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120:【百鬼夜行】と【覇道の方陣】



 庭園や屋敷のホール、モニターを眺めるのは超満員、溢れんばかりの人だかりである。

 ダンジョン【百鬼夜行】はかつてないほどの賑わいを見せていた。



『モニターをご覧の皆さん、お気付きでしょうか。わたくし、正直先ほどから興奮が収まりません』



 普段よりテンションの高い実況ポポル・ピオリムの声がモニターから流れる。

 かつて一枚のモニターに一番から六番カメラの映像を映していたものは、現在、横に二枚分つなげたような横長のモニターに拡大されている。

 左半分では一番カメラの映像を大々的に映し、音声も流す。

 右半分では四つに分かれ、二番から五番カメラの映像を音声なしで流していた。

 ビーツがなるべく観客が見やすいようにと配慮した結果だ。まぁこれもいずれ変わるのだろうが。



『一番モニターには我らが王国所属【交差の氷雷】!現在一七階層を順調に進んでおります!そして二番モニターには通商連合・海王国のアダマンタイト級パーティー【荒波の船出】!三番モニターには同じく通商連合・ドワーフ王国からアダマンタイト級パーティー【巨人の鉄槌】!四番モニターには樹王国アダマンタイト級パーティー【不滅の大樹】!そして五番モニターには来ました!最強の冒険者【覇央】グラディウスが率います帝国のアダマンタイト級パーティー【覇道の方陣】!』



 ポポルと同じように観客の盛り上がりが五月蠅いほどだ。

 まだ低い階層だと言うのにこうしてまとめて映されるというのは観客の需要に応えたもの。現在管制担当、アカハチの手腕である。

 現状の最深部、五二階を探索中の【天馬の翼】の立つ瀬がないが、これも仕方ない事だろう。



『なんとモニターに映っているだけで……二〇人のアダマンタイト級冒険者が居るのです!さらに加えて神聖国の【天衣の砦】!獣王国の【白の足跡】!傭兵の国ロザリアからは【黒竜旅団】も挑戦の意を示しています!かつてここまで強者が集まる事などあったでしょうか!今、ダンジョン【百鬼夜行】には世界で最も強者が集まっていると言っても過言ではありません!』



 実際には他にも通商連合の小国からも有力なパーティーが探索していたり、竜神国から守り役のズールルォらが来ているが、観客の一般人目線では有名とは言えない為、ポポルは除外しているようだ。

 それでも名を挙げただけでもものすごい面子が揃っていると感じる。

 一般客でさえ知っているような有名冒険者たちだ。ホールで見ている冒険者たちであれば尚更。

 彼らは時に戦い方の勉強の為に凝視し、時に一人のファンとして応援する。そして奮起する者もいれば、桁外れの実力に諦めて弱気になる者、身の丈にあった階層で頑張ろうと気を引き締める者、反応は千差万別だ。


 しかし五番モニターに【覇道の方陣】が映った事で、ベテラン冒険者たちの中でこんな声が囁かれている。



「あれ?【覇道の方陣】、普通に探索してるのか?」

「ああ、【覇央】がビーツに攻撃したって聞いたけどな。さすがに嘘か?」

「いや本当らしいぜ。てっきり″お仕置き″されて″退場″かと思ってたけど……」

「さすがに【覇道の方陣】はお仕置き出来ないんじゃねえか?」

「いかにビーツでも、か?そりゃそうか」



 今までビーツやギルド職員、ダンジョンに対して無礼を働いた輩は結構な確率で″ダンジョン未帰還者″となっている。通称″お仕置き″による″退場″である。

 これは初心者講習でも注意される事で探索者からすればダンジョン【百鬼夜行】の基本ルールのようなものだ。別にビーツが定めたわけではないし、ビーツが率先して″お仕置き″しているわけではないのだが。

 これまでにも冒険者だけでなく他国の貴族であっても″お仕置き″の対象となって来たのをベテラン冒険者たちはよく知っている。その目で見たわけではないが、経緯を知り、帰ってこないとなれば答えは一つだ。


