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125:とある弦楽器の暗躍



 ダンジョンコアを手に入れた者はダンジョンマスターとなり、ダンジョンの作成・運営の知識を手に入れる。

 それはまさしく神の如き存在となる事が約束された神の宝玉。


 世界の各地に隠れるように存在するダンジョンコア。

 かつてそれを手にした者は、例外なくダンジョンを作成し、そこの主となった。

 知恵を持つ魔物、山中に身を潜める山賊、圧制から逃げた村人、迫害された種族。

 そのどれもが何らかの理由で辺境の危険地帯へ出向き、運よく隠された宝玉を手にした者たちだ。


 ある者は面白半分でダンジョンを造ってみる。

 ある者は逃げ延びる為の安住の地を求めてダンジョンを造る。

 ある者は理解できないながらも試しとばかりに与えられた知識を行使する。


 もちろんその全員がダンジョン運営を出来るとは限らない。

 好き勝手にダンジョン魔力を消費し、運営に難が出てどうにも身動きが取れなくなり、ダンジョンを放棄したり、誰かの探索――侵略を受けて命を落とす者も居た。

 ダンジョンを造ったものの思うように人が入らず、安住の地のはずが貧困に喘ぐ事になる場合もあった。設営場所が辺境なのだから人が全く寄り付かない事など多々あるものだ。

 マスターを失い、ダンジョンを失ったダンジョンコアは、また誰かの手に渡るまで辺境の地で眠り続ける。


 一方でダンジョン運営の成功者たち、思考能力・適応力・運に恵まれたマスターたちは誰一人として表に出ず、安住の地を守る為にダンジョンコアを保持し続けている。

 その多くが冒険者たちに″名前付き″で呼ばれるダンジョンだ。【奈落の祭壇】や【火焔窟】など冒険者・探索者が勝手に名付けたものだ。ダンジョンの管理者側が名前を公表した事例など、歴史上でどこかの一件しかない。



 さて、そんなどこかのダンジョンのせいでダンジョンコアの存在が明るみに出た。

 公表した当初は大半が訝しんでいたものの、それから数年、ビーツと【百鬼夜行】の存在感は増すばかり。徐々にではあるが他国にもそれは及んでいる。

 経済効果だけ見ても多くの貴族が目を付けるのに十分な信憑性があり、その多くが配下や冒険者にダンジョンコア入手を命じた。


 ……が、実際に見つけようと思って見つかるものではない。

 ダンジョンに攻め込んでコアを奪取しようと試みても有名どころのダンジョンの主は探索者の対処―――人殺しからの魔力奪取に慣れ過ぎている。それは最下層まで乗り込んでも同じことだ。


 ではダンジョン以外でコアを見つけようと思っても、それがどこにあるのか分からない。

 適当に辺境を探索して運が良ければ見つかるかもしれないが、辺境自体が危険極まりない。と言うか「ダンジョンコアは辺境にある」という事すら世間は知らない。まぁ誰かが動かしたダンジョンコアが辺境以外にあるという可能性もなくはないが……。


 ともかくダンジョンコアの入手を企む有力者たちは、宝探しを続けるものの、結果を出せずにいたのだ。



 ……しかし例外もある。



 その魔族は戦いに敗れ、国を追われた者だった。

 他国へと逃げ延びようと彷徨った先で偶然見つけたのがダンジョンコアだった。

 当時は【百鬼夜行】がまだ出来る前。その利用価値はコアから流れる知識の中にしかない。


 通常、コアを入手した者はその知識に圧倒され手にしたその場でダンジョンを作成する。

 が、その魔族は瞬時に計算を行い、その場にダンジョンを作成する事なく国からの逃亡を続行した。危機的状況下にあって冷静な判断。その魔族の智謀のなせる業である。


 その魔族は研究者だった。

 戦争の絶えなかった魔族領において軍事的な研究を主に行っていた。

 それは魔法について、魔物について、魔道具について、攻撃的で破壊的なものを模索し続けた。結果、国を追われる事態となったのだが魔族の研究熱は冷める事なく、ダンジョンコアの入手によってその研究は一気に加速する。


 とは言えダンジョンマスターとなっても独力で何かを為すのは不可能。

 研究をするにもダンジョン魔力が必要だ。一人でダンジョンに籠っていても探索者は来ないし、ダンジョン魔力も集まらない。研究の成果を得るという自己満足を満たす以前に、研究自体が出来ない。


 折しもその頃、ビーツの【百鬼夜行】がオープンした。

 誰もが嘘だと決めつける中、逸早くダンジョンに興味を示した貴族が居た。

 魔族がその貴族と接触できたのは偶然なのか運命なのかは分からない。

 異彩を放つ研究職のダンジョンマスターと、金と欲に塗れた貴族。二人は自然とお互いに利用価値を見出した。



 秘密裡のダンジョンで秘密裡の研究が始まる。

 ダンジョン魔力の糧となる人間はいくらでも居た。

 奴隷を買っても良し、犯罪者に刑を処すと引き込んでも良し、適当に拉致しても良し。

 人間以外の種族ならばそれこそ適当に拉致したところで何の問題もない。獣人の集落などあればこれ幸いと襲撃し、女子供・老人も含め全てをダンジョンにぶち込むだけだ。


 そんな事が出来る権力と金をその貴族は持っていた。


 かくして研究は進み、その取っ掛かりとして作成された魔道具は『人の身体の自由を奪い思い通りに操る魔道具』だった。

 隷属の首輪を模して造られたそれは一応の完成を見たが、既存の隷属をバージョンアップさせただけと魔族も貴族もいくらかの不満を覚えた。こんなものでは満足できないと。


 ならば人間よりも強力な魔物を操る術はないのか、と模索する事になる。

 数々の失敗作と無駄な魔力消費……人々の死の果てにそれは完成した。

 広範囲の魔物にまとめて命令を下せる術式を要した魔道具。

 いまだかつて誰も為しえなかった奇跡の魔道具。最悪の魔道具であった。





 帝都から少し離れたブザーマ侯爵領の領主館、まるで弦楽器のような髪と付け髭を蓄えた男が窓から夜を眺めていた。

 部屋の主、ザンパーニ・ホン・ブザーマ侯爵である。

 ワイングラスを片手に含み笑いをしながら眺める夜の先には自領の街並み。そして視界の届かないその方向の先には帝都がある。



「さあ、祭りの始まりだ」



 そう呟くと、ワイングラスを一口飲んだ。



 ―――その夜、帝都には五万の魔物が迫る事態となる。


 大陸の真逆にある王国にその報が伝えられるまで、幾日かの時間を要した。




管理層で働いている犬獣人マールを連れて来たのがマッケロイ・ホン・ブザーマさんでした。侯爵家の次男だったそうです。まぁだから何だという話しですがね。

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