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127:ある日、最強との会談・後編



「――つまり皇帝陛下は臣下の貴族の誰かが今回のスタンピードを引き起こしたと?」


「そう考えているのでしょう」


「仮にその貴族が五万の魔物を操り帝都を襲撃しようとして、貴公らが抜けただけの帝都に意気揚々と(けしか)けるものか?ああ、別に貴公らを侮辱するつもりはない。いかにアダマンタイトとは言え五人で対処できる数も限られよう。それなのに【覇道の方陣】が抜けたタイミングだと言うだけで襲わせるものか……?」


「……今にして思えば先んじて手を打っていたのだと思います。それに加えて予想外の戦力不足もありました」



 グラディウスが話すには、前々から国や貴族領主の依頼で有力冒険者にダンジョン探索が命じられていたそうだ。もちろん【百鬼夜行】以外の各地のダンジョンである。

 目的はダンジョンコアの入手。

 ビーツによって広められたダンジョンコアの有用性に群がった貴族たちが冒険者たちにこぞって依頼した。

 これにより力のある高位冒険者は帝都を離れる事態となる。


 そこへドラゴン騒動が出て【百鬼夜行】の話しが再燃し、皇帝が最後まで懐に置いていた【覇道の方陣】までもが帝都を出た。


 予想外と言ったのは、まず帝都を襲ったスタンピードが王都のそれと違い、トロールなどの巨人種も含め、さらに鳥系の魔物まで居たことでより凶悪になっていた事。

 そして、傭兵の国ロザリアの傭兵団が使えなかった事。


 元々、魔族との戦争時には帝国の騎士団や冒険者の他、ロザリアの傭兵団も戦力に数えられていた。特に終戦時には傭兵団が戦力の四割を占めるほどまでに帝国では戦力として重要視されていたのだ。それほどまでに戦争で自国の戦力を失っていたとも言える。

 ところが戦争が終わり傭兵たちの大半はロザリアへと帰った。

 今回のスタンピードが突発的に起こったことで、戦力たる傭兵を呼ぶことも出来なかったのだ。


 さらに言えば、仮に呼べたとしても戦力として期待できなかっただろうとグラディウスは言う。

 なにせ王都に来てみればロザリアから武王と四人の旅団長が揃って【百鬼夜行】に挑むと言うのだから。これにはグラディウスも内心驚いたらしい。

 この五人が居ない傭兵団は文字通り頭の欠けた烏合の衆に過ぎない。数を揃えることは出来ても五万規模のスタンピードで対応出来たかと言われれば無理だろうとグラディウスは語る。



「なんかすみません……」



 とりあえずビーツは謝った。

 ダンジョンコアの情報を広めた事で欲深い貴族が動いた。

 おまけにオオタケマルの存在を公表した事でそれを加速させた。

 ついでにロザリアの【黒竜旅団】も呼び込んでしまった。


 ビーツは罪悪感に苛まれるが、それはエドワーズがフォローする。

 国と相談の上で公表をしたのだから当然である。


 そしてエドワーズは再びグラディウスに相談を始める。



「王国としてもスタンピードは人為的なものと考えている。そしてその襲撃犯をどうにかしたいと。何なら王都で起こったスタンピードから得た情報……我々の考える犯人像について教えた方が良いのかとも考えている」


「殿下!それは……」



 傍観していたアレクが慌てて止めた。

 犯人像について、王国の見解としては『ダンジョン関係者が絡んでいる』『強力な魅了の魔道具を作成し、その為に殺戮している』という予想だ。

 これを帝国側に話すとなると、ダンジョンの詳しい知識を教えるのも同じ。

 ダンジョンの仕組みとダンジョンマスターへの対処の仕方を教える事になるのだ。


 それによりビーツが困る事にはならないだろうが、他のダンジョンへの被害は甚大なものとなる。

 それこそダンジョンコアを求める権力者が知識と対処方法を以ってどこぞのダンジョンマスターを狙う……というのは十分に考えられる。

 ともすれば世界からダンジョン自体が失われる未来も見える。



「待てアレク、分かっている。しかしだなグラディウス殿、これは国家機密が絡んでいるのだ。おいそれと他国に話すわけにはいかん。持ち帰り国王陛下と協議の上で、また話したいと思う。ちなみにそちらから皇帝陛下個人へ連絡をとる事は可能なのか?」


「可能です」


「であるならば貴公らと皇帝陛下のみという形で秘密裡に教える事になるかもしれん。まぁ今のところ確約できないので申し訳ないがな」


「いえ、そういう事でしたらよくお考えになるべきでしょう。承知しました」



 こうしてエドワーズらと【覇道の方陣】の緊急会談は終わった。

 エドワーズはこの事をエジル国王へと報告、協議の結果、やはりダンジョンの内情を帝国側に話すのはとりあえず止めておこうという話しになった。


 もし話しとすれば、「ダンジョンはこういう方法でダンジョン魔力を稼ぎ、このように応用していますよ」「人の手で造れないようなすごい魔道具も造れますよ」「ダンジョンマスターを殺すにはこうすれば良いですよ」と教えるという事。


 皇帝がグラディウスの言うように真なる為政者であるならば秘匿してもらえば良いだろう。

 だが皇帝以外の耳に入ったら?実は皇帝が噂に聞くように悪政を布く者であったら?

 たちまち他のダンジョンは狙い撃ちされ、ダンジョンコアが悪の手に渡るだろう。

 そこから造り出される魔道具はどれだけ人を苦しめるのか。

 いや、造り出す為、魔力を確保する為にどれだけ人が死ぬ事になるのか。


 懸念が多すぎるのだ。

 だからこそ王国でもごく一部しか【百鬼夜行】の詳しい仕組みを理解していない。そう仕向ける必要があるのだ。



 後日、グラディウス経由で皇帝へと送られた密書には、王国側からの忠言として「今回の件に秘密裡のダンジョンが関わっている可能性あり、もし見つけても立ち入らない事を勧める」との旨が書かれていた。

 これに対する皇帝の反応は、グラディウス側には分からない。


 とりあえず依頼を継続とばかりに【覇道の方陣】はダンジョン【百鬼夜行】の探索を続ける。



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