123:とある【陣風】の出しゃばり解説
『【交差の氷雷】四〇階層突破ぁーっ!さすがに早い!ダンジョン挑戦から二〇日という早さで″石牢の迷宮″を突破しました!』
『さすがね~』
ポポルの声がモニターから響く。
連日、強力な探索者たちの戦いに湧く地上部で、観戦者たちの熱が衰える事はない。
この日の解説は従魔ではなくクローディア。
クローディアは結構な頻度で登場している。時に解説、時にポポルの代わりにゆるーい実況者として。おい貴族よ、仕事しろ。
『″祭り組″の挑戦が続く中、一歩先を行っているのが我ら王国が誇る【交差の氷雷】!他の追随を許しません!』
『まぁ″祭り組″の中で一番早く探索し始めたのが【交差の氷雷】だしね。それにパーティーの個性って言うか、「ガンガン行こうぜ!」ってのが【交差の氷雷】……いえ、スノウとサッズだけなんだけど……ソルトさん達も付き合うの大変よね』
建国祭から始まったアダマンタイト級や有力者たちのダンジョン挑戦。
一気に膨れ上がった強力探索者たちを称して″祭り組″と呼んでいた。
建国祭から今まで、それこそ祭りのように騒ぐ観客、アダマンタイト級が集まりすぎたフィーバー状態、だから彼らをまとめて″祭り組″だと。
『なるほど個性ですか。確かに【不滅の大樹】や【覇道の方陣】、世界一と目されるパーティーでもここまで早い探索はしていないですね』
『あの人たちは基本に忠実って言うか、経験を積んでいる分【百鬼夜行】の特性を調べながら進んでいる感じね。情報収集をしながら着実に進む。これを聞いてる若手冒険者たちはしっかり見たほうが良いわよ?私も参考になってるから』
『はぁ~そこはやはり世界一と呼ばれる所以でしょうか。……しかし【百鬼夜行】の特性ですか?』
『私はあんまり他のダンジョンに行った経験がないから聞いた話しも多いんだけど、ダンジョンってそれぞれ特徴があるじゃない?例えば【火焔窟】なら暑くて溶岩地帯が多いとか、【奈落の祭壇】なら五層毎に地形が変わるとか、罠や出る魔物の特徴も偏ってるとか』
『ええ、私も聞いた事があります。神聖国の【古の神殿】も全体が古代の神殿様式になっているとか、出る魔物もアンデッドが多いらしいですね』
『そうそう、それって全部ダンジョンマスターの趣味が反映されているわけでしょ?』
当たり前のように口にするクローディアであったが、【百鬼夜行】が出来る以前であれば考えもしなかった事だ。
【百鬼夜行】が出来て初めてダンジョンマスターという存在が明らかになったわけで、今も尚、各ダンジョンのマスターは判明していない。
ダンジョンが出来ている――運営されているとすればダンジョンマスターが居るのは最早確実。しかしその姿が見えない。それは果たして人間なのか、他人種なのか、知恵ある魔物なのかさえ分からない。
そしてその姿を暴こう、ダンジョンコアを奪取しようという動きは世界各地で起こっている。個人で、組織で、国で動いている。かつてはビーツの言葉を法螺話と決めつけていた連中もだ。
結果、未だにビーツ以外のダンジョンマスターは判明していない。ヴェーネスのように秘匿したまま確認されている例もあるかもしれないが、少なくとも公にはなっていない。
『つまり【不滅の大樹】も【覇道の方陣】もビーツ様の趣味……ダンジョンの造り方を調べながら進んでいると?』
『そうね。だけど苦労しているでしょうねぇ』
クローディアは笑いながら続ける。
『ここは一層毎に地形も魔物も変わるし、その都度ボス戦がある。その階層の傾向が次の階層に適用されない。魔物の偏りもない……って言うか、それこそビーツの趣味で多種多様な魔物が出て来るわ』
『確かに』
『おまけに魔物や野生生物の生息環境にも拘ってるから他のダンジョンに比べて生き生きとしている……血気盛んって言うか、地表の魔物の生態に近く、地表の魔物より好戦的な魔物になってるらしいわ』
『えっ、そうなんですか!?』
ポポルだけでなく観客たちも「そうなの!?」という声が上がる。
中には「ビーツ、余計な事すんじゃねえ!」という声もある。
『ま、モンスターマニアで百体も従魔にしている召喚士ならではの考えよね。他のダンジョンマスターが知れば異端な考えでしょうよ。ビーツの場合は探索者にも魔物にも気を遣うどっちつかずのダンジョンマスターだから』
『はぁ、まぁだからこそ″祭り組″も【百鬼夜行】の特性……ビーツ様の思考を把握するのに苦労するだろうと?』