 【覇央】グラディウスはビーツの首を目がけて剣を振るったと聞いた。実際に見た者からの証言だ。

 悪口を言っただけでも″お仕置き″の対象となる場合があるというのに、グラディウスは明確に殺そうとしたのだ。ダンジョンマスター本人を。

 従魔たちがビーツを敬愛している事をベテラン冒険者たちは知っている。今回の場合、従魔たちが勢揃いでグラディウスに襲い掛かってもおかしくはない。

 そう思っていたのに【覇道の方陣】は普通に探索しているのだ。

 おそらくビーツが従魔たちを止めたのだろう、それくらいしか想像できなかった。



「あ、そうそう、グラディウスと言えばよ―――」

「ああ、聞いたぜ。オロチの―――」





 【不滅の大樹】のリーダーエルフ、マーグリッドはグラディウスをこう評した。

 『とにかくガサツで自己中心的なやつさ。その上で理知的だからタチが悪い』と。


 横暴な戦闘狂、全てを力でねじ伏せる絶対強者。そんなイメージがグラディウスには常に付き纏う。

 実際にそうした面もあるし、そう見せている部分もある。

 だからマーグリッドが言った『ガサツ』『自己中心的』というのは多くの冒険者・一般人が抱えているイメージとほぼ等しい。



 地下一階を見回しながら悠々と歩く【覇道の方陣】。

 胸を張り先頭を行くのは、二本の大剣のうち一本を片手に持った【覇央(はおう)】グラディウス。

 もう一本はマントの中に差したままだ。


 グラディウスに並ぶように半歩下がって進むのは、狩人弓士【西方天弓(せいほうてんきゅう)】ゴルウェイ、長剣と盾を備えた【東方天剣(とうほうてんけん)】ゲーニッヒ。

 後方に魔法使い【北方天杖(ほっぽうてんじょう)】ガーネットと召喚士【南方天鞭(なんぽうてんべん)】ギャラが並ぶ。

 男性三人が前、女性二人が後ろだ。【覇道の方陣】の基本的な隊列である。



「どうだ?ゴルウェイ」

「看板の通り、″お試し″だな。今後に期待ってとこか」

「本番はこんなもんじゃないんだろうね」

「どうだかな。帰ったらもう一度詳細地図を見直してえな」



 グラディウスの問いに斥候役のゴルウェイが答えるが、ギャラにもグラディウスにも油断は見られない。地下一階の″チュートリアルステージ″でもだ。

 彼らは絶対強者でありながら、地下一階でもまっすぐボス部屋へ向かわず、左右のトラップお試しコーナーを見て回っていた。

 もちろんダンジョン自体が初挑戦というわけではない。それこそ帝国の有名ダンジョン【火焔窟】などに行った経験がある。

 【百鬼夜行】でどのような罠が使われているのか、そもそもどのような性質のダンジョンなのか、罠や造りからビーツの特徴を見抜くが如く見て回っている。


 『理知的だからタチが悪い』。マーグリッドがそう言うのは正しい。

 ただ傲慢に力を振るい、ガサツで自己中心的な活動をしていただけでは『最強の冒険者』など言われない。

 事実、彼らは当然のように初心者講習を受け、露店で詳細地図や出来る限りの情報を買い、こうして″チュートリアルステージ″を真面目に攻略している。

 傲慢でガサツな戦闘狂ではない。

 外面の一部がそれであって、内面は極めて理知的。ダンジョン攻略に当たって油断も慢心もない。そしてそれはパーティーメンバーにあっても同じだった。


 【覇道の方陣】に一切の油断なし。

 その様子は観ている全ての者に徐々にではあるが浸透していく。




覇道の方陣は「ガ行」縛り。

ガーネット、ギャラ、グラディウス、ゲーニッヒ、ゴルウェイ。

中央の覇王と四方天の四人で「方陣」です。

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