戦い終わったという事だ。
(結構、早かったのう。まぁやつらならば大丈夫じゃろうが)
特に心配する事もなく、ベン爺はボス部屋が開いた事をローランドに告げる。
すると彼らは気分を一新し、意気揚々とボス部屋へと向かって行った。
その後ろ姿を見るベン爺。
個人で強力な者たちを寄せ集めた【白の足跡】と【黒竜旅団】。
個人の武では圧倒的に【黒竜旅団】だろうが、傭兵団の彼らはパーティー戦闘とかけ離れている。
一方の【白の足跡】はベン爺が少し矯正したものの、リーダーたるヒョッコリが居て、パーティーの体を成していた。
(……面白い二組じゃな)
ベン爺はニヤリと笑って、そのままゴブリンキングのリポップを待った。
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『あーっと!【剣聖】ローランドの一閃っ!カマッチの姿が光と消えるーっ!』
『見事なもんだなぁ』
今日もモニター前の観客は満員御礼。
スリヴァーウィーセルのカマッチはそれこそ風のように縦横無尽に走り回り、斬撃を試みた。実際に手傷を負った【黒竜旅団】のメンバーも居る。
しかし【剣聖】ローランドの一閃は見事にカマッチの動きを捕らえ、一太刀で全てを終わらせた。
その様子に盛り上がり観客。そして実況のポポルと今日の解説役であるミノタウロスのギューキであった。
『なんという日でしょう!一日で″祭り組″の突破が三組!【交差の氷雷】【白の足跡】に続き【黒竜旅団】も五〇階層へと到達しました!』
『おまけにみんな大通り直進ルートだもんなぁ。まぁ【黒竜旅団】はゴブリン騎士団とか戦ってないけんど』
これからも″祭り組″が続々と突破者を出すだろう。観客は期待に胸ふくらむ。
現在の最高到達階層は五二階。
遠くないうちに彼らは追いつくだろう。そしてまだ見ぬ深層はどのような階層が待ち受けるのか、″祭り組″は突破するのか、それとも苦戦するのか。
観客たちの騒めきは当分収まりそうになかった。




