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119:傭兵の国の【黒竜旅団】



 傭兵の国『ロザリア』。

 大陸南東部に位置し、西部を帝国と隣接する。

 北部は山脈によって阻まれ際しい山道を抜けた先は竜神国や樹王国と接する。


 国土の大半が砂漠。または山脈近くの辺境の森という事もあり、人が生活するのには適していないと言わざるを得ない。

 そんな中で暮らすロザリアの民は常に武力でもって砂漠や森の魔物と対峙する必要がある。必然、武力に傾倒する。

 農業にも適しておらず外貨を得る為に武力を売る。


 もともと武王と呼ばれた強者が流れ着いた地であり、その経緯・歴史を考えればまともな国運営というよりは武力によって纏まった集団と言えるだろう。

 つまりは『傭兵の国』と呼ばれる所以である。



 頑強な石壁で造られた外壁に囲われたロザリアの首都。いや、国の中枢と言うには規模が小さい街レベルの首都。

 その中で最も高い砦のような造りの城に、この国の長″武王″が居た。

 玉座の間のように家臣を集める空間でありながら玉座……椅子などなく、ただの広間に絨毯が布かれただけといった簡素さ。

 そこで大の字に寝ている白髪の男性……現・武王である。



「暇じゃのう……斬りたいのう、人……」



 すでに色々とおかしい。

 王が大の字に寝て暇だと言う。これが王国であれば仕事しろと言われそうなものだ。

 おまけに暇だから人を斬りたいと言う。ちょっと意味が分からない。



「戦争でも起こらんかのう……」



 一国の長にあるまじき発言である。

 その横の折り畳み式のテーブルでもくもくと書類の処理をしていた文官が目も向けずに告げる。

 ちなみにこの評定の間は王が寝る場所でも文官が書類仕事をする場所でもない。

 王がここに居るからしょうがなく文官がこの場で書類仕事をしているだけだ。



「馬鹿な事言わないで下さい。帝国と魔族領の戦争はとっくに終わりました。今は小競り合いだけで武王が出るまでもありません。いくつかの旅団を派遣するだけで精一杯の規模ですよ」


「はぁ~儂も戦いたいのう……」



 数年前、魔族との確執があった頃は国内ほぼ全ての傭兵団が帝国へと派遣され、それはロザリアにとって多大な恩恵をもたらせた。

 金銭的にもそうだし戦闘意欲が高い連中が集まる傭兵団にあって精神的にも高揚する期間。傭兵フィーバーである。

 しかしその戦争はもう終わった。

 今は冒険者のように魔物や用心棒的な立ち位置での仕事が多い。


 もともと厳しい土地で生きる為に武を磨いてきた彼らだが、対魔物の前に幼少の頃から対人で武を磨くものだ。自然と対人戦に強くなる。

 だからこそ戦争で重用され、傭兵団としても嬉々と参加していたのだが、今となってはその武を振るう機会がない。



「儂、引退しようかのう……」



 そんな呟きに反応したのは離れて筋トレをしていた男性だ。文官も続く。

 ちなみに評定の間は筋トレして良い場所ではない。いくら国の重鎮であろうともだ。



「おっ、陛下、ついに引退ですかな?」


「英断ですね。次はちゃんと働いてくれる人をお願いします」


「お前らやけに楽しそうじゃのう」



 二人が乗ってきたので若干身体を起こしジト目になるが、二人とも物ともしない。

 老人がジト目になったところで可愛げもないのだ。


 ……しかし自分で言ったものの、よく考えてみれば世代交代もアリなのでは?と武王ローランドは思い直す。

 武王という立場だから小規模な戦いの場に赴けないのであって、一個人、一人の武人としてならばいくらでも戦えるだろう。斬れるだろう、人。

 ならばどうするか……。



「ん?もしかして結構本気ですかな?次期武王は私、白竜旅団長のラストーダですかな!ガッハッハッハ!」


「筋トレ馬鹿は絶対にやめて下さい。青竜旅団長のルーベンスさんか赤竜旅団長のリーシュさんの方がマシです」



 ロザリアの傭兵団はいくつもの旅団によって構成されている。

 その団長には国有数の実力者……武王ローランドに認められた猛者のみが立つ事を許される。

 旅団によって得意なものが異なるものの、一つの旅団で人なり魔物なりを相手取れるよう極端な構成にはしていない。例えば『〇竜旅団は近接物理の脳筋ばかり』といった事はないが、団長の好みに左右されているのも事実である。


 その旅団の中でロザリア最強と言われるのが武王ローランド自ら率いる黒竜旅団である。

 戦争においては血の雨を降らせ、立ちはだかる全てを切り裂くと言われた傭兵団。

 他国に悪名を轟かせ、震え上がらせた黒竜旅団。

 もちろんその先頭に立って血の雨を降らせていたのは他でもないローランドである。



「うーん、どうしよっかのう……」



 食べたいパンでも選ぶように後継者に悩むローランド。

 ラストーダもルーベンスもリーシュも武王となるべき力は持っているが今一物足りない。

 かと言って他の誰がと言われてもそれ以上に物足りない。

 やはり団長たちから選ぶのが筋ではあるが、果たしてどの旅団にするか……。



「あっ、そういえば【百鬼夜行】の話しがあったのう。【白爪】が敗れたとか、ドラゴンが出て来たとか」


「ありましたなぁ!眉唾物の噂話ですかな!」


「いえ、信憑性は高いらしいですよ。ああ、そこで″武″を見極めるという事ですか?……ひょっとして武王自ら行くつもりですか?」


「儂が直接見んでどうする。ラストーダ、ルーベンス、リーシュ……それとレスティアも連れて行こうかのう」



 そう言うローランドの顔は戦いに出向ける事への喜びに満ちていた。

 せめて面目上の後継者選びはちゃんとして欲しい。文官はそう思い嘆息している。

 一方、指名されたラストーダは笑いと共に筋トレの速度が上がっていた。



「あっ、それにあそこにはクローディアがおるのう!久々に会うとしよう!……ん?クロちゃんに武王を任せるのも良いのう……」


「大賛成です」



 文官は即答した。


 その頃、王都のとある道場で一人の女性に謎の悪寒が襲っていたという。




黒竜旅団は「ラ行」縛り。

ラストーダ、リーシュ、ルーベンス、レスティア、ローランド。

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