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121:とある最強冒険者の疑惑



「しかし面白えダンジョンだ。あの小僧も大概頭おかしいな」



 グラディウスは顔を歪ませながらそう言う。

 ダンジョン【百鬼夜行】については事前に下調べをした上で来ているし、初心者講習を受けたことでそれが正しいとも判明している。

 法螺話に近い噂が、実は真実であったと。

 前代未聞、最高難易度かつ娯楽性に溢れたダンジョン。転移と不死が適用された″生かす″ダンジョン。

 そんなものを考え運営しているダンジョンマスターは頭がおかしい。それはグラディウスとしては褒め言葉だ。



「その″小僧″の前に従魔たちと戦うんだろ?」

「従魔戦だっけ。たしか四九階層からのボス戦だよな」

「百体……いえ九八体からランダムらしいですけどね」

「例のドラゴンとあのスライム……クラビーだっけ?それ以外よね」



 ゴルウェイ、ゲーニッヒ、ガーネット、ギャラと続く。

 グラディウスも含め皆、アダマンタイト級だというのに力に溺れず情報収集を欠かしていない。

 このパーティー、口の悪さや態度の大きさが出る事はあっても基本的には″模範的冒険者″なのだ。だからこそ冒険者たちから″最強の冒険者″などと言われるのだ。



「オロチが強えってのは聞いてたが、あのスライムも大概だな」

「ははっ、ありゃ反則だ。あんなスライム居るのかっつー話し」

「オロチもそうだけどクラビーも分かってたっぽいね、グラディウスが殺す気ないって」


「そりゃあの小僧もだ。俺に殺気がないってのも分かってたし、仮にあっても『自分は絶対に死なない』ってツラだった。それがダンジョンマスターの力によるものか、従魔への信頼かは分からねえがな」



 ビーツとの初対面時に斬りかかったグラディウスの攻撃。

 キリルらが傍から見れば『完全に殺しにいった』攻撃ではあったが、当のグラディウスは殺す気がなかった。殺気も出さず威圧もせず、ただ最速で斬りかかった。

 それは敷地内攻撃無効のルールを確認する為、ダンジョンマスター・ビーツの実力と本質を見抜く為、挨拶代わりの意味合いが強い。仮に攻撃無効のルールが適用されずともビーツの皮膚に触れる一ミリ手前で寸止めするつもりだった。


 結果、ルールの確認は出来たものの、オロチとクラビーには反応され、ビーツには反応はされなかったが殺気がないのを見抜かれた。それはグラディウスの実力と本質の一端を見抜かれたに等しい。

 グラディウスからすれば一方的に見抜くつもりが、痛み分けになった形だ。

 実際、オロチたちも殺気がないと分かっていたから″お仕置き″もせず、ビーツの″お仕置き禁止″の指示に素直に従ったのだ。まぁそれでもビーツに攻撃を仕掛けたのは確かなので「千回殺す」と喧嘩を売ったわけだが。



「ダンジョン制覇の為にゃ、あいつら倒さないといけないんだよなぁ」

「ははっ!いいじゃねえか!小僧の前にドラゴンやら【三大妖】やら倒せって事だろ!面白え!最高だ!」

「機嫌いいねぇグラディウス」

「そうそう、頑張ってオロチ倒さないといけないからね」

「幼女趣味は大変だな」


「……あ?……なんだその幼女趣味ってのは」





 地下一〇一階、管理層の管制室。

 艦橋の上からモニターを眺めるアカハチと並び、ビーツと【三大妖】も共に居た。



「うわぁ、すごいなぁ!アダマンタイト級ばっかり!攻略も早い!こりゃ忙しくなるなぁ!」



 ミーハーなファン目線で有名冒険者たちをみつめるビーツの目は輝いている。

 より深層に近づくのは確実、従魔戦が増え従魔たちが忙しくなるのも確実。

 ダンジョンマスター的にはダンジョンの危機なのだが、ビーツはそんな事微塵も思わない。

 そんな事より従魔たちの担当のやりくりや、罠や宝箱、魔物の配置などなど未踏破階層の改造をどうしようかと考える事が多い。

 テーマパークの従業員・運営責任者的な思考で、探索者たちにどう楽しんでもらおうかと頭の中で妄想が膨らむ。


 そんな時、屋敷内ホールのベテラン冒険者たちの声が聞こえて来た。



『あ、そうそう、グラディウスと言えばよ「オロチが欲しい」って直訴したらしいな。召喚士であるビーツの前で』


『ああ、聞いたぜ。オロチのファンだったんだな。【覇道の方陣】のギャラとかガーネットが綺麗系だから、まさか幼女趣味とは思わなかったぜ』


『意外だよな。最強の冒険者がまさか幼女趣味だったなんて……』



 それを聞いた管制室はしばし無言となった。

 アカハチは何事もなかったかのように音声を別のモニター映像のものにした。

 ビーツは小声で「え……グラディウスさん……ロリコンだったの……」とショックを受けている。


 隣に居たオロチは無表情のまま「きもい」と一言残し影に消えた。


 その頃、自分が幼女趣味だと噂されている事をギャラから聞いたグラディウスは、最強の【覇央】らしからぬ何とも言えない表情をしていたという。





 王都を歩く緑鱗人の五人はとても目立つ。

 ただでさえ鱗人を王国で見る事が稀なのに、五人でぞろぞろと歩けば注目を浴びる。


 ズールルォたちもそれは承知していた。

 他国、それも人間の国で奇異の目を向けられるのは。

 しかし思っていたよりも厳しくないと感じていたのも事実である。

 もっと危険な目にあったり、怖がられたり、物を投げつけられたり、捕まえられて売られそうになったり、そんな想像を勝手にしていた。それはド田舎の人間が都会に行くイメージを数倍にしたものだ。


 ところが蓋を開ければすんなりと入都の手続きも出来たし、情報を集めようと思い誰かに話しかければ、相手は緊張の面持ちを見せるものの普通に答えてくれる。

 拍子抜けというよりは安堵の気持ちが強い。

 竜神国でただ一つだけある冒険者ギルドで仮登録していた甲斐があった。本業が守り役の為、鉄級や銅級のままだが。



 彼らはここまでの旅路同様に安めの宿をとり、改めて情報収集に精を出す。

 というか「冒険者だが」と言うだけで「おっ【百鬼夜行】に挑戦か、あそこはな~」と勝手に情報が入って来る。

 王都という人間の街にとってどれだけダンジョンが重要視されているか、民にどれだけ愛されているかがズールルォ達にも良く分かった。


 神竜様の情報についても集まったが、どうやら本当に人化する巨大な竜様……おそらく神竜様がビーツ・ボーエンの従魔とされているらしい。

 竜神国には召喚士が居ないので聞いた話しだが、召喚士が魔物を従魔にする際には、倒して屈服させ契約魔法を使うらしい。つまりビーツ・ボーエンは竜様を倒したという事だろう。


 敬われるべき竜様に攻撃を加えるのは失敬千万。

 しかし力の象徴たる竜様を打倒す事は武の誉れ。

 どちらが正しいかなど教義にはない。何せ実際に竜様と戦った歴史など緑鱗人の中にはないのだから。


 結局はビーツ・ボーエンと会い、神竜様の御言葉を聞き、その本意を知らねばなるまい。

 ズールルォたちは、こうしてダンジョン【百鬼夜行】へと訪れる。




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