124:とある三組の探索風景
「むっ!この匂いはオークの群れ!」
「よっしゃ俺が行くぜ!」
「競争だ!誰が一番狩るか!」
「上等!」
「ちょっと待つノハシーーっ!」
獣王国所属アダマンタイト級パーティー【白の足跡】は二九階層″黄昏の丘陵″を探索中。
魔物の気配を感知するやいなや走り出そうとした四人をヒョッコリは慌てて止めた。
「どうしたリーダー、トイレか?」
「近いな」
「さっきの安全地帯で出きってなかったか」
「違うノハシ!ついでにデリカシーがないノハシ!」
両手を上げて抗議するカモノハシの女獣人だったが両手を上げたところで巨躯の四名の胸元くらいしかない。
その手には【百鬼夜行】の詳細地図が握られている。露店で売られている中では高価なものだがアダマンタイト級という事もあり手にするのも容易い。
……というよりヒョッコリが安全第一の考えなので勝手に買ったのだ。
彼女はリーダーであり魔法使いである。最後尾から地図を眺めつつ指示を出して探索しているのだが、他の四人が脳筋バカなので勝手に行動する事も多々あった。
「魔物を見つけたら競争せずに報告するノハシ!それにヘキサエッジは斥候なんだから罠を警戒するノハシ!フロストンも盾戦士なんだから急いで近づく事ないノハシ!みんなパーティーなんだから全員で戦うノハシ!」
「「「「おお……」」」」
「地図によればそっちはボス部屋の方向じゃないノハシ。おまけに落とし穴の罠があるらしいノハシ。こっち方向にゆっくり進んで、それでもオークが寄って来るようなら全員で戦うノハシ!分かったノハシ!?」
「「「「おお……」」」」
年も離れ、体格も半分以下。唯一の女性でおまけに一人だけ極端に弱い。
しかしリーダーである。獣王国最強と言われるアダマンタイト級パーティーのリーダーなのである。
年齢だとか強さだとか考えずに、彼女は四人の強者に命令を出し続ける。
……そうしないと自分の身が危ないので。
ダンジョンで好き勝手に動かれるとパーティー全員の命が危ういのだ。勘弁して欲しいノハシ。
頼りになるリーダーの忠言に獅子の獣人ハウルガストが近寄った。
「それでリーダー……」
「ん?何ノハシ?」
「……『でりかしー』って何だ?」
「…………」
♦
「むっ!この気配はリザードマンの群れ!」
「よっしゃ僕が行くぜ!」
「競争ですかな!誰が一番狩るか!」
「上等じゃ!」
「ちょっと待って下さ~いっ!」
傭兵の国ロザリアから来た【黒竜旅団】は現在二二階層″凪の湖畔″を探索中。
魔物の気配を感知するやいなや走り出そうとした四人を最後尾の魔法使いレスティアが止めた。
「どうしたんじゃレスティア、トイレか?」
「近いですな」
「さっきの安全地帯で出きってなかったの?」
「違います!ついでにデリカシーがないです!」
魔物や罠を察知する斥候役は暗殺者の女性リーシュ。冒険者風の職種で言えば狩人か短剣使いとなるだろうか。
彼女の察知能力で走り出したのは刀剣士【剣聖】ローランド、拳闘士ラストーダ、大剣使いルーベンスの三人であった。どれも傭兵の為、あくまで冒険者風の職種である。
レスティアも含め、皆、それぞれ旅団を率いる団長であり、ローランド以外は次期武王を目される逸材たちである。
「皆さんが一斉に近づくと私の広範囲魔法の邪魔です!下がってて下さい!」
それがレスティアの言い分であった。
結局この五人、皆が皆「ガンガン行こうぜ」タイプである。
リーダーであり国主であるローランドが最もイケイケである為、そういう気質の者が集まるのだろう。
「「「えぇ~」」」
「却下じゃレスティア。儂、あれ、斬りたいし」
「えぇ~」
そんな物騒な会話を繰り広げながら進む【黒竜旅団】は″祭り組″の中で最も早い探索速度を見せていた。
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「なんと見事な森よの」
「全く」
イケイケパーティーとは正反対にゆっくりと歩を進める樹王国アダマンタイト級パーティー【不滅の大樹】は現在一二階層″朝露の森林″を探索中。
″ゆっくり″と言ってもその速度はさすがはアダマンタイト級と言うべき早さである。
斥候が警戒しながら森を先導し、他の者は周りを視認での警戒を張りながらも観光のごとく眺める余裕がある。
「見てみよ。木々に実花が付いておる。そして足元には茸や新芽。まるで樹王国の森のようではないか。ダンジョンとは思えぬ見事な森だ。だと言うのに鳥や羽虫が飛んでおらぬ。いかにして花を咲かせ実を付けたのか……なんとも不思議なものよ」
メンバー最年少のムッツォが目を輝かせながらそう語る。
【不滅の大樹】が以前に潜った他のダンジョン、その森階層ではこのような光景は見られなかった。
画一的な木の配置。ただ木を並べて「これは森ですよ」と言っているような不自然な森。そこに花や実が付く事などなく、採取品でもない普通の茸など生えるわけもない。あるとすれば人為的に設置された薬草系の植物のみだ。
だがここは違う。
木々の生え方一つとってみても、一本一本に個性があり、複雑に並んだ様子は地表でのそれと同じだ。日陰は苔むして、倒木は自然のまま放置されている。
「樹精霊ドリアード様がこのダンジョンの植生を担当しているらしいです。おそらくはここもドリアード様の御手によるものかと」
「ふむ、なるほど精霊様のかくも偉大な事よの。素晴らしい。ここもまた″聖地″であるか」
マーグリッドの話しに頷くムッツォ。
彼らが【百鬼夜行】へと来た最大の理由は″聖地巡礼″である。
水の大精霊ウンディーネの住処へと赴き、直に拝謁したい。その聖地を直に訪れたいという願いがあった。
ビーツに呼んでもらい拝謁するというのが簡単なのは分かっているが、出来ればこちらから出向きたいという意向である。
そしてマーグリッドとムッツォの言う通り、【百鬼夜行】に居る精霊はマモリだけではない。ドリアードのコダマも居る。
精霊信者からすれば大精霊は神の如き存在、精霊は日常に近しい敬うべき存在である。樹精霊も例外ではないし、森に囲まれた樹王国では尚の事、樹精霊ドリアードに対する敬愛が強い。
だからこそ【百鬼夜行】の森エリア全体がコダマによって管理されている以上、全ての森は樹精霊の加護を受けた場所。″聖地巡礼″に相応しいというわけだ。
「しかし、マーグリッドよ。余に敬語は止めよと言ったであろう。余は同じパーティーの一員。しかも新参ぞ?」
「……そうだったね。やれやれ、【百鬼夜行】はダンジョンとしては素晴らしいが、厄介な所も多い。ホントにね」
マーグリッドは大げさなポーズで首を左右に振った。
彼が気にしているのは″モニター″の存在。今こうして話している内容が観衆に晒されているかもしれない。
探索している本人にはそれが分からない。
年中監視されているような違和感。何とももどかしいものだ。
余計な事は喋らないほうが良い。
改めてそう心に楔を打ち、探索を続行した。
獣王国組が書いてて一番面白いんだけど一番弱そうなんだよなぁ……。
まあ実際パーティーリーダーが弱いんだけど。扱いに困るノハシ。