『ダンジョン自体の造りに関してはその通りね。他にも罠に関してはビーツとモクレンが関わっているから画一的な造りをしていない。植生に関してはコダマに一任しているし、海に関してはコロモに任せているはずよ。このダンジョンはビーツ一人の趣向を把握したところで、その特性は測れない。スペシャリストたる従魔たちと共に造り上げているから経験者ほど難しく感じると思うわ』
なるほどな、と誰もが感心する。
言われてみればクローディアの言う通りで、当たり前の事を再確認させられた気分だ。
【百鬼夜行】はダンジョンマスター一人で造っているダンジョンではない。彼と百体の従魔が協力して造っているダンジョンなのだ。
『なるほど【不滅の大樹】や【覇道の方陣】の今後の進み方が気になるところです。……しかしそう考えると【混沌の饗宴】の探索速度は異常に早かったですね。″祭り組″で最も進んでいる【交差の氷雷】、いえ、それより低層ではありますが探索速度で言えばさらに早い【黒竜旅団】や【白の足跡】よりもだいぶ早かったと思います』
『あー、あの爺さんね……。さっさと帰ればいいんだけど……』
『あ、そう言えばクローディアさんは【剣聖】ローランドに指導を受けたと英雄譚で見ましたが【黒竜旅団】の面々ともお知り合いで……?』
『ノーコメント。あ、言っておくけどあの爺さん、私の師匠でも何でもないからね!ただ私も爺さんも刀使ってるだけだし!デュークに書かれたけどちょっと戦っただけだから!』
【覇央】グラディウスが″世界最強の冒険者″ならば、武王にして【剣聖】ローランドは″世界最強の剣豪″である。
聖典の世界一周編で【魔獣の聖刀】が傭兵の国ロザリアを訪れた事は書かれており、その中でクローディアとローランドが戦っただとか師事しただとかいう話しがあった。
そのせいでローランドがクローディアの師匠的な印象を読者に与えたのだが、クローディアは事実無根を訴えている。
『コホン、話しを戻すけど、【混沌の饗宴】の探索速度が異常に早かったのは偏に斥候が優秀だったからよ』
『というと【怠惰】のフェリクスですか』
『じゃなくてマンティコアのデイドね』
デイドはフェリクスの従魔なので召喚士的にはポポルの言い分で正しいのだが、あえてクローディアは訂正した。
そこまで強調するという事は、マンティコアの斥候能力がよほど優れているのか、実況を聞く人々の関心が集まる。
『うーんと、自慢話みたいになっちゃうけど【魔獣の聖刀】って狩人とか斥候役居ないでしょ?』
『ええ、魔法使い・召喚士・盾戦士兼回復術士・刀剣士ですからね』
『まぁビーツの従魔が居るから必要ないだろって言われればそれまでなんだけど、私たちは四人とも斥候能力を持ってるのよ。探索魔法以外の手段でね。あ、詳しくは言わないわよ、企業秘密だから』
探索魔法は闇属性に適正がなければ使えない。【魔獣の聖刀】で探索魔法が使えるのはアレクとビーツだけだ。
クローディアが言っているのは魔力探知であり、魔物が有する感知能力。それをオロチから教えてもらい実践しているのだが、普通の人間には理解不能なものなのでパーティー内での秘密としている。
それを聞く観客たちは「よほど目耳が良いのか」「気配で分かるんだな」「さすがはアダマンタイト」「さすが英雄」と思う者が大半だった。
『私はパーティーの中でも苦手なほうだけど、それでも例えばソロでここのダンジョンに潜ったとして、四九階層までは罠にかからず、魔物の奇襲も受けない自信があるわ』
『なっ!本当ですか!』
『まあね。あ、信じなくても良いわよ?どうせ法螺話だろって流しても良いし。で、オロチとかデイドとかの斥候能力って私の百倍かそれ以上あるのよ。どう?多少は分かりやすいかしら?』
『はあっ!?……コホン、すみません。いや、そうなるとそれは……』
『まぁいくら強い人間でも優れた能力を持つスペシャリストの魔物には敵わないってことよ。だから【混沌の饗宴】の探索速度が異常に早かったって事』
『いやぁ、すごいお話しを聞きました……』
モニター観戦をする人々、特に冒険者は良い話しを聞いたと盛り上がりを見せた。
……だがクローディアはビーツたちから「喋りすぎだ」と怒られたらしい。
……もちろん反省などしないらしい。
章タイトルの「祭」には色々な意味が込められてますね。
建国祭、強者続々新キャラ祭り、祭り組、盛り上がるダンジョン、それともう一つあります。
じきに分かりますけど。




